イケナイ秘密

 オレは校長室へ出向いた。


「こんにちは。まだいたんだな」


 そう挨拶した。


「いやー、ローランド君。君は実に素晴らしい生徒だ」


 社交辞令は必要ない。


「校長先生、あんたにお礼を言いに来たんだ。オレはあんたを恨んでなんかいませんよ。むしろ感謝してもし足りないくらいです。今回の事件の謎が解けたから、先生にお話ししようと思ってな」

「謎? 何のことかね。事件は既に解決しておる。君が当該生徒を倒した。違うかね」

「いや、まだ終わってはいない」


 まだ残っている謎がある。


「実に複雑な事件だった。何故なら、2つの事件が複雑に絡み合っていたからだ」


 幸いなことに、2人の不審者はオレに自ら自白してくれた。だから出会ったときからオレには犯人がわかっていた。


「1つ目の事件はもうご存じだとは思うが、フランカによるリース誘拐未遂の件」

「素晴らしい、だがどうやって彼女が犯人だとわかったのかね?」

「西方の森で黒衣を纏って襲ってきたとき、すぐに彼女だと気づいた。香水の香りのおかげでな」


 だがそれは大したことではない。

 もっと重要で重大なミスを彼女は犯した。

「だが、もっと前、初めて彼女と会ったときから、彼女が不審者であるとわかってた」

「それは見事な推理だ」

「ああ、教えてやろう。それがもう1人の犯人の自白にも繋がっているからな」


 オレはある紙を取り出す。


「これは入学者テストだ」

「そのようだな」

「最も点の高かったリースのものを借りてきた」


 オレは校長にクイズを出す。


「では問題。このテストは全100問、1問1点の選択式問題。リースは1問ミスだった。リースの得点は何点だと思う?」

「99点ではないのか?」

「99点でいいのか? 計算は間違ってないっすね?」

「ああ、そのはずだ。その程度の計算間違いなどせぬ」

「聞いたな? 確かに99点と言ったことを」

 周りに問いかける。


「実にそれこそ不審者の回答なんだよ」

「何を言う?」

「リースの得点は98点だ」


 校長はポカンとしている。


「このテストには前提条件が隠されているんだ」

「前提条件だと?」

「ああ、受けた生徒ならみんな知ってる。教員だってみんな知ってるはずだ」


 それを教えてやろう。


「1問1点の選択式問題。但し……間違えた場合1点減点されるんだ。ほら、ちゃんとここに書かれているだろう?」

「だが、それがどうしたと言うのかね? 確かに変わったテストだ。間違えたからって減点になるテストはそうない。だからなんだと?」

「事の重大さを理解していないようだな。1問間違えるごとに1点減点される。仮に全問間違えた場合、何点になるとお思いで?」

「そんなの0点……いや!?……そんなまさか!!!」


 ようやく気づいたようだ。自らが犯したミスを。


「そうだ、そのまさかだ。全問不正解の場合-100点になる」


 0点を取るには、50問正解して50問間違える必要がある。


「つまり、オレは筆記テストに関しては、そんなに悪い正答率じゃないんだよ」


リースがオレを褒めたのはそういう理由だ。

「もうわかったな、あんた、入学式で早々に自白したんだ、自分がおかしな奴だってな

「だが、お前を無能扱いした人物は他にもいる!!」

「エリックが問題にしたのはオレの魔力。筆記は関係ない。あんたとフランカだけが、オレの筆記テストを問題にしたんだ」

「待ってくれ。確かに私は知らなかった。だが、リース姫の誘拐には関与していない!! 信じてくれ」

「ええ、オレは信じますよ」

「え……そうか…それなら有難い」

「それついても、オレから話させてください」


 オレはある似顔絵を取り出した。


「この人物に見覚え、あるよな?」


 西方の森で見つけた冒険者の亡骸の似顔絵だ。


「2つ目の事件、それは、あんたがリースを失脚させるための企みだ」


 筋書はこう。

 たまたまオレの0点のテストを見つけた校長は、入学式でオレを退学にすることを高々に宣告して、リースを誘い出した。正義感の強いリースなら、オレの退学を考え直すよう説得に来ると踏んでたんだろう。

