自作世界旅行

第一話［森から街まで］

　さて、私は森の中に降り立ちました。

　ある大木の前の広場のようなところです。但し、森の中で、広場も石造りで、緑にふかふかにされ、人が居る様子も居た様子も全くないです。

　私の見た目は……簡単に、銀髪の、一五三センチメートル、小柄の長髪さんです。受肉というか、身体を創造した上でそこに意識を入れ込んだ感じとなります。

　性別は、ありません。生殖機能は不要ですし、服を着るならば見られませんから。必要となったら性別も使い分けますよ。

　さて、服を着ましょう。

　森の中は神聖で風の音が私の心に心地良い印象を与えてくれます。ですから、裸という状態は、自然を享受できて心地よいのですが、一方で文明世界は服を着るなどの文明的な行為を行って、初めて仲間だと認識されるものです。これから旅に出ますからね。

　しかし、どのような服を着るのかを迷ってしまいますね。

　私は服という些細なことから、何をするかまで無限の可能性と自由の前に居ます。

　一先ずは決めました。私は白に近い薄い肌の色ですので、水色は似合うはずです。

　例えば天使は白い服を着ているイメージもありますから、そのような格好が良いのではないでしょうか。そう思うと、前世の「天使系」と呼ばれていた服を思い出します。デザインとしては非常に可愛らしく、好きなものです。

　……まぁ、立場的には本当は女神である筈ですけれどね。寛容すぎると違和感もありません。

　雰囲気を出して、指を一つ振ります。すると、みるみると私の周りに光が纏い、すぐに霧散し、私が服を着ている状態になりました。

　水色と白のドレス風味な、そこまでかっちりしているわけではないのですが、ふりふりとした装飾が付いていまして、サブ・カルチャー風味ではなく、本当に天使であるかの様な美しさにしました。下は少し広がってゆくドレススカート。締め付けはきつくない、ゆるくやわらかい印象です。そして、白のニーハイソックスと履きやすい靴。

　装飾の一つ一つを見ると可愛い要素が詰め込まれています。

　ＴＰＯというものは、もちろん場所場所では大切ですが、それをする必要のないところではしなくてもよい。なんとも理想的ですね。

　さて、服さえ着れば大丈夫ですから、森から出ることにしましょう。

　ここの森は神聖な森で、侵入の不可能な神域のある森なのです。少なくとも人は、私の他に誰も居ません。

　歩きます。道というのものはありまして、広場と違い、煉瓦造りです。よくある長方形のものが縦横と続く網代（あじろ）貼りで敷かれています。人が入れない筈の森に広場や道があるのは神の力というやつです。

　周りの景色は、植物は多様な姿を見せていきます。そろそろ神域を出る頃です。しかし、神域を出ても、すぐ人と会うことはないでしょう。確かに、神域は人の侵入を妨げますが、神聖さもまた異常に強いと、人は気分を悪くします。それに、神域周辺の植物は強い繁殖力を持ちます。

　神域の壁を越え、人工物たる煉瓦は途絶え、道は緑のふかふかのみになります。すこし進むと小動物がちらほらと見えてきました。リスやモモンガやムササビや……可愛いですね。

