第四話[広い世界]

 なるほど、この世界は広いことです。狭くとも、広くとも見るもの次第。

 私はこの街周辺しか見られていません。

 この街の特産といえるものも多かったでしょう。しかし、それだけではありません。世界全体で発展した文化・技術、他の遠い場所近い場所から移入してきた食べ物・建材、その他のもの。何気なく見ている街並みには、世界が広いからこそのものが沢山ありました。街一つに世界が詰まっています。そして、世界各地には違う世界の見え方があることでしょう。私自身の世界の見方もあれば、他の人々の世界の見え方だってあります。世界は広いのです。きっと、他の街にも他の街なりの世界の見え方があるのでしょう。

 気分転換に空を飛んでいます。広いです。街は遠くまで途切れることなく広がり、一方で森も遠くまで途切れることなく広がります。建物は住居から商業用から、高いものから低いものまで多様であり、森は奥に行くほど生い茂っているような気がします。


「この世界の創造主で、人間の見た目をしていて、何でもできてしまう超越的存在の私は、国にとってどの様に思われるのでしょうか」


 ふとそう思いました。立派な行政の建物が見えましたもので……。


 私がこれからどうするか選択肢は文字通り無限にあります。突然大量虐殺を働くのも、神として降臨するのも、預言を与えるのも……聖書の謎さはよく理解していますのでやりませんが……創造主を祀ったり信仰したりする社や、権力のあるところに私という神が降臨したということを伝えるべきなのかもしれませんね。

 何せ、人の形をした人でないものですから、私は。私を人と定義した上で、法律を遵守しようとする気持くらいはありますが、必ずしも守って過ごそうとも思いません。それに、神としてはやることは山積み? なのでしょうか? 人間に安息を与え、安心させる役割もある私の責任も大きそうですよね。となれば、さっそくこの街を統治し権力を及ぼしている国家の元首に会いにいきましょうかね。

 とはいいつつ、優遇したされた問題が起きるのも良くはないですし、全世界の国に行きましょう。ただ、国際問題や政治はとかは知るところではありませんし、普段の生活で邪魔されることのないよう、ただし何かあればどうにかするように指示するためにも行きましょうか。


 テレポートも趣がないので、やはりそのまま飛びながら考えます。この世界において、森の存在は何か超越的な存在がいること、それを指し示している証拠として広く知られており、それが神だとか想像主だとかいろいろなことが言われ信仰されています。

 まぁ、創造主とかを信じなくても信じていても、森の超越者を名乗れば一発なので問題ではないですが、真実には自分たちでたどり着いてほしいような気もしますね。いや、でも存在自体が研究対象ともいえますし、嘘をついたり無駄に隠したりする必要もありませんね。政治家さんは調整頑張ってくださいね。あまり、人間同士の支配に関する問題に私が何か心を傾けたりはしませんよ。


 そして、まずはお城に着きます。王国であるようで、似たシステムのちょっと(大分)違う感じで、まぁ、王国です。前世日本が皇国であり、王国とは王族や皇族という血によって繋がるようで、家系を繋ぐのと、初代天皇の男系を繋ぐのとで違うシステムであったりするようなものです(大雑把でいい加減な説明ですが)。まぁ、元首に会えば後はなんとかなってくれるのでいいのですが。


 きっと、なんだ、何が起きたのだと皆が思っていることでしょう。

 元首と大臣と、そういった人たちが会議をしている最中さなかでした。国会とかではないてすね。政府や内閣や御前会議といった中でした。

 突如私が現れたのですから。

 中にまで入られると思っていないがために、警備(この世界に悪意はありませんが、別の問題などもありますし)が居るのは外側であり、どうしたらよいか迷っているようです。とりあえず、ここの人以外に知られたら困るので封鎖していますし、私も私と分からないように、神としての私として在ります。


「困惑する気持ちは分かりますが、私が感知するところでもありませんし、私の言葉を飲み込んでください。私は所謂森の主とか創造主とかいう存在ですね。取り敢えず、代表者、元首とお話したいのでいいですかね?」


 この場に居る人は、呆然としていることです。それに、どう対応したらよいのか、言葉は真実か、どのようにこの言葉を飲み込めばよいのか……。しかし、圧倒的なる私のオーラによって黙り込みます。

 しかし、名指しされた元首だけは、すぐに冷静に返答をします。流石、帝王教育とか、元首としての在り方の賜物ですね。


「は、はい。かしこまりました、創造主様……」


 創造主という役割と、中々使われることのない上への敬称の「様」。元首が使うことは更にないでしょう。だからこそ、本能で私が絶対者だと理解したのでしょう。


 城を歩き、部屋を移動します。その間、元首の隣を歩き、すれ違う使用人やら、なんやら、固まっています。

 普通隣を誰かが歩くことがないのに、歩いていること。誰だか分からないこと。しかし、圧倒的なオーラがあること。何がどうなっているのかが分からないでしょう。ただただ固まるばかりですし、声を発しようとする前には、元首が「大切な客人である」と止めます。


 さて、元首と私と、二人が、二人だけが向い合って話し合える部屋に来ます。


 無言。


「この国の、トゥオールの元首で、現国王の、ツァンドラと申します、創造主様」


 五十歳くらいの壮麗なおばあさまです。その人自身オーラがありますし、立派ですが、冷や汗をかいているようにみえます。


「私は皆様にとっての創造主です。最近というか、昨日のことですけれど、体を作って受肉をしたので、知らせた方がいいのかなということで知らせに来ました」


 今、ツァンドラさんの中ではとても早く思考が流れています。なぜ伝えに来たのか。その「なぜ」はないかもしれないが、どのような対応をするべきか、どのような対応を望まれているのか、知らせた方がいいかな、と仰られるくらいなので、本当にただ知らせに来ただけなのか……恐れ多くも、交渉などが効くお方でもないし、心もきっと手に取るように分かっておられるのだろうか、と。

