第7話

「さぁ、命が惜しいならそこにいるモンスターをこっちに渡してもらおうか♪」


俺たち3人に向け、群れのリーダーらしきゴブリンがそう言い放った。

…つまりこいつらは、俺の隣に立つフォーリットになにかの用があるらしい。


「なぜだ?フォーリットを手に入れて何をするつもりだ?」


まず向こうの動機を知りたかった俺は、ひとまず話し合いでの解決を試みる。

するとその意図は向こうも理解してくれたようで、俺に対してこう言葉を返してきた。


「なぜかだって?そんなの決まってるだろう、それはこの洞窟の”キング”がそれを望まれているからだ。お前たちが我々に従うも従わないも自由だが、キングに逆らうといことはすなわち死を意味すると心得た方がいいぞ?」


”キング”からの命令である、このゴブリンは確かにそう言った。

それはつまり、俺たちを囲うこの計画を立てたのはこのゴブリンではなく、こいつよりもさらに上にいるゴブリンということになるか。

…なるほど、初期ダンジョンなどと揶揄されるこんな洞窟の中にも、ゴブリンたちからなるヒエラルキーというものがあるらしい。


「…ラーク、キングってどんなやつなんだ?なにか聞いたことあるか?」

「会ったことはないが、名前は聞いたことがある。…この洞窟に生まれたゴブリンは 皆ひ弱で名前を持たないが、そいつだけは例外で、あまりの実力ゆえに”キング”などと呼ばれて崇拝すうはいされているのだ、とな」

「へぇ…。キングねぇ…」


ラークの教えてくれたその話を聞いて、俺はこの洞窟の事をより一層興味深く感じた。

どうやらここに住まうゴブリンたちは、俺が思っている以上に人間臭いらしい…。

そしてラークが話を終えたとほとんど同時に、リーダーゴブリンが再び俺に言葉を駆けてきた。


「さぁ、どうするんだ?なんならそのモンスターを引き渡したら、引き換えにお前たちの事を我々の仲間に入れるようキングに取り計らってやってもいいぞ?」

「仲間に?」

「…お前、まだここに生まれて間もないらしいな……ならこの場ではっきりと真実を告げてやろう。お前はまぐれで数体のゴブリンを倒したらしいが、キングはなんと……その手で直接勇者を倒したお方なのだ!」


…こいつは相当に”キング”なるゴブリンに心酔しているようで、その両手を大きく広げながら高らかにそう言葉を発した。

…が、その言葉にはやや間違いが含まれている。


「(俺が倒した相手をゴブリンだと勘違いしているのか…。俺が相手をした4人ともが勇者だったとは、キングの事を崇拝するこいつには信じられなかったようだな…)」

「お、おいツカサ!こうなっては仕方がない!俺だって内心じゃ嫌なんだが、もうフォーリットを渡して仲間に入れてもらおう!長い物には巻かれろって言うじゃないか!」


ラークは俺の肩を抱きながら、小さな声でそう言葉を発してきた。

…その真横ではフォーリットがジト目を浮かべてラークの事を見つめており、その視線は非常に鋭くラークの心を突き刺す…。


「ラーク、軟弱」

「う、うるさい!仕方ないだろ!いくらツカサが強いって言っても、さすがにこの数を相手にするのは分が悪すぎる!ツカサ、お前だって分かるだろう?」

「はっはっは!早速仲間割れか??まぁこの現実を前にしたらそうなるのも仕方がないが、お前たちに付き合ってやれる時間はあまりないぞ?さぁさっさと決めろ」


相変わらずニヤニヤとした表情を浮かべながら、得意げにそう言葉を発するゴブリン。

…フォーリットを渡して手を組むつもりも、戦うつもりもない俺は、自分の思いをそのまま正直に口にすることにした。


「この子を渡すつもりはないぜ。かといってお前たちを倒すつもりもない。そこをどいてもらえるとありがたいんだが?」

「お、おいツカサ!お前ってやつは!」

「あーあ…。お前、この状況における最悪の選択をしてしまったなぁ…。まぁどの選択もどうせ先の短いゴブリンの運命であることに変わりはないが、もう少し賢い方がマシな人生を送れただろうなぁ…」


ゴブリンは残念そうな、それでいて愚か者を見るような哀れな表情を浮かべると、俺たちの周りに陣取るゴブリンたちに何らかの合図を送る。

その合図を受け取ったゴブリンたちは、各々が戦闘に移るための態勢を取りはじめ、周囲の緊張感は一気に高まる。


「あー…。これで死んだらお前の事一生恨んでやるからな…」

「どうせ先が短くないから好き勝手やりたいって言ったのはお前の方だろうに…」

「う、うるせぇ!」


…その時、攻撃態勢をとっていた周囲のゴブリンたちに向け、短くも明快な指示が贈られた。


「やれ」


リーダーゴブリンのその掛け声と同時に、周囲のゴブリンたちはいっせいに俺たちの方に向かって駆け出したのだった。

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