お風呂に入れられた2

 温泉に入って疲れを癒しているはずなのに、非常に疲れた。

 オレはサクヤに抱かれ、湯舟に浸かっている。


「お湯加減どお?」

「ちょうどいいです」


 客観的に見れば相当アレな状況だが、幸いにも色欲をそそられることはない。

 だってサクヤだから。


「もう、ダメでしょ。リースおねえちゃん汚しちゃぁ」

「ごめんなさい」

「別にわたしは気にしてませんよ」


 洗い終わったリースが湯舟に入ってくる。

「サクヤさん、ずるいです。わたしにも抱かせてください」

「いやだ」


 即座に抵抗する。

 お願いなので本当にやめてください。


「お姉さんのこと、きらい?」

「そんなことありません」


 やめて、そんな目でオレを見ないで。


「はい、リースちゃんに交代」

「フフッ、おいで」

「ぎゃああああああ!!」


 無、無、無。

 無でいよう。

 できるだけ無だ。


 ドアが開く音がする。

 犬耳の生えた女の人が浴室へと入ってきた。

 くんくんと周囲の匂いを嗅ぐフィーネ。

 そしてこちらをちらりと見る。


「はっ!? なんであんたが!!」


 フィーネは慌てて胸と下半身を手で押さえる。


「えー? 別に小さい子が入ってても問題ないでしょ?」

「大ありよ。だってそいつは……」

「わたしたちが面倒を見てあげないといけませんから」

「もういい」


 そっぽを向いて、洗い場へと向かうフィーネ。

 そして椅子に座る。


「しっぽ」


 お尻を隠すように垂れた尻尾に興味を引かれた。

 もちろん知的好奇心だ。

 変な目で見ているわけではない。


「何見てるの? キモ」


 オレの向けた視線は即座に気づかれ、軽蔑の目で睨み返される。

 慌てて逸らすももう遅い。

 何故わかったんだ。


「もう、女の子のおしりをそんなに見つめちゃダメですよ」

「いつからそんなえっちな子になっちゃったのかなぁ?」


 そんなつもりは毛頭ない……はず。

 だが獣人の尻尾なんか見たら2人だって何かしら反応するはず……

 そうか、フィーネはオレにだけ幻術を解いてる。

 だから2人には尻尾が見えてないんだ。


「そんなにおしりが見たいなら、ボクが見せてあげようか?」

「もう、駄目ですよ。そういうのはボクくんの成長に悪影響です」

「いやー、リースちゃんのほうがよっぽど悪影響だと思うよぉ」


 それはオレも同意する。


「そういうのは、もっと大きくなったときに、好きな女の子にしてもらうべきで」

「えぇー、どこかの後輩クンみたいに、何にも知らない男の子に育っちゃってもいいのぉ?」

「ううっ、それはその……」

「はっくしょん」


 寒いわけでもないのに、急にくしゃみが出た。


「あ、ごめんね。体がちゃんと浸かってなかったね」


 なんだろうな、この気持ち。




 * * *




 風呂から上がる。

 ようやく気まずい時間から解放されそうだ。

 自分そっちのけで、オレの濡れた体をバスタオルで拭くリース。

 その間にサクヤは自分の体を拭い、服を着ていた。

 白い布を胸に巻いている。


「サクヤさん、変わった下着ですね」

「これはね、晒って言うんだよぉ」

「さらし?」


 エルモニアで使われているもののようだ。

「こうやって胸を縛ることによって、揺れなくなって動きやすくなるんだよ。あと、男装するときにも使うかなぁ」


 お前には必要ないだろう。


「ボクくん、リースちゃんが服着ないといけないから、ボクのところにおいで」


「ボクくんの、随分かわいいパンツだね」

「なっ!」


 熊の絵が入った、実に子供向けのパンツだ。


「でしょう? ちょうどいいのが手に入ったので」


 罰ゲームだ。


「リースちゃんも、なかなかえっちぃ下着ですなぁ」

「え? そんなことないと思いますよ。お母様のだって、もう少し地味な色でしたけど、このような感じでしたから」

「一体誰のために選んだのかなぁ?」

「それは……彼に見られても構わないようなものを選んではいますが」

「へぇ。見せたい男の子がいるんだぁ」


 そんな!!

 リースが男に下着を見せたがるような女の子だったなんて……

 彼って誰だ!?

 どっかの貴族か王族か?

 とにかく会ったら許さねえ。


「ごめんねボクくん。リースお姉ちゃんがこんな悪い女の子で」

「……」

「わたしは清純な乙女ですよ。もう、ボクくんもそんな目で見ないで」


 ちょっとショックだ。


「しかし、フィーネちゃんのもなかなか派手ですなぁ」


 サクヤは、フィーネの脱いだ衣類の入った籠から下着をつまみ出す。

 リースの着ていたもののような、派手な下着だ。

 確か、前にフィーネを尋問したときにチラッと視界に入ったのは、もっとシンプルなものだった気がする。

 再入学してからの数週間の内に何があったんだ?


「今年の後輩ちゃんは、おませちゃんが多いですなぁ。一体どこのご主人のせいかなぁ?」


 オレの知らない間にフィーネまで……

 リースとフィーネに手を出した奴、ぜってー許さねえ。

 いつの間にかオレの中に嫉妬という感情が生まれていた。


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