第三話[日の跨ぎ]

 夜の街は輝いていて、これからが本番だというようにも思えます。

 一方で、夜空がとても綺麗に見えます。街の明かりに消されることなく、天球に満遍なく星が輝いています。


 美しいですね。

 本当に、綺麗な景色だと思います。

 ただただ純粋に、綺麗です。


 旅の醍醐味には、あらゆるところで見られる景色もその一つに入ります。

 リアちゃんと出会った所に行き、森の方を見ると、それの背景には夜空が大きく見え、とても壮大なものを想起させてくれます。

 ベンチに座ってただ眺めているだけでも呑まれます。


 隣に座るフォルトくんは眠そうにして、あくびをします。きつねさんにはこの景色は日常ですからね。そして、おねむな時間でもあります。

 フォルトくんを撫でながらしばらく眺めます。


 しばらく星空の観察をしていたら、私自身も眠くなってきました。

 眠ることは生物の基礎であり、眠るために起きるとも言えます。

 しかし、現状私に家はありませんし、この時間にホテル・宿屋に行くのもまた、どうなのでしょう。


 一回、森に家を建て、そこで寝ましょう。拠点としても使いたいですし、家が無いのはやはり良くないことのようにも思えます。

 時間も時間なので、広場に瞬間的に帰り、家をさっさと魔法で出しておきます。フォルトくんを見ても……既に寝ているので瞬間移動に驚きなどはしていませんね。

 広場の広さに見合った、お屋敷とも言えるものを出しました。図書館然り、実験室然り、客間も、運動場も、不足のない家になったと思います。私一人で何に使うんでしょうか。

 まぁ、お城とも迷いましたけど……お城も好きですし、いつか建てて住んでみたいような気もしますね。


 花で綺麗に整えられた庭を通って屋敷に入ります。

 中は白基調で、しかし、木が床や柱に使われていて、落ち着いた雰囲気を出してくれます。

 まさにこれが屋敷ですというように、玄関すぐには階段があり、左右には廊下と部屋がいくつか続きます。横に広い屋敷ですが、階段下の方に行っても左右に続く廊下もあります。

 階段を上がると、玄関上の大きな窓から、夜の月(便宜上)の光が屋敷の中を幻想的に照らしてくれます。


 廊下を歩き、浴室に向かいます。私は洗う必要はなく常に清潔なのですが、しかしお風呂には心地良く過ごし、区切りをつけるというこの世界に於いて大切な意味と文化があるのです。

 脱衣所を抜けて、浴室に入ります。フォルトくんもだっこして連れていきますよ。一応起こしておきます。


 服をぱっと消して、大きな湯船が見えます。湯気がもわもわと、熱いお風呂であることが伝わり、既に気持ちが良いです……。奥に行き、外に繋がる扉窓(窓の役割を果たす大きな扉、横開き戸)を開けます。そこは露天風呂、面積は広く、涼しい夜の風と、お風呂から感じる温かい、熱い湯気がやはり心地良いです。

 月(便宜上)と、満天の星空がやはり綺麗ですが、まずはフォルトくんを洗います。

 わしゃわしゃわしゃ。洗剤とか、シャンプーとかでもなく、謎の魔法パワーで洗っています。一番綺麗になりますよ。


 洗い終えたら、だっこして、お湯に入ります。フォルトくんは溺れないように、お湯を張った小さな船をつくってその中に入れてあげます。人が入れる程度には深いですから。

 満天の星空が輝く夜空を見ながらの入浴は気持ちが良く、何かを考える必要もありませんから、今日を振り返ってみます。

 人間として生きてみたいと思い、人間として降り立ってみたのが今朝。神になった時には勿論思っていたことで、そろそろ理想が上手く重なったかなとも思いましたから。


 森から出ようと歩いて、その自然の綺麗さに感動をして、付いてきた動物さんたちがいて、フォルトくん(当時未命名)だけがずっと付いてきましたね。

 そして、森の見える広場に行って、リアちゃんと知り合い、ついでに私の名前をミーアと規定しました。

 リアちゃんとお友達になり、遊びました。

 そして、家を建てました。


 生きることは面白いですね。


 お湯から出ます。フォルトくんは器用にも私の頭に乗ってきました。そして、脱衣所で水を乾かして、パジャマを着ます。

 白のもふもふパジャマです。フォルトくんもお揃いのもので包んであげます。


 そして、寝室に行きます。もふもふベッドですこちらも。

 フォルトくんを先にベッドに寝かして、その横にゆっくり横たわります。

 目を閉じます。眠気はもうすでにあったので、意識が落ちてゆきます。フォルトくんを優しく引き寄せます。

 ……おやすみなさい。



  ………………



 朝、起きます。

 フォルトくんは未だ丸まっていてすやすやです。


 すやすやのフォルトくんを置いて、私は浴場に向かいます。朝のお風呂は良いものですし、一日に二回お風呂に入るべきではないでしょうか。

 パジャマを脱いで、昨日のように露天風呂の方に行きます。太陽(便宜上)を見る、浴びる露天風呂も良いですね。光によって他の全く遠い恒星や惑星やらは隠され、夜空とは全く異なる印象です。

