それまでの経緯
合宿前日
話は合宿が行われる前日にまで遡る。
その日の朝。
「おはようございます」
可憐な声で目を覚ます。
「おはよう」
金髪ツインテールの天使がオレの目の前に……
「って! 何でお前が中にいる!! リース
「お寝坊さんを起こしに来たんですよ」
「どうやってオレの部屋に入った?」
「もちろん、合鍵に決まってるじゃないですか」
返せと言っても返してくれなさそうなので、もう放っておこう。
「せめてノックくらいしてくれ」
「どうしてですか?」
「そりゃ、プライバシーというか」
「まさかローランド、浮気ですか?」
「してないって!!」
いや、あの、オレはリースと付き合う約束をした覚えはないんだが。
「じゃあ隠さなきゃいけないものはありませんよね」
そんなにこやかな顔で言われても困る。
迎えに来てくれるのは有難いんだが。
* * *
明日から合宿のため、半日で授業は終わった。
オレは先輩のサクヤがバイトしている喫茶店にリースと訪れた。
「ご主人にはコーヒー、リースちゃんには紅茶をお持ちしました」
メイドのコスプレをしたサクヤが飲み物を持ってきた。
さっそくカップを手に取り、コーヒーを一口飲む。
「うまい」
「わたしの紅茶もとてもおいしいです」
「もちろん、豆にも茶葉にもこだわっていますからねぇ」
ふざけたコスプレ喫茶の割に、品質はちゃんとしてやがる。
これだからつい来てしまう。
決してコスプレが目当てではない。
「で、合宿って結局何をやるんだ?」
客はまばらだったので、絶賛バイト中のサクヤに尋ねる。
「んーとね、どこから話そうかな」
少し悩むサクヤ。
「ヘキサゴン・カップって知ってる?」
「ああ」
ヘキサゴン・カップとは、王国内6つの魔法学校がによって争われる魔法競技の大会のことだ。
様々な種目が行われ、総合点の一番良い学校にヘキサゴン・カップが授与される。
「そこに出る選手を見つけるための合宿って言ってもいいかな」
1年生全員が参加するわけではない。
選ばれたメンバーは10人にも満たない。
「1年生って、実力がはっきりとわかってないでしょ? だから力のありそうな子たちを集めて適正があるか確かめるんだよ」
「リースが選ばれるのはわかる。だがどうしてオレが選ばれたんだ?」
「え? そりゃそうでしょ! キミは学園の危機を救ったヒーローなんだから、むしろ当確でもいいくらいだとボクは思うよ」
「ローランド、あなたは謙遜が過ぎますよ。あなたはわたしを助けた王子様なのですからもっと胸を張ってください」
「いつオレが王子様になったんだよ」
情報が統制されているとは言え、学園の中でオレのことを知らない奴はいなくなってしまった。
全く、ヒーローになる気なんか毛頭なかったんだが。
「今から不参加にはできないのか?」
「どうしてもっていうならできると思うけど、参加したほうがキミにとってメリットが大きいと思うよ」
「そうなのか?」
して、そのメリットとは?
「ゾーンを発現しちゃったおかげで、ボクたちからの指導を受けられなくなって、普通に授業を受けているでしょう?」
「そうだな」
正直、平凡な座学を受けるくらいなら、リースやサクヤに好き勝手されるほうがマシだと思っている。
「でもでも、ヘキサゴン・カップに出場する選手に選ばれれば、授業の時間の一部を競技の訓練に振り替えることができるよぉ」
「なるほど」
だが問題は選手になれば目立つってことだ。
できればこれ以上目立ちたくない。ダラダラと学園生活を過ごしたい。
「うーん」
コーヒーを口に含み、考える。
詳しくは知らないが、競技には色々な種目がある。
中には目立たない種目もあるはずだ。
そういう種目の選手に選ばれれば、うまい具合に授業もサボれて、注目もされず、より楽な学園生活を送ることができるはず。
よし、それで行こう。
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