王女と女王
寝ようとしたところで、リースが戻ってきた。
「もう眠くなっちゃった?」
「はい」
「そっか。じゃあ寝る前に、おむつ履こっか」
「……はい?」
いや、何故だ。
「そんなに子供じゃないですよ」
「魔力を貯めてるところが悪いときは、おもらししやすいの。だから恥ずかしがらないで大丈夫よ」
「うう」
渋々受け入れる。
「わたし以外の子は見てないから、大丈夫よ」
リースに見られるのが問題なのだが。
とにかく、慣れた手つきでおむつを履かせられる。
「はい、これで大丈夫よ」
リースが手際よくしてくれたおかげで、他の女子には見られなかったようだ。
「リースちゃん、おむつの履かせ方なんてよく知ってるね」
サクヤの言う通り。
そういえばそうだ。
16,7の普通の女の子は、そんなこと普通知らないはず。
ましてやお姫様なんていう何でもしてもらえるポジションにいるリースが、おむつの履かせ方を知っているのはかなり不自然だ。
「ええ、昔、ちょっと年の離れた弟がいまして、その子のお世話を毎日のようにしていたものです」
「乳母とかいなかったんですか」
オレはリースに尋ねる。
王族の赤子なら乳母の存在がいるはず。
「いましたよ。わたしにも、その子にも。ですが、わたしがしてあげたくなっちゃって、つい」
リースの目から、涙が零れる。
「すいません。弟のことを思い出しちゃって」
とにかくその後、オレはリースとサクヤに挟まれて眠ることとなった。
* * *
次の日。
朝、目が覚める。
「おはよう、よく眠れた」
「はい」
「サクヤさんは?」
「サクヤお姉さんは薬草を取りに行ったわ」
朝早くから手を煩わせてしまって何だか申し訳ないな。
「そうだ、ちょっと確認させて」
おむつを確認するリース。
慣れた手つきで処置を終わらせる。
「一度、ちゃんときれいにしたほうがいいわね。朝ごはんの前に、お風呂入ってきちゃおうか」
またリースとお風呂に……気まずい。
「でも、わたしはこれを片付けないといけないから……」
「その役目、わらわが引き受けてもよいぞ」
「パトル。あなた……いいの?」
そういえばこの人、他の女子と一緒に風呂に入るのを拒んでいた。
なのに何故。
「わらわは童には優しいのじゃ。構わぬぞ」
「じゃあお願いするわ」
ええ……
また罪状が1つ増える。
* * *
「よいぞ、わらわの体に見とれても」
パトルはオレに正対して、体を見せつけてくる。
だが動きはやや不自然。
多分、体を見せつけたいのではない。
頑なに背を見せないようにしている。
「童、そこに座るがよい」
洗い場の椅子に座る。
「うむ、いくぞ」
魔法で湯舟からお湯を持ち上げる。
「それ」
お湯がオレの周りにまとわりつき、渦を巻く。
「ほれ、これで終いじゃ。リースはお節介が過ぎるからのお、お主も苦労したのではないか?」
はい、その通りですとオレは強く頷く。
「あとは湯で温まっておれ」
湯舟に浸かりながら、ふとパトルのほうを見る。
「見たな」
前を向いているはずなのに、何故オレの目線に気づいたのだろう。
ともかく、それを見て他の女子たちと一緒に入ることを拒む理由がわかった。
「ごめんなさい」
「構わぬ。わらわが誘ったのじゃから」
そこには体を洗っているパトルが背を向けていた。
その背中には魔法陣のような刻印が入っていた。
「裸体を見られる恥じらいなど、これを見られることに比べれば大したことではない」
これはおそらく、隷属の刻印。
簡単に言えば、奴隷を操るための魔法陣。
実物を見ることはそうない、相当レアな魔術だ。
「何故じゃろうな、お主になら見せてもよいと思ったのじゃ」
隷属の刻印の入った人間などそんなには見かけない。
褐色の肌、偉そうな口調。
オレは彼女の正体がわかってしまった。
彼女の名はフィロパトル。
崩壊したタルド王国の最後の女王だ。
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