 見事、その罠にはまったリースは契約を結んだ。達成させなければ内容はどうでもよかった。


 ゾーンの習得という無理難題を押し付けたものの、万が一を考え冒険者崩れのチンピラを雇った。


 まず冒険者ギルドにわざと報酬の低い依頼を提出して、オレたちにそれを受けさせた


 チンピラ共に西方の森で待ち伏せさせて、オレを襲わせるつもりだったのだろう。


 だが、西方の森で待ち構えていたフランカの召喚獣にでも襲われ、こいつらの亡骸が横たわっていたというわけだ。


「つまりあんたはリースの誘拐には関わってはいない」

「そうだ、話が早くて助かる」

「だが、あんたが悪人であることには変わりない」


 オレは探偵でも裁判官でも、ましてや正義の味方でもない。だからあんたを利用させてもらう。


「どういうことかね?」

「オレは筋書を偽装する」

「フランカではなく、あんたを主犯格に据える。責任の全てをあんたに擦り付ける」


 これにより、フィーネに危害が及ぶことはない。


「歴史ってのは勝者が語るものだ。敗者にその資格はない」


 どっちを生かし、どっちを殺すのか、その手綱を握っているのはオレだ。


「勘違いするな、かわいい女の子だからとか、そんな下心でフィーネを選んだわけじゃない。フィーネには利用価値がある、そう思ったから救ったに過ぎない。生きたければ示せ、お前の存在価値を!!」


 一応弁明を聞こう。


「私はバートリー家と近しい。お前を重職に推薦してやろう。そうすれば爵位を授かることも可能だ。悪い話ではない。頼む。この通りだ」


 校長は涙ながらに懇願する。


「いらないな、そんなもん」


 オレは校長を蹴り飛ばす。


「私を虚仮こけにしてただで済むと思うなよ」

「そうだ、魔法を解いてやろう」


 そう合図すると、校長室だった場所が廃墟に変わった。

 そしてフィーネが姿を現す。


「ここは校長室じゃない、ただの廃墟だ」


 フィーネの幻術により校長を騙していた。

「終わりだ」


 剣を構え、首を刎ねようとしたその時。

 校長の背後に何者かが現れ、首を斬った。


「サクヤ!! 何故だ?」

「言ったでしょ、キミにもう苦しい思いはさせないって」

「ったく、いいところを持っていきやがって」


 オレがけりをつけるつもりだったのだが。


「ねえ、校長の首、斬れてないわよ」


 フィーネが指摘する。


「はっ?」

「えっ!?」


 校長の首は接着剤でもついているかのようにくっついた。


「どうなっている?」

「えぇ!? まさか新手の能力とか?」


 おいおい、もうやめてくれ。もう一波乱あるとか聞いてない。


「違います。わたしの魔法ゾーンです」

 そこに現れたのはリース。


「リース……何故?」

「サクヤさんと同じ理由です」


 リースもオレに手を汚して欲しくなかったらしい。


「わたしの今使った魔法、詳しくは言えませんが、ちょっとした禁術なんです」

「禁術?」

「わたしと言えど、無許可で使ったら罰が下るほどのすごい魔法なんですよ」


 首を刎ねた人間が元に戻るほどの魔法。

 普通ではないのは確かだ。


 校長は元には戻らない。

 よぼよぼに老け、元が誰かわからなくなるまで変化する。


「もはやこの人は校長ではありません。記憶も失っているので、嘘がバレることもありません」


 なんて素晴らしい魔法。敵に回したくないな。

 本当は打ち取りたかったが、まあいい。蒸発したことにしよう。

 本物の校長室は今頃ノルムが工作してくれているはずだ。


「ローランド、知っていますか? 男の子と女の子が仲良くなる方法を」

「さあ」

「それは秘密を共有することです。それも、イケナイ秘密を」


 イケナイ秘密……ねぇ。


「だから1人で悪巧みはなしです。わたしたちとこの秘密を共有しましょう」

「ああ、わかった」

「じゃあボクも」

「あたしも」


 4人で手を合わせる。


 宝石って美しい。

 何故なら原石を削って削って、とにかく傷つけて整えたから。


 彼女たちも同じ。

 リースのサファイアの瞳も、

 サクヤの翡翠石の瞳も、

 フィーネのアメジストの瞳も、

 どれもみんな輝いている。


 いくつもの困難を乗り越えて、

 幾多の闇を背負ってここに至った。

 フィーネだけじゃなく、リースも、サクヤも。

 だから強く、美しい。


 だからこそオレは

 自分の手を汚してでも、

 真実を歪めてでも、

 その輝きを守りたいと思ったんだ。


 とにかく、これで終わった。

 悪者はいなくなり、リースもフィーネも助かった。

 願わくば、この平穏が長く続かんことを。


 第1章 完


――――――――――――――――


 これにて第1章完結です!

 ここまで執筆できたのは応援してくださった皆様のおかげです。

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 第2章は少し間を開けてから更新の予定です。

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