 近くは、森もよく見えて、生命の息吹を感じるような気がします。


 あまり長く居るつもりもなく、すぐに脱衣所に上がります。今日の服はどうしましょう。

 フォルトくんを連れるので、きつねさんモティーフのが良いでしょうか。……そう考えると、私が獣人化してみたい気もしますね…………。

 そう思ったら早速実行で、体を色々といじり、狐耳と狐尻尾(もふもふ)を生やしてみました。

 鏡で見ても、触っても、耳は頭からしっかりと体の一部と主張できるように生え、尻尾は尾(骶)骨の部分から、ずうっともふもふで生えてきています。きつねさんですね。


 服は、日本風の服、和服といった方針にしてみましょうか。お稲荷様は国津神ですが、日本の伝統的でよく祀られる神様です。それがイメージですね。

 私に生えている毛の色は金色、キタキツネ色でありますから、対照的に服を灰色や銀色、ギンギツネ色にしてみるとバランスが取れるような気がします(フォルトくんも金色の毛ですから)。それとも逆に、一体感、統一感を持たせるために、赤や金といった服にするべきでしょうか。悩みますね。

 ……ここは、赤が基調の、銀の模様が入った服にします。

 伝統的な和服(大雑把な区別です)は、直線的で、腕のひらひらや、柄が美しさを生み出すものだと思っていますが、今回は和服基調の着ていて楽しい服というか、全体的にひらひらな服にしてみようかと思います。想像の、コスプレにおける和服(仮)のようなものです。

 いい感じに想像して、創り着てみると、いい感じです。

 上半身部は着物の通りで、下半身部はスカートのように広がり、羽織りがさらにひらひら、花開く感じを出しています。

 着ていて心踊りますね。


 一回寝室へ戻り、フォルトくんを起こして抱き上げます。眠そうです。服の隙間にいい感じに収まっていますね(苦笑)。おきつねさまを連れる為の服なのでよいですけれどね。だっこして連れてゆきます。

 そして、テーブルのある、食事の間に行きます。朝ごはんですが、まず色々な選択肢が浮かんできます。

 広い家ですが、当然メイドさんも居ないので、ごはんは自分で作ります。

 ともかく、料理をする過程の喜びとかもありますし、作ります!


 ぱっとフレンチトーストなどの朝ごはんを食べます。フォルトくんにはフォルトくん用のものを作りました。


「いただきます」


 返事をするようにきゃぁとフォルトくんは鳴きます。


「ごちそうさまでした」


 美味しかったです。


 フォルトくんを抱えて、家を出ます。

 さて、今日は何をしましょう。


 適当に飛んで、街に降り立った場所は、広い道、大通りでした。空を飛ぶことも大きく普及していますが、同じくらい地面を走る機械も多いものです。両脇の歩道には人が賑わい、活気があります。

 特に屋台があったりはしないのですが、服屋、料理屋……歩行者のみの道の方は活気溢れています。

 繁華街で、商業区、森の側から観光施設、商業施設、そして、大きな住宅街と時として商業区画のように続く感じです。この辺りは繁華街ですが、大通りを逆に行けば、重要な施設――役所や図書館や会社の建物などがあります。基本的には縁はないと思いますが。


 う〜ん。ただただ歩いてみるのもよいですが、何もなければ物足りないものですね。

 そうだ、写真を撮りましょう。

 写真は、見たものを記録してくれる良いものですから。思い出は基本的に思い出として残さないで残しておきたいたちなのですが、それを思い起こさせたりする為に、その一部を切り取って保管するということもまた大切です。


 私の創った世界はどのようなものだったか。


 それに、今後旅をして、たくさんのところに行くことでしょうから、それを記録として、分かりやすくかくのはとても良いですね。思い出すきっかけというやつです。


 いいところを飛んで探して、カメラを作り出して一枚ぱしゃり。私のフォルトくんの写る写真がプリントされます。

 繁華街の朝と大通りと建物と……良い写真が取れました。

 収納しておきます。ぱっと魔法で消えたように見えますね。


 今後は行くところ行くところの主要な写真を撮りましょう。


 そのまま観光をし始めます。食べ歩きが良さそうです。

 美味しいごはんというものは、お肉一つとっても歴史・文化、様々なものを感じるものです。歴史はイコール食事によって紡がれるとも言えそうですから。

 ここは観光都市ではありますが、住む者・訪れる者の日常だって形成されます。繁華街はそういった所です。


 広さは車六台分、雰囲気は商店街の交ざった都会の繁華街そんな感じでしょうか。


 進むと、多種多様な食品店があります。チェーン店も半分、独自の店も半分。いつもの味も理想的、ここにしかない味も理想的、地域密着という素敵な響きもいいですね。

 この周辺オリジナルのものといえば、やはり森。詐欺でもなく、適度な神聖さと神々しさを混ぜた、野菜パンが売られていました。折角なので一つ買います。


「美味しいですね」


 商品自体は普通に美味しく、加えて普通はこのような形で得ることのしない神聖さと神々しさを体の中に取り込み、内部からあたたかくなれました。


 次は何を食べましょう。

 名物と銘打たれそうな、森盛チョコレート(風)を食べてみます。やはり森にかこつけて、森がチョコレートの草原の上にあるかのような商品です。


 普通にチョコレートでした。


 …………他にも、魔法で味が変わり続けるガムや、森が頭から生えてくるグミなど、魔法世界ならではの食べ物もあり、楽しかったのでした。

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