余計なお世話
1時間目の授業が終わる。フィーネが教室の外に出たのを見て、後を追う。
「ここなら誰もいないんじゃないかしら」
校舎の外の人気のない場所で、立ち止まる。
「お前その耳、どうした!? 隠さないと不味いだろ」
フィーネの頭には獣人の特徴である犬の耳が生えている。しかし、他の生徒は無反応だ。
「これ? 他の人は幻術で見えないけど、あんたにだけみせてあげてるの」
「そんなことができるのか?」
「幻術は得意だもの」
理屈はよくわからないが、オレにだけ幻術がかかってないらしい。
「あたしも聞きたいんだけど、どうやってあたしを転入させたわけ?」
「フィーネ・ミロシェヴィッチという人間いるという証明は、いくつか書類を偽造してどうにかなった」
「あんた。平然と物騒なこと言うわね」
「こっちにも色々とあるんだ」
策を講じればこのくらいはなんとかなる。
「だが、フランカがいなくなった後の補欠入学者の決定はよくわからない。どういうわけか都合よくお前が選ばれた」
「あたしが?」
「そうだ。知ってるだろう? この学園の入学者は試験により決まるわけではない。予め決まってるって」
「ええ、そうね」
「とにかく選ばれたんだ。だから胸を張れ」
フランカは消え、フィーネとして再びこの学園に戻ってきた顛末は、オレとフィーネが戦った翌日にまで遡る。
* * *
オレはとある場所の一室でお茶を飲みながら物思いに
本当は横になりたいところだが、そうもいかない理由がある。
この部屋に1つしかないベッドはとある少女に占領されているからだ。
しかし、酷い夢を見た。
闇属性を使う相手と戦った後には、そいつの怒りや憎しみの根源みたいなものの一端を垣間見ることがある。
フランカの過去を夢の中で見た。
今までこんな壮絶な過去は見たことがない。
「ん……ここはどこ?」
そうこうしていると、フランカが目を覚ます。
「ようやくお目覚めか」
「え!? 一体ここはどこ? どうしてあたしがここにいるわけ?」
「オレが運んだからだ」
「ちょっ、あんた……自分で何を言っているのかわかっているの? それにこれ、手錠までつけられてるし」
犬耳が激しく反応する。
「オレがいない間に逃げられないようにつけておいたんだ。下手に魔法を使われては面倒だからな」
「あたしは死んだんじゃなかったの?」
「一命は取り留めたようだな」
オレはあえてとどめは刺さなかった。だが返答次第では、改めてここで殺すことになる。
「なんであたしにとどめを刺さなかったわけ?」
「お前には利用価値があると判断した」
「そう。それで? あたしをどうするつもり?」
「お前はどうしたい?」
「別にどうなってもいいわ。煮るなり焼くなり、好きにして頂戴」
「なら、そうさせてもらおう」
オレはフランカの服のボタンに手をかける。
「ちょっと! 何するの!?」
フランカは頬を赤らめ拒絶する意思を口にする。
しかし両腕と両脚を曲げ、お腹を見せるように寝ころび、抵抗する素振りを見せない
むしろ自らその体を差し出す。
オレは1つ1つボタンを外していく。
「結局……あんたもオスね」
「抵抗しないのか?」
口では平静を装っているが、手錠がカチャカチャと音を立て、耳がピクピクとひっきりなしに動いている。
「できるとでも思ってるの?」
「確かにそうだな」
服を取り払うと、下着と白い肌が露出する。
オレが刺した傷以外は特に変わった様子はない。
獣人、いや、正確には半獣人の身体は初めて見たが、胴体は人間のそれとあまり変わりはない印象だ。
「傷の治りが早いな」
オレがフランカをここに運んで来たときには、生死の境目にいた。きちんとした治療を受けていなかったら、危なかっただろう。
「これくらい傷くらいなら翌日には治っているわ」
「なるほど、獣人の力って訳だな」
