フィーネにはバレていた
風呂から上がる。
リースとサクヤに両手を繋がれ、どこかへ連行されている。
廊下を歩いていると、向こうからニコがやって来る。
「リース様、クリュー先生がお呼びです」
「クリュー先生が? わかりました」
ニコに言うリース。
「ボクくん、わたしは用事ができたから、サクヤお姉さんの言うことちゃんと聞くのよ」
頷いてわかったということを伝える。
リースはニコと共にオレたちとは逆の方向へ歩いていった。
「じゃあボクたちも行こっか」
サクヤに連れて行かれたのは女子たちが宿泊している部屋だ。
中にいたのはノルムだけだった。
「おかえりなさい、サクヤ先輩」
「ただいまぁ、ノルムちゃん。ノルムちゃんはまだお風呂入ってないっけ?」
「ええ、この後入って来よう思ってます」
「みんなに伝えなきゃいけないことがあるから、ちょっとだけ待ってもらえる?」
「了解です。もしかしてその子ですか? ダンジョンで見つかった子どもは」
「そうそう。記憶をなくしちゃったみたいなの」
オレをじっと見るノルム。
「その子、ローランドに似てますね」
「でしょ? ボクも最初そう思ったんだよねぇ」
「髪色も右目の色もそっくり」
「うんうん」
不味い、何としてもバレないようにしなければ。
「でも、左目の色が違う」
「そうなんだよねぇ。だからきっとこの子はご主人じゃないと思うよ」
「瞳の色が変わるなんて聞いたことないですね」
目の色が違う?
最初に鏡で幼児化したのを確認したときにはそっちの驚きで気がつかなかった。
温泉に入ったときもリースたちに抵抗するのが精一杯で、鏡を確認していなかった。
一体いつ変わったんだ?
「どうします? その子が本当にローランドだったら?」
「うーん、どうしようかなぁ? いくら担当の後輩クンとは言え色々と見られちゃったから、お仕置きが必要だよねぇ」
部屋を見回す。
誰かが置いていった手鏡を見つける。
サクヤとノルムが話し込んでいる間に、さらっと確認する。
鏡を覗き込む。
本当だ。
オレの左目が黒くなっていた。
しかし何故だ? ノルムの言った通り、目の色が変わるなんて聞いたことがない。
幼児化や魔力を吸われたことと関係あるのだろうか。
謎が深まるばかりだ。
「あっ、リースちゃんとニコちゃん以外はみんな帰ってきたみたいだねぇ。ちょっと集まってくれる?」
サクヤの号令でリースとニコ以外の1年の女子が集まった。
「この子がダンジョンで迷子になっちゃった子です。名前も忘れちゃったみたい。とにかく、この子はボクたちの班でお世話することになりました。なので、みんな仲良くしてあげてねぇ」
サクヤがみんなの前でオレを紹介する。
「よかろう、我が家だと思って寛ぐがよい」
そう偉そうな言葉をかけたのはパトルと呼ばれていた女子だ。
深海の水のような深い蒼の髪。
その顔立ちと褐色の肌からはエキゾチックな魅力を感じる。
リースやフィーネ、そしてサクヤともまた違った美しさを持った少女だ。
「わたしはノルム。よろしくね」
ノルムも優しく迎えてくれた。
サクヤがしゃがんで、オレと目線を合わせる。
「お母さんとはぐれて、寂しいかもしれないけど、代わりにボクたちがキミのお世話をしてあげる。だから、いっぱい甘えていいよぉ」
サクヤは微笑んだ。
いつもの揶揄うようなニヤニヤにた笑みとは違う、慈愛の微笑みだった。
「ねえ」
「なになに?」
「なんでそいつをここに入れるわけ、男でしょう?」
フィーネだけは、オレがここに入ることを認めないようだ。
「でも、ちっちゃい子だし」
「そいつが夜中急に襲って来たらどうするわけ?」
そこに割って入っていたのはパトルだった。
「何を心配しておる? 仮にその
自意識過剰はお前だろう……とも言い切れないのが恐ろしい。
パトルと呼ばれた女子。リースに勝らずとも劣らない美貌の持ち主だ。
顔だけなら、サクヤもフィーネも劣っているとは思わない。
フィーネの体付きは年相応のもの。気にする必要はない。
とにかく、場を収めるための言葉だと捉えておこう。
「
なんでだよ。てかそんなことはしない。する気力もない。
「もう、こんな小っちゃい子がそんなことするわけないでしょ。この子はリースちゃんとボクがきちんと責任を持つから、他の子はそのお手伝いをしてほしいな」
フィーネはそっぽを向く。
「それじゃあ、ボク、ミーティングに行かなくちゃいけないから、仲良くね」
サクヤが部屋を出て行く。
「わたしはお風呂に入って来ようと思うけど、パトルは?」
「わらわは下々の者と水浴びは共にしない主義なのじゃ。先に入ってよいぞ」
「そう。じゃあわたし1人で入ってくるね」
ノルムとパトルの会話を眺めていると、後ろから急に捉まれる。
フィーネだ。
そのまま廊下へと連れ出された。
そして
獣化した爪で壁ドンされる。
「このド変態」
低い声で囁かれる。
「あんた、一体何のつもり」
「あのー、フィーネさん……その」
「あんたがローランドだってわかってるの」
「どうしてお分かりに?」
「あたしがあんたの匂いをかぎ分けられないとでも思った?」
匂いで見破った相手に匂いでバレるとは、因果応報って怖い。
「あたしの裸、いやらしい目でジロジロ見たでしょう」
「ごめんなさい」
「やけに素直ね」
「尻尾が気になっただけです。生物学的な興味であって決して邪な思いはなく」
ドン!!
再び爪が顔のすぐ横をかすめる。
「次あの女共に発情したら殺す。いい?」
何度も頷いて、許しを請う。
「へぇ、やっぱりローランドだったんだ」
ノルムがニヤニヤしながら現れる。
「幼児化なんて回りくどいことしなくても、この娘たちはローランドに振り向くと思うけど?」
「なんのことだ?」
「緻密なビルドアップなんか必要ない。素直にがら空きのゴールに向かってシュートを打てばいいだけなのに……はぁ。まあいいや」
「そんなことよりノルム、助けてくれ」
「そう言われても無理だよ。幼児化なんて聞いたことない」
「得意の変身術でなんとかならないか?」
「あのね、変身術ってのは、例えるなら粘土をこねくり回して形を変える魔法。サイズを変えるのは無理だよ」
「とにかくなんとかしてくれ」
「それを考えるのは君だよ。私は君の腕にはなれても、君の代わりにはなれない。考えるんだ。何故幼児化してしまったのか」
「わかった。考える」
幸い脳みそは幼児化していないようだ。
策を講じることができるかもしれない。
「君も協力してくれるよね、フィーネ?」
フィーネはオレを見つめる。
「勘違いしないで、あたしはあんたのために手伝うんじゃないわ、あんたの後ろ盾がないと困るから助けるのよ。いい?」
「ああ、有難い」
「ローランド、今日はゆっくり寝て、明日に備えるんだ」
「そうだな」
ノルムの言葉通り、今日は眠ることにした。
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