 また、言葉遣いは大丈夫だろうか、創造主様の前にいることのできる私は幸運でもあるとか、私は全ての責任をもって対応しなければならない重大な問題に直面しているのだといった心の揺れもあります。


「御足労の上、我が国において大変重要かつ、我が国、ひいては世界にとっての慶事の報せとなる事を、創造主様、御自らによって、私がその言を預からせていただくことができて、感謝の念に堪えません。つきまして、創造主様におかれまして、どのようなる事を御望みになられておられるのでしょうか」


 伝わりづらいので堅苦しい言葉をやめてほしいのが第一ですかね。分からないわけでもないですが、賞賛される気もありません。まぁ、神様ですものね。心に留めておきましょう。


「と言っても、作った時の理想が実現できているようで、特にこうしろああしろ言うつもりはないのですけれどね」

「左様で御座いますか……」


 目の前の王様は安堵します。理想が実現できているという言葉は何よりも救いとなるはずですから。


 その次にお願いすることですか……。

 まだ、この国にしかこのことを伝えてはいませんし、発表などが変な形で伝わったりしても嫌ですね。


「世界には様々な権力と、それと同じくらいの数の支配者が居ますけれど、単に森から出て一番近かった街がこの国でしたから、この国に最初に顔を出すことにしました。なので、貴方にこのこと、私が居ることを伝えるのが最初である、ということは言うことにしましょう。政治に私は関知するつもりはありませんが、これから日数をかけて各国を巡りますから、その前触れとかをしてくださればよいですね」

「……各国への通達と、御言葉については、畏まりました」

「そして、私は自由が必要で、世界を見て回りますし、今は認識について妨害をしていて、普段の生活において、普通の人に紛れて自由に暮らしますから、その詮索とか邪魔とか監視護衛その他一切の権力の介入をしないでくださいね。その上で、この国が正式に、人間である私の身元を法的に保證して、私が誰かを隠すか、私が誰であるかという記憶などを消したりすることを受け入れると保證してほしいですね」

「畏まりました」

「例えば権能を使えば一発ですけれど、貴方達にうらみも何もあろうはずがありませんからね」


 畏まりましたBOTになった王様です。そして、畏怖を私に感じる王様です。全てを超越された方だと思っているようです。


「私に関して発表していいことは、そうですね……私が人間として現れたこと、私が自由に人間として旅をしたいと言っていること、全ての公権力を挙げてその身元を保証し、ただの一般人と同じであることを保障したということでしょうかね。他の情報は許可を取るか、一切言わないでくださいね。後、外交問題とかは知らないのですけれど、私が全ての国を訪れたあとで連携して発表した方がいいと思いますよ。問題を起こされて困るのは私ですからね」


 冷静にすべきことを整理しているようです。が、私はもう長居しなくてもいいかなと思います。


「人間としての私はミーアという名前でお願いしますね。あと、お知らせがあれば森の近くの動物に渡してくれれば読みますので」


 もういいかなと思い、ぱっとテレポートして脱出しました。してほしいことを書いた紙を置いて。

 一方で、王様は、緊急の会議をひらくと走っていきましたね。しっかりすることをしてほしいものですよ、わざわざ行く必要が必ずしもないのにも関わらず行ったからには。



  ◆◆◆◆◆



 私が去った後、元首ツァンドラはぐったりしていました。

 私の言葉を反芻し、すべきことを冷静に、どうするべきかと考えています。また、私に不敬がなかったかなど。

 きっと、大丈夫だろうと、国は大丈夫だろうと思っているようです。大丈夫ですよ、何もしませんし。


「まず、大臣には、各国へ創造主様が降臨されたことを極秘に通達することと、訪れるだろうことと、人間としての創造主様の身分、ミーアとしての身分を用意すること、か」


 歩いて、先程の会議の部屋に行きました。


「陛下、創造主様はなんと言われたのでしょうか……」


 すると、元首は私の紙を出します。


「これから話すことは極秘事項である。時機を見、外交上、創造主様の行われる事に応じて動け。これから、創造主様は、各国元首へ数日かけて会いに行かれる、我が国は最初でありそのような通達がなかったが、我々には事前に全ての国にそれを通達する義務がある! 各国には、創造主様が人間に受肉され降臨されたこと、創造主様が各国に訪れること、それはまだ公表してはならないことだと通達せよ」


 一つ目のすべき事を伝え、一息置きます。


「二つ目であるが、創造主様は、人間として受肉された。人間としての身分を御望みである。そして、単なる人間として、公権力に邪魔されることなく世界を見ることを御望みだ! 極秘にミーアという名前の身分を作れ! そして、それを決して公表をすることなく、作り出した身分だという証拠をなくし、人間としての創造主様を人間として扱え!」


 とりあえず、必要なことを言うと、大臣たちはそれぞれ話し合いを始めました。この中で、外務大臣(仮)は、書簡の制作に移り、総務大臣(仮)は、人を一人作り出すことにしました。後は、身分でなくその賢さによって対応を話し合います。


 まぁ、この様子だと大丈夫そうですね。

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自作世界旅行 叶斗 @azumanyan

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