第二話[友達]

 私が読んできた文学作品や、実際に体験してきたことなどから、お友達の作り方は簡単でもあり、難しくもあるものというのが分かっています。

 ただ難しいことを語るつもりはありません。最初に話しかけることがお友達を作るのに必須なことです。友達のつくりかたは合理ではなく心理ですから。

 要は普通に話すことが大切です。


 座ってゆっくりします。

 早速、一人の女の子が話しかけてきました。


「だっこしてるきつね可愛い〜」


 もふもふなきつねさんを抱っこして、天使系のゆめかわな服を着ている私は、この女の子にはとても魅力的に見えたことでしょう。これでも前世の文化はおおよそ中世頃から網羅しているつもりです。


「この子はさっき森から歩いてきたときに付いてきた子ですよ」

「えっ! 森から」


 まぁ、森を歩くどころか近付くことすら危険ですから、驚かれます。この街の看板地図にも、絶対に近付かないようにといった警告がなされていましたから。

 不可能ではありませんが、ただの女の子……に見える私がすることでもありません。それに、森の動物は珍しいのでしょう。


「森の子にしては、凄い懐いてるね〜! もふもふで羨ましい」

「撫でますか?」


 私の膝のきつねさんに目線を向けると、きつねさんは女の子の方に寄ります。


「もふもふだー!」


 恐る恐る撫でる女の子。そのまま横の席に座ります。するときつねさんは、女の子の膝に乗っかります。


「そ、そうだ! お名前訊いてもいい? すっごい可愛いから思わず声掛けちゃった!」

「名前は……ミーアと云います」


 特に由来はありません。後ろに本棚もなければ、思い入れのある探偵も何もありませんから。


「ミーアちゃんって呼んでいい?」

「いいですよ〜!」


 敬語に見えるのは、丁寧な言葉遣いをしているだけですね。言語は日本語ではありません。


「私はリア! よろしくね!」

「よろしくおねがいします」

「ミーアちゃんて呼んでいい?」

「いいですよ、私も、リアちゃんって呼びますね」

「うん!」


 リアちゃん。年齢は、十五歳程でしょう。女の子で、獣人でなく、尻尾もありません(正しくは小さな尾(骶)骨となっています)。金髪で、典型的なストレートなロングヘアです。服は、ラフですが、白と黒と薄い茶色の三色で、デザインのこだわりが見られるちょっとしたドレスのようなものです。メイド服のような要素ですね。

 お話をするために、テーブルとそれを太陽(便宜上)の光から隠すようなパラソルを出します。勿論、魔法です。便利ですね。その魔法を便利にしたのは私ですが。


「えっえっ! ミーアちゃんすごい魔法使いさんなんだね!」


 私達の座っている椅子は円形のテーブルに向かい合うように移動します。付いてきた狐さんは、テーブルの上からも見える特等席に載せます。あくびをしていて可愛いですね。


「飲み物は何がいいですか?」

「えっ! 飲み物まで出してくれるの?!」


 この驚きは、親切に対しての驚きもありますが、そんなことまでできるの?! という魔法の技術力に対しての驚きです。

 魔法は身近ですが、研究する程は学んでいないという人が比較して多い社会では、本格的に魔法を使える人は凄いというなんとなくの印象があるようです。元の世界のプログラムができる人は凄いというものと似たような風潮を感じます。


「何がいいですか?」

「う〜ん、ペルジャ!」


 ペルジャ……これは、紅茶のようなものです。

 ある植物から取れる茎の部分と水を合わせた、甘くも優雅で、少し渋みのあるような飲み物です。

 しかし……文化・文明関連は、前世地球とは大きく違うなということを、改めてとても印象付けられましたね。いや、建物や獣人やこの広場や……違うと感じるところは多々ありましたけれど、お茶で実感を深めるとは……。


