過去
あたしの名前はフィーネ。
フランカは偽名。昔の友達の名前を借りただけ。
あたしは獣人ではない。
半獣人だ。
獣人と人間の間に生まれた子をそう呼ぶ
言わば、獣人と人間のハーフだ。
人間たちは十把一絡げに獣人と呼ぶけど。 とにかく、周りの人々はあたしとは違う姿をしていて、知らない言葉を話していた。
「おかあさん! どうしてわたしにはワンちゃんのみみがあるの?」
病気で寝ていたお母さんにそう尋ねた。
「……ごめんね」
「なんで? おかあさんにも、きんじょの子にもないよ」
「ごめんね、あなたを……故郷に……連れて帰れなくて」
お母さんはひたすら謝るだけで、答えてはくれなかった。
「ごめんね、フィーネ」
握っていた手から、力が抜けた。
「おかあさん、起きてよ! ねえ、おかあさんってば! うわあああああぁん」
そうして病気だったお母さんは息を引き取った。
どれだけ泣いたかは覚えていない。
お母さんはあたしが獣人の子であることを周囲に隠していたみたい。
だから、あたしに獣の耳があるのが明るみになると、知らない大人に収容所のような場所に連れて行かれた。
そこにはあたしとはちょっと違うけど、あたしのように動物の耳を持った人がたくさんいた。
そこからが本当の地獄の始まりだった。
暗い部屋に獣人1人が入った檻がいくつも無造作に置かれていた。
そこにあたしも入れられた。
「グルルルゥー」
「ガオォォォ!!」
獣の唸り声が絶えず聞こえた。
「ニンゲンコロス」
獣人の知性は様々で、全く言葉を話さないものから、多少は言葉を理解するもの、さらには人間と変わらないコミュニケーションを取ることができるものまでバラバラだった
でも、あたしは彼らから人間だと思われており、歓迎されていないことは変わらなかった。
そこで家畜のような扱いを受けながら、しばらくの間過ごした。
それから何年か経つと、人間の学校に通わさせられるようになった。
そこにはべリア人とそれ以外の人種の子供が同じ教室で授業を受けていた。
教室の左半分がべリア人、右半分がそれ以外という風に分かれていた。
「お前の席はあそこだ」
先生が指を差した場所には机も椅子もなかった。
「先生、机と椅子がありません」
「犬に机と椅子は必要ない。さあ行け!」
困惑しながら歩き出したあたしを先生は蹴りとばす。
「2足歩行で歩く犬がどこにいる。前足を使って歩け」
反抗的な目を向けると、魔法で痛めつけられた。
床に手をついて這うように進むあたしをみんなは笑った。
給食の時間になった。
ベリア人の生徒はパンとスープ、そうでない生徒は吹かした芋1つ。
でもあたしは何だかよくわからない残飯のようなものが餌入れに入れられて出てきた
床に置かれた餌入れに口をつけた。
あたしは理解した。
べリア人でない生徒の不満の捌け口だと
自分よりも下の存在がいることで、あいつよりマシだと安堵させるための羊だった。
学校からの帰り道。
「待てよ犬」
「お前のせいで教室が獣臭かったんだ。謝れよ」
「あんたたちだって人間臭いわよ」
クラスの男子があたしに絡んできた。
「なんであんたたちの言うこと聞かなくちゃなんないの?」
「生意気言うな」
「そうだ、そこにおすわりしろ」
こいつらに教えてあげた。あたしのほうが上だってことを。こいつらを殴った。
「覚えてろ」
そうしてその場からはいなくなり、あたしはそのまま収容所へと帰った。
けれども翌日。
「犬が人間様に盾突くとどうなるか、たっぷり教えてやるよ」
私は拷問を受けた。
流石に魔法を使う大人には勝てなかった
そんな中であたしに手を差し伸べてくれた女の子が1人だけいた。
「こういうのやめよう」
その子はあたしにつけられた首輪を外してくれた。
「わたしはフランカ。あなたは?」
「フィーネ」
「フィーネって言うんだ。よろしくね」
フランカはあたしのお母さんと同じラヴァント人だった。そしてあたしを1人の女の子として扱ってくれた。
でも。
「野蛮人が犬を人間扱いするとは、ベリア人に対するこれ以上ない冒涜だ」
そう言われて連れて行かれてしまった。
翌日、彼女は川で溺れて亡くなったと聞かされた。
でも、絶対違う。
消されたんだ。
そしてあたしに情けをかける生徒はいなくなった。
そうして収容所と学校を往復する日々がしばらく続いた。
それから数年後。
その時は来た。
その日は収容所の獣人を戦わせることになっていた。
そこで初めて獣化を経験した。そして闇の魔力を拳に乗せ、あらゆるものを破壊しつくした。
その後、あたしは学校へ向かった。
「やめろ、悪かった」
「許して」
最早大人も恐怖の対象ではなかった。あたしを虐めた全ての人間を根絶やしにした。
そして街中を憎しみの業火で燃やし尽くした。
だけど、1人の男があたしの前に立ち塞がった。
そしてあっという間にやられてしまった。
「君がこの街の人間を皆殺しにしたの?」
あたしは首を縦に振った。
「素晴らしい」
その男は気味の悪い笑みを浮かべた。
「君が何者かなどどうでもいい。力さえあれば誰だって構わない」
さらに彼は続けた。
「1万人の愚民と1人の才脳ある子を天秤にかけるなら、僕は1人の才脳を取る。そういう人間だ。愚民が何万人死のうとどうだっていい。もっと怒れ、もっと憎め。そして闇の力を爆発させろ」
彼が誰かはわからなかったけど、帝国の中の相当偉い人だってことはわかった。
それから、魔力と人間離れした身体能力を買われ彼の研究を手伝ったり、暗殺を請け負ったりもした。
そうしてあたしは、リース姫を誘拐するために王国へとやって来た。
なんで素直に従っていたんだろう。
でもあいつに計画を壊されてから、それもどうでもよくなった。
ここから逃げて、穏やかに暮らそうって思った。
でもそれも叶わなかった。ローランド、彼には勝てなかった。
あたしの闇をも砕く、あれほどの力。一体彼は何を……
でも、もうどうでもいい。
これでやっと、あたしの苦しみは終わる。
人間という悪魔だらけの世界からさよならができる。
本当に惨めな生涯だった。
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