第5話

「お!いたいた!あいつが今ひそかに話題になってる、初期ダンジョンに現れる激レアモンスターだろ?こんな簡単に見つかるとはラッキー♪」

「弱そうなゴブリンが両脇を固めてるが、俺たちに見つかったのが運の尽きだったな!ついでに経験値まで得られそうで一石二鳥♪」

「バカ言え、ゴブリン倒して得られる経験値なんて知れてるだろうが…」

「別に良いじゃないか。得られるに越したことはないぞ?」


現れた二人の勇者は、俺たちの存在など関係ないと言わんばかりに、完全に自分たちの勝利を信じて疑っていないような雰囲気でそう会話を行った。


「クックック、最近の勇者は身の程知らずだねぇ…。まともに冒険したことも、敵を倒したこともないひよっこのくせによぉ~♪」

「「…はぁ?」」

「ひっ!!!!」


…二人を前に調子のいいことを言っていたラーク、二人の勇者から睨み返された途端、一瞬のうちに俺の背中の陰に隠れ、勇者たちから視線を切る…。


「か、隠れるくらいなら挑発なんてするなよ…」

「わ、悪かったって…。ちょ、ちょっとあのムカつく長い鼻をへし折ってやりたくなって…」


ラークはやや涙目になりながら、か細い声でそう言った。

そしてそんなラークの後ろにフォーリットが一瞬のうちに移動し、俺は二人の盾のような見た目にされる形となる…。


「なんだなんだ?仲間同士でもめてんのか?」

「どうせここで二人と仕留められるっていうのに、往生際の悪いやつらだねぇ…。もし俺がゴブリンだったら素直に勇者様の経験値になるがなぁ…」


どこまでも余裕の表情を崩さない二人はそう会話を行いつつ、自身が持つ武器をそれぞれ俺たちの方に向けて構える。

一方は大きな大剣、一方は小刀だ。


「…さて、じゃあとっとと片付けるとしますか」

「俺が二匹分の経験値を持って行っても文句言うなよ?」

「別にいいさ。そこのレアモンスターさえ確保できればなっ!」


その言葉と同時に、二人の勇者は俺たちの喉元をめがけて駆けだした。

二人の勇者はついさっき俺たちが戦った勇者よりもレベルが少し高いらしく、動きが前の二人よりも俊敏であった。


「…ラーク、二人の長い鼻を折りたいんだったな?お前にも少しは役に立たせてやるよっ!」

「は、はぁっ!?!?」


俺はそんなラークの体を背中越しにつかみ上げると、そのまま真上に向かって全力で投げだした。

この場所では洞窟天井までの高さは数メートルほどしかないため、投げ上げられたラークの体は瞬時に天井に突き刺さり、それを衝撃にして同時に無数の岩の破片や粉塵ふんじんがあたり一帯にまき散らされ、洞窟の中であることも相まって視界は一気に不良となる。

それはまるで小岩の振る大雨のような状況だった。


「な、なんだっ!?」

「いてっ!!い、いったん戻れっ!!」


意表を突かれた様子の二人はとっさにそのまま引き下がろうとしたものの、俺はその一瞬を読んで粉塵の中に突入し、その勢いのままに二人の勇者の前に自分の姿をさらけ出す。

おそらく向こうからは、一瞬のうちに小岩の雨が降り始め、さらに一瞬のうちにそこから俺が出現してきたように見えたことだろう。


「し、しまっ!!!!」

「ま、まずっ!!!!」


二人の目が俺の姿をとらえたのもつかの間、俺はさっき戦った勇者からしれっと拝借はいしゃくしておいた刀剣を盛大に振りかざし、そのまま一人目の勇者を全力で切りつけた。

そしてそのまま刀剣の持ち方を逆手持ちに切り替え、もう一人の勇者の腹部を正面から思い切り突き上げる。


勝敗はその一瞬で決した。


「…お、俺たちもしかして……入るダンジョン間違えた?ここって難関ダンジョンだった?」

「んなわけねぇだろ!!く、くそっ!!!くそっ!!!」


俺の攻撃を受けた二人の勇者は、おそらくそのダメージにより体力がゼロになったのであろう、先ほどの二人と同じようにその体がじわじわと光に包まれていき、最後には霧のように空中に消えていった。

そして俺の体には二人の持っていた経験値が流れ込み、体がふわっと浮き上がるような不思議な感覚が全身に駆け巡る…。


その後、俺がすべての経験値を体の中に取り込み終わった段階で、天井に突き刺さっていたラークの体が俺たちのもとに落下した。


「ありがとうラーク、お前のおかげで助かったよ。お前もむかつく勇者を倒せて本望だろう?」

「…い、いってぇし、なんか納得いかねぇ…。良い所は全部お前が持ってってるじゃねぇかっ!」

「当たり前だろ。俺はおいしい所しか好きじゃないんだ」

「ちょ、調子に乗りやがって!!」

「お、おいやめろやめろ!!」


ラークはそう言葉を発すると、その勢いのままに俺の体にのしかかって体をくすぐりはじめる。

それに抵抗しようとする俺だったものの、意外にラークのくすぐり攻撃が体に刺さり、なかなか上手に反撃ができず、しばらくラークのいいようにくすぐり続けられてしまう。

まるで日本の男子中学生のようなじゃれつきを繰り広げていた俺たちだったものの、そんな光景を隣で見ていたフォーリットがその頬を少し緩ませ…。



「クス…」



…それまで笑顔など一切見せていなかった彼女が、ほんの少しではあるが初めて笑顔を見せた。

それには俺もラークも同時に気づき、彼女に笑われていることに気づいた途端、俺たちは急に自分たちの姿がなんだか恥ずかしく感じられ始め、そのまま体を離してじゃれつきを終えたのだった。


「コホン…。それで、これからどうするんだツカサ?」


ラークは姿勢を正すと、改めて俺に向けてそう言葉を発した。

俺はその言葉になんと返事をするか少し迷ったものの、どうせならと思い、ラークに加えてフォーリットの方も一緒に抱き寄せ、二人に対してこう言った。


「フォーリットを捨てたろくでもない勇者を探し出してこらしめて、ついでにゴブリンが人気も実力も最下級なこの世界を、派手にひっくり返してやろうと思う!どうだ!」


俺たちは3人とも、身長もほとんど変わらず、見た目もそこまで大きくは変わらない。

ゆえに人間から見れば子どものような存在に見え、決して人から恐れられたりおびえられたりされるような姿ではないだろう。

だからこそ俺たちがこの世界で成り上がった時、多くの人々の、特に勇者たちの度肝を抜くことができるはずなのだ。

そしてそれは、前世で人間への不信感をため込んだ俺にとってのやりたいことでもあった。


「大きく出たねぇ…。さて、それが実現するのはいつになるやら…」

「うん、悪くない」


俺の言葉を聞いて、ラークはやれやれといった表情を、フォーリットはまんざらでもないような表情をそれぞれ浮かべた。

そんな二人の反応が俺には非常にうれしく感じられ、抱き寄せる二人への力をより一層強いものとした。


「いだいいだいいだい!!」

「い、いたい…」


…そんな俺たちの姿を、洞窟の岩場の陰から見つめる不審な目つきがあったことに、この時の俺たちは気付かなかった…。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る