　何となく、その小動物達は歩く私の周りに付いてきています。私の神聖さは心地良いのでしょう。神域周辺の神聖さが異常なので。

　森の出口に向かうにつれ、私を中心に移動する動物の集団が大きくなります。狐のような中型の動物も居て、何だか童話のようです。

　森の端に近付くと、着いてきていた動物たちは次々と森に帰ってゆきました。

　ただ、暫く歩き続けても、一匹の狐さんは付いてきます。可愛いですね。

　そして更に歩けば森は開け、木々の無い広い自然の大草原が見られます。

　とても綺麗で、美しくて、大きいです。開放感があります。

　ここは少しの高台で、遠くまで見渡せ、その遠くには文明があるように見えます。

　さて、文明の方に向かって行くことにしましょう。

　空を飛んでみます。森と違って、天井はありませんから、大空を自由に飛ぶと、とても気持ちが良いものです。

　ただ、例の付いてきた狐さんを見ると、寂しい顔をしていたのが分かったので、戻って抱きかかえて、再び行きます。

　おおよそ三十キロメートル程の行程で、街の入り口のようなところに辿り着きました。

　地上に降りて、少し歩きます。ぽつぽつとした民家や田畑と道の中を抜け、段々と大規模建築が見られるようになり、遂に街の中に入れました。中心部までは意外と遠かったですね。

　都市や首都ではないのにも関わらず発展していて、所謂駅前の発展の仕方なのですが、中心街は商業施設が並び、人も多く居て、繁華街といった雰囲気です。

　雰囲気も良く、素晴らしいですね。これは理想的であり、極端な一極集中もなく必要なものが一通り揃っている。魔法により移動が簡便である点は非常に大きいのです。

　さて、街に来て、私がしたいことは、この世界を見ることも勿論、人と関わりを持つことです。

　街並み、人を見ます。

　私の目指した理想の通り、明るく前向きで、個性を持つ人はそれを殺すことがなく個性豊かな良い世界、良い街に見えます。治安は良く、技術水準は高く、悪い事は起きず、秩序は健全に働き、色々な関係性が見られる、そんな街。

　とてもとても素敵です。これが、私が目指した理想のその一端。

　実際にその一員となって体験できるとは、溶け込めるとは、感動的な事です。

　昼間ながら、輝いて見える街並み一つ一つがとってもとっても、美しく心に強く浸透してきます。

　例える事も野暮ですが、まるで、目が悪くなっていた時に初めて眼鏡を掛けたかの様な……或いは、初めて解像度の非常に高い良いモニターと良いスピーカーで迫力のある映像を見たかのような、そんな衝撃です。

　これを初めて見る狐ちゃんも喜んでいますね。取り敢えず撫でておきます。

　さて、この世界を歩く人々を見ると、元の世界とは決定的に異なることに容易に気がつくことができます。この世界の人には謂わば、獣人も居ます。

　大きな耳と尻尾と。誰かが提唱した便利な指標、ケモ度で言うところの、ケモ度一と説明できる人達が居ます。

　狐、猫、狼……

　生物の自然淘汰やＤＮＡなどの邪魔しうる要素はありましたが、多様性の素晴らしさと、色々な関わりを持つことができる嬉しさの為には、頑張って解決するしかありませんでしたね。皆非常に愛らしく逞しく或いはといった特徴を持っていて良いですね、

　さて、街に意識を戻して。歩いている人には、猫の特徴や、狐の特徴を持つ者が居ますね。

　個人的には狐や猫などが好きですから、そのような人を見てしまいます。

　その道も、建物が横に規則的に建ち並び、大きな目で見れば都市計画によってうまく建てられているなという印象を感じさせます。

　そのような中を歩き、あるところに辿り着きます。

　そこは、広場でした。

　神聖な森が見える広場であり、景色が非常に綺麗な観光スポットでもある……らしいです。そして、暗黙の了解として、それぞれがそれぞれに話し掛けてよい広場です。ここが重要。

　抑、道を歩く人に話しかけて行けない理由は、その人の自由を犯したりする恐れがあるからです。そう、私は考えていましたし、基本的にはそうである気がします。

　ですが、予め何かの例外を設定しておけば、お友達は簡単にできるものです。

　学校然り、仕事然り……。同じ趣味を持つ者同士で集まったりすることもありますし、前世に於けるインターネットではそのような傾向が顕著に表れていました。

　この世界にＳＮＳのようなものがないとは言いませんが、それに依らないお友達づくりの方法も当然に存在します。

　ここでは、森を見ながら何かを話したりお友達をつくったりできます。

　とても良いですね。