 折角ですので、私も同じものを飲もうと思い、作ります。カップに入った温かい飲み物が二人の前に置かれます。ついでにきつねさんには美味しいご飯を置いてあげました。

 リアちゃんが一口飲みます。


「すごく美味しい!」


 高品質、一番美味しいものを提供しました。

 お茶会のようなものは優雅な雰囲気で始まりました。


「きつねさん可愛いですね」

「ね!」


 自然の子である筈なのに、大切に育てられたかのようにもふもふであるきつねさんを撫でながら、リアちゃんは言います。

 神聖な森の動物さんたちは可愛く育つものですよ。


「森を歩いていた時は色々な子が付いてきていたのですが……この子だけは森を抜けても私に付いてきたのですよね」

「えぇ! そんなことをしてたんだ! その風景すごくロマンチックというかメルヘンチックというか、見てみたいな〜。確かにミーアちゃんからはそういうオーラを感じるよ。きみも、ミーアちゃんが可愛いから付いてきたんだもんね!」


 きつねさんは、一つ鳴きます。


「ありがとうございます」


 二人できつねさんを撫で、言い合います。

 すると、そのきつねさんは、テーブルを少し歩き、リアちゃんの膝におさまります。


「このきつねさん、名前はないの?」

「そうですね、さっき出会いましたから」

「じゃあ名前付けていい?」

「名前を付けてもいいですか?」


 私がリアちゃんの言を復唱するようにそのきつねさんに訊くと、顔を少し動かします。成程。


「付けていいそうですよ」

「やったぁ! じゃぁ、どんな名前にしようか……」


 きつねさんを撫でながら考えるリアちゃん。心地良さそうです。


「もふもふだから、フォルトくん!」


 「フ」の音は、ふわふわした印象を受けるのはどこも共通です。

 この世界の言語で「フォル」という単語は、もふもふ、やわらかいというような意味を持ちますから、そのように名付けたようです。

 リアちゃんが「フォルトくん」と呼びかけると、「きゃっ」或いは「きゅい」のように鳴いて反応します。きつねらしく「コンコン」とは鳴きませんよ。先程も「きゅい」と鳴いていました。


「野生の子のはずなのに、すっかり丸まっていますね」

「私も、ミーアちゃんの神聖なオーラは感じちゃうよー、安心しちゃう感じ分かるよー」


 もふもふを撫でて、もふもふに話しかけるリアちゃん。反応するようにフォルトくんも耳を動かします。

 ……まぁ、あの森は一般的な野生の環境とは相当離れていますから、そういうこともあるのでしょうね。眼の前に実例があります。


「ミーアちゃんって、初めましてだけど、どのあたりに住んでるの?」


 住処、住所はありません。

 本当に先程、この世に現れたばかりで、強いて言えば広場が住処とも言えます(神聖で私以外には入れませんからプライベートが保証されています)。

 ただ、私は旅をするつもりですから、ここに毎日帰るという家は今後もないのかもしれません。


「家……というよりは、旅をしますから、どこか特定のここに住んでいるということはありませんね」


 魔法がある世界で、自由な世界故に旅をする人が多いといえど、それでもいつ帰ってもよい安心できる家を必要とするのが人なので、異端な答えかもしれません。


「え! 旅をしてるの? すごい魔法使いさんはすごいね!」


 既に外のことをいくつか見せていますから、耐性も付いているようです。尤も、常識なんてあってないようなものです。


「じゃあ、ここにはどれくらい居るの?」


 可愛い子はお友達。そんなリアちゃんは、フォルトくんが居なくなることも、私が居なくなることも寂しがってくれているようです。まぁ私としては来たばかりで、すぐに離れる理由もありません。


「いいえ、当面は居ますよ、十年くらいは居ましょうか?」

「いやいやいや、旅をしてるのにそんなに引き止められないけど……暫く居てくれるなら嬉しいよ!」


 私の時間に限りがないとはいえ、世界の時間に限りはありますからね。しかし、だからこそ、一期一会は大事です。

 ここは世界で一つの、立ち入れない神聖な森と隣り合う街で、観光地のようなところが沢山あり有名でもありますから、見所は多いのです。


「リアちゃんは、やっぱりこの辺に住んでいますか?」

「そうだよ! お友達がほしいからよくここに遊びに来てるけど、おうちに来る?」


 悪意のないこの世界において、悪いことをする人は存在しませんから、仲良くなってすぐにお家で遊んだりすることがあります。

 状況的には、元の世界の新宿の歌舞伎町の有名な広場のよくある一幕の様ですが、悪意や汚さなどを取ってしまえば同じことです。


 という訳で、リアちゃんのお家に移動します。

 私が魔法でぱっと物(机とパラソル)を消したのも少々驚かれましたね。

 フォルトくんは、歩くときには私の横にぴったりでした。街歩く人は、それを不思議なものを見る目で、可愛いものを見たような目で見てきましたから、相当に目立っていましたね。この世界には周りを見るゆとりが大いにあるのですね。