魔法の効果もあるだろうが、獣人の治癒能力は人間のそれを凌駕すると聞く。
「何してるのぉ?」
サクヤが部屋へ入ってくる。
リースも一緒のようだ。
「駄目じゃない、女の子にこんなことしちゃぁ。キミはいつからこんな悪い子になったの?」
「勘違いするな。魔法が使えないように捕縛しただけだ」
「服まで脱がせる必要はあったのかなぁ?」
「傷を確認したかっただけだ」
「ほんとぉ?」
他意はある。だがそういう目的ではない。 反抗する意思がないか確かめたかっただけだ。
「放してあげてくれませんか」
「いや、でも」
「わたしのことを心配してくれているのならお気になさらずに」
「まあ、リースが言うなら」
オレはフィーネの手錠を解く。
「フランカ。あなたには罰を受けて頂かなければなりません。ですが、あなたの返答次第では、刑を軽減することもできます」
「あんたたちの言いなりにはならない。やるならさっさと処刑しなさい」
「ならボクに任せて」
サクヤは短刀を取り出して、フランカの首に当てる。
「最期に言い残すことは?」
「なんであんたなの」
「かわいい後輩クンの手を汚させはしない。ボクが斬ってあげる」
「あたしを倒したローランドにして」
「勘違いしてるようだけど、ボクぅ強いよ。不服なら外で一戦交えようか? その場合、苦痛なくなんてことは保証できないよぉ。拷問を受けたほうがマシなんじゃないかなぁ?」
「望むところよ」
フランカも爪を立てる。
「それはわたしが許可致しません」
リースが言葉で強く静止させる。
「ボクが何に怒ってるかわかるぅ? それはねぇ、ご主人を……ボクの大切なかわいい後輩クンを肉体的にも精神的にも傷つけたことだよぉ。もうこれ以上、手を煩わせわしない。ボクがぐっちゃんぐっちゃんにしてあげる!!」
サクヤの翡翠石の瞳は怒りに満ちていた。
「サクヤ、そこまでです」
「うぅ」
サクヤが短刀を引く。
同時にフランカも爪を下ろす。
「こうなったらローランドに決めてもらいましょう。フランカにとどめを刺さなかったのには理由があるみたいですし」
「それなら文句はないわ」
「ローランド。あなたはフランカをどうしたいのですか?」
一度、頭の中で考えを整理する。
「お前と戦う中で、お前の闇の一端を見た。だからかもしれないが、お前には機会を与えたいと思った。オレがこの学園で過ごした楽しみをおまえにも味わってもらいたい」
「余計なお世話ね」
「ああ、余計なお世話だ。オレはこの学園に入ってから、余計なお世話ばかり受けてきた。だからお前にも余計なお世話を味わってもらう」
「ふっ……そう……好きに……してっ」
フランカの目から涙が溢れた。
「うぅ……ボクも嬉しい」
「ローランドが他の子のためを思って行動できるようになるなんて」
サクヤとリースまでもらい泣きしてしまう。
「これからもいっぱいお世話してあげるからね」
「いや、もう十分だ」
この2人からお世話されるのは少し控えてもらいたい。
「だが、まだやるべきことが残ってる」
フランカの悪事をなかったことにはできない。
「帳尻を合わせないとな」
「じゃあボクが」
「いや、悪いがサクヤ、お前の番ではない。だがフランカ、お前に手伝ってもらうぞ」
「ええ、任せて頂戴」
「頼んだぞ、フランカ」
「あたしはフランカじゃない、フィーネよ。フィーネ・ミロシェヴィッチ。それがあたしの本当の名前」
「フィーネか。かわいらしい名前だな」
「からかってるの?」
「そういうつもりはない。ともかく、よろしく頼む。フィーネ」
「ええ、こちらこそ」
この事件を終わらせるためには誰かが犠牲にならなければならない。
そう、誰かが。
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