烙印(スティグマ)

烙印スティグマ?」


 聞いたことがない。


烙印スティグマ悪夢ヘル・オブ・ジ・アース


 地面に禍々しい魔力が広がる。

 フィールドに作用する魔法のようだ。


「行ってきなさい」


 1匹の狼が現れる。


「炎刃」


 炎の刃は狼をすり抜ける。


「幻術か」


 狼に噛みつかれる。


「痛っ!」


 幻術だと見破っているはずだが、どういうことだ?


「あたしの烙印スティグマは幻術を現実にする。この中ではどんな幻術も見破ることはできない」


 こっちの攻撃は通らないが、向こうの攻撃は通る。

 ひたすらに狼の攻撃を躱す。

 それしかできることがない。


「あんたさ、地獄ってどんなところだと思う?」

「さあ」


 そんな事、考えたことはない。


「溶岩だらけの灼熱地獄はどう?」

「熱っ!!」


 地表からマグマが噴き出し、熱気が襲う。 

 

「ぐっ」 


 活火山の火口にいるみたいだ。

 熱いなんてもんじゃない。

 焼け死んでしまいそうだ。


「それとも極寒の地かしら」


 マグマが一瞬にして氷に変わる。


「痛っ」


、凍てつく吹雪で体が凍える。。

 足元は凍り、動くことができない。


「あるいは魔物だらけの毒の沼とか」


 次は紫色の沼に浸かる。

 見たことのない異形の魔物たちに取り囲まれる。

 奴らは嘲笑うように愉悦の表情を浮かべている。


「これが……地獄か」

「いいえ、地獄ってこんなものじゃないわ。だって焼け死のうが凍え死のうが、魔物に殺されようが、一瞬じゃない」

「だったら?」

「あたしの考える地獄とは、人の世。どれだけの苦しみを味わっても、命が尽きるまで終わることはない」


 魔物と毒の沼は消え去り、元に戻る。

 だが、まだ痛みを感じる。


「あなたはどう思う?」

「人生は退屈だとは思う。だが地獄だとまでは思わないな」


 そこまでの苦しみを味わったことはない。


「そう。じゃあ教えてあげる」


 いきなり錠前が現れ手足を拘束される。


「安心して、すぐには殺さないわ」


 フランカの幻術でできた分身が複数体現れる。


「じっくり痛ぶって、殺してと懇願するまでは生かしといてあげる」


 フランカたちは爪を立てないように殴ってくる。

 顔、腹、手足、至る所を打撃攻撃でやられる。

 拘束されているオレは何もできず、ひたすらボコボコにされ続ける。


「どう?」

「痛い。ただそれだけだ」


 全身は痣だらけだ。


「この程度ではまだ心は折れそうにないわね」

「当然だ」

「ならもっと虐めてあげる」


 今度は鋭い爪であらゆる場所を引っかかれ、突き刺される。

 全身が痛む。

 だがそれだけだ。

 生憎とオレはこの程度で心が折れるようにはできていない。


「これでも足りないようね」

「悪いが、オレにとってはさっきのほうがよっぽど地獄だ」

「まだまだこんなものではないわ」

「これがお前の受けた苦しみ……の一端なんだろうな」


 フランカがどんな境遇にあったのか。

 それは想像がつかない。

 だが、なんとなく、オレと似た部分があるのではと思った。


「オレもな、最初は学校なんか自分には必要ない、通いたくないって思ってた。でも、リースやサクヤ、その他のいろんな奴らと出会って、過ごした学園での日々は……確かに楽しかった」


 こんな風に思ったのは今までの人生で初めてだ。


「オレは、あの日常を取り戻す為に戦うんだ。リースやサクヤ、ノルムにナッシュ……それにフランカ、お前もそうだ。またお前たちと共に学園生活を楽しむんだ」

「あたしまで友達ごっこに巻き込まないでくれる!!」

「オレはまだ遊び足りない。だからこの勝負に勝って、最高の思い出を作るんだ。だから負けられねーな!」


 身体の奥底から、不思議な力が湧いてくる。


「前言撤回。今ここであんたを殺す! そして二度とその口を利けなくしてあげる」


 分身ではなく、本体のフランカが爪に闇属性の魔力を込め、向かってくる。


「……それは無理な話だ。お前の烙印きず、オレが消し去ってやるよ。ゾーン!!」


 感じたことのないこの力を解放する。


「フォース・オブ・マーベリック!」


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