 リアちゃんの家には、ご両親が居られました。


「こんにちは」

「はい、リアのお友達ね?! こんにちは」


 挨拶をして、リアちゃんの部屋に行きます。

 リアちゃんのお部屋には、ぬいぐるみなどが飾られており、非常に可愛らしい部屋となっていました。

 フォルトくんはベッドの上のきつねさんのぬいぐるみに寄り添うように丸まります。


「仲間だねー」


 フォルトくんは頭が良いので、きつねに模したぬいぐるみ(もふもふ)だということを理解した上で、もふもふとその安心感に微睡んでいるようです。


 私とリアちゃんも並んでベッドに座ります。


「カードで遊ぼう!」


 そうしてリアちゃんが出したのは、カードという名詞がそのまま定着した、トランプと殆ど同じ物です。見た目こそ異なりますが、十二の数字、四つのマーク、特殊カードたるジョーカーが有り、概念として殆ど全く同じです。異なるところは、数字の最大が十二であるところですね。素因数分解が二・二・二・二・三と小さい素数の二と三が含まれていて扱いやすい合計枚数です。


 第一戦はババ抜きです。基本的なゲームですね。

 リアちゃんが表情を変化させないようにする姿が可愛いものです。随分と分かりづらいので、最後の二枚対一枚が難しいです。二枚はリアちゃん。

 ここで、私から見て右の一枚に手を翳すと渾身の変顔をして、左の一枚に手を翳すと固まったように真顔をするので面白いです。どちらか分からないようにしてきますね……。真顔の方から取ると、数字のカードで、私は勝ちました。


「んああぁ! 負けたあぁ!」

「私の勝ちですね」


 随分と悔しそうにしながら「もう一回」と言った二戦目は、私があっさりと勝ちました。

 更に悔しそうにして、別のゲームにしよ! と言うので、今度は別のゲームをします。


 第二戦は、ヘルスです。この世界の語で、力という意味がそれとなくあります。

 魔法が使える人が居るとできる、この世界独自のカードゲームです。リアちゃんはこのゲームを知っていて、魔法を使える私が居るからと提案してくれました。やってみたかったようです。


 魔法を用意します。手札が半分づつ渡されます。そして強さを見て、「絶対に出せるカード組」と「確率高」「確率中」「確率低」の四グループに、選ばれる可能性の高い方に向かって少なくなるような定数(ルールとして予め定められた)枚づつを置きます。

 次に、「絶対に出せるカード組」から一枚選ぶか、確率のカード組からそれぞれ三枚選ぶか、した上で、カードを同時に出し合ったりし、数字とスートによって勝敗を決するゲームです。確率のカード三枚から出すカードを確率に従って選んでくれるのは魔法さんです。量子力学が何とやらで、無作為性が保たれています。基礎はこんな感じですが、例えば確率操作といった細かいルールも入れてみたりすると発展する、一つのカードゲームの派閥ですよ。


 やってみると面白いです。


「あ! 確率低いのに入れてたカードが、うまくいった!」


 とか、


「なんでぇー! 低いはずの確率が今当たるの!!」


 とか、

 私も勝ったり負けたりと楽しかったです。確率はどれだけ頭が良くても悪くても、戦略が良くても悪くてもひっくり返すこともあったりなかったりと、面白いものを生みますからね。


 そして、そろそろ夕暮れも過ぎようとし、夜の始まる暗い時間となりました。


「ミーアちゃん、こんな感じの時間だし、そろそろ帰る(?)の?」


 疑問符が更に付いたように訊ねられます。ホテルや宿や、そういうところに戻る必要などがあると思ったのでしょうし、夜は家族の時間でしょうから、私はリアちゃんの家を出ることにします。

 フォルトくんがリアちゃんから離れて私の胸に飛び込んで来ると、リアちゃんは少し寂しい顔をしていました。


 リアちゃんと、リアちゃんの両親に挨拶をして、リアちゃんの家を出ます。

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