僅かな手がかり

「ごちそうさまでした」


 サクヤがそう言い、手を合わせた。


「おいしかったですね」

「そうじゃのう」


 オレはリースたちの部屋で、朝ごはんを食べ終える。


「はい、ちゅーもーく」


 サクヤが声を上げる。


「女の子グループの今日のミッションはボクくんのお世話をすることでーす」

「今日はダンジョンの探索には出ないんですか?」


 リースが尋ねる。


「うん、2人の捜索は男の子グループの役目。でも、男の子グループは人数が足りないんだよね」


 オレとエリックが抜けているため、ユベル先輩にナッシュ、シモーネの3人しかいない。


「だから、誰か1人男の子グループと一緒にダンジョンの探索に行って欲しいんだけどぉ。誰にしようかなぁ?」


 サクヤが腕を組み考える。


「ノルムちゃん、行ってくれないかな?」

「はい、いいですよ」


 ノルムは快諾する。


 コンコン。

 扉がノックされる。


「お嬢様方、ちょっとよろしいですか?」


 声からして引率のクリュー先生だろう。


「入って大丈夫だよぉ」


 元気よく返事をするサクヤ。


「失礼します」


 現れたのは、やはりクリュー先生だ。


「事態が事態なので、僕もダンジョンに入ることにします」

「男の子グループと一緒に?」

「いえ、僕は単独で、そのほうが効率がいいですし、生徒たちもやりやすいでしょうから」

「うん、わかった。気を付けてねぇ」

「その子ですか。ダンジョンで見つかったという子は?」


 クリュー先生がオレを見つめてくる。


「うん、そうだよ」

「お嬢様方はその子のお世話をよろしくお願いします」

「うん。任せといてよ」

「ダンジョンはかなり広いようですので、しばらく潜ります。帰って来なくても心配しないでください」

「うん、気を付けてねぇ」

「では」




 * * *




 夕方、探索を終えた男子グループとノルムが帰って来た。


「ただいま」

「おかえりなさい」

「おかえり、ノルムちゃん」


 リースとサクヤが出迎えた。


「フィーネお姉ちゃん、トイレ行きたい」


 フィーネの服を引っ張り、そう訴える。


「ええ、わかった」


 フィーネと共に部屋を出る。


「あ、じゃあ私もついて行こーっと」


 察したノルムがついて来る。

 3人で宿舎の目立たない場所まで移動する。


「どうだった、ノルム」

「さて、何から話そうか……」


 ノルムは頭を悩ませる。


「まずね、エリックは見つからなかった」

「……そうか」


 魔物を倒して食べ物を得ていれば、問題はないと思うが、仮に2日飲まず食わずだと、体が持たない。心配だな。


「それとダンジョンの奥は今、冒険者たちで溢れてる」

「冒険者?」

「うん、素材とお宝を求めて、うじゃうじゃ」

「あの触手の通路は? 何故、冒険者たちは通れた!?」

「ああ、それが話すべき最重要のことだね」


 ノルムは一呼吸置いて、再び話し始める。


「結論から言うと、あの通路で触手に襲われたのはユベル先輩だけだった」

「何だと?」

「私を含め先輩以外の3人はなんともなかった。だから冒険者たちも、エリックも、簡単に奥に行けたんだと思う」


 つまり、触手に襲われたのはオレとユベル先輩だけってことか。

 謎は深まる。

 だが、喜べることがあるとすれば、エリックの生存確率はグッと上がった。


「なんでローランドとユベル先輩だけが触手に襲われたんだと思う?」

「それがわかったら苦労はしないんだが」


 何も思いつかない。


「あんたとあの先輩に共通する何かが原因なんじゃないかしら?」

「まあ、そうだろうけど。具体的なものが思い当たらないことにはな」


 フィーネの言う通り、オレとユベル先輩にあって、他の人にはないもの。

 そのせいで触手に襲われた。

 だがそんなもの、思いつかない。


「とりあえず、ユベル先輩に話を聞いてみたら?」

「確かに、そうだな」


 ユベル先輩本人に聞いて、手がかりを探るしかない。


「だがどうする」

「方法ならある。任せて」


 ここはノルムに任せてみることにしよう。



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