闇属性の戦い

 フランカとの戦いはお互いが決定打を決められないまま膠着状態が続く。

 何度となく放たれる攻撃を受けていく。


獣連撃じゅうれんげき


 高速の連撃が襲ってくる。

 正面への攻撃は受け、サイドに流れた攻撃は躱し、フランカの技を凌ぐ。


「面倒ねぇ!!」


 怒りに任せて雑になった一撃を弾き返し、カウンターを喰らわせる。


「火一文字」


 横に払った火炎の一振りは、胴体を斬る。


「うっ」


 フランカは後退し距離をとる。


「すばしっこい奴だな」


 剣を魔力を一瞬だけ止めて振る。

 ここで鎌鼬かまいたちを当てられれば大きい。


「ん?」


 フランカの犬耳がぴょこんと動く。


「何か来るわ」


 爪で地面の砂を巻き上げる。

 砂埃が舞い上がる中で、小さな渦を巻いている。


「あれが謎の攻撃の正体ね」


 その渦はカーブしながらフランカの方向へ。


「見えればどうってことないわね」


 その攻撃は簡単に回避される。


「鎌鼬をよく見破ったな」


 しかし恐るべき直感。あんな方法で見破られるとは思わなかった。


「人間の癖に……随分と舐められたものね」

「そんなに人間が嫌いか?」


 わからない。フランカがどうしてそこまで人間を憎むのか。


「ええ、あたしよりものろまで非力な癖にあたしを蔑む人間が……大っ嫌い!!」


 フランカの両腕から禍々しい魔力が溢れ出る。


「ムカつく! 人間のすべてが」


 フランカから溢れ出す魔力はどんどんと増幅していく。


「闇属性か。なら……」


 闇属性に有利なのは光属性。

 逆も然りではあるが。

 今こそリースに教わった光属性の魔法の真価を発揮するときだ。


「こっちは光で戦おう」


 剣に灯すのは光属性の魔力。

 常に有利な属性を用いて戦うのが魔法剣士のセオリーだ。


「生意気なのよ!」


 剣と爪がぶつかり合う。

 その衝撃はさっきの比ではない。

 フランカの闇は、ぶつかり合う度に光を飲み込みんでいく。


「遅いわ!」


 フランカの攻撃に合わせて剣で受けるのがやっとだ。

 だがフランカのパワーは攻撃の度に増していく。


「不味い」


 この攻撃は受けきれない。

 そう感覚で察知した。

 横へと躱す。


 ドンッ。


 攻撃は後ろにあった木を一瞬で粉砕した。


「フッ、マジか」


 元々の狂暴な攻撃力に闇属性の力が加わり、より強力になっている。


「これで終わりよ」


 フランカは幻術を使い、分身する。

 オレの周囲を高速で周る。


「ハハッ、わかんねー」


 前の戦いでは足音で幻術を破ったが、今回は早すぎて音でも本体を察知できない。

 これだけ早いと香水の香りでの察知も難しい。


夢現むげん八獣連弾やじゅうれんだん


 分身したフランカがオレの八方から襲う

 どれが本体か見破ることはできない。

 それならば――


月輪がちりん斬り」


 全方位を斬ればいい話だが。


「打たされたな。全部幻術か」


 光を纏った全方位攻撃は空振りに終わる。 360度どこにもいないのなら残るは。


「上しかないなぁ!!」


 溢れんばかりの憎悪を第六感シックスセンスでひしひしと感じ取る。

 これは付け焼き刃の光属性ではやられる。 これは火、水、雷の3属性でも受けきれない。

 使いたくないが、背に腹は代えられない。 ムカつきを剣に込める。


「漆黒斬り」


 上からの攻撃を闇属性の斬り上げで返す。


「やっぱりあんた闇属性が使えたのね」

「ああ、これがオレのメインウェポンだ」

「王国人の癖に闇属性の適正があるなんて邪道ね」

「ムカつくんだよ。得意属性を安易に使えないのはな」


 リメリア王国において、闇魔法は属性ごと禁術指定されている。

 だからオレはそうそう本当の力を使えない。


「オレの本気の魔力は、お前の闇を凌ぐ」


 今の打ち合いでわかった。

 多分勝てる。

 フランカの憎しみを込めた闇は強力だ。

 だがそれでもオレには及ばない。

 それでもフランカの獰猛な爪の一撃を喰らえば逆転の芽はある。

 さあ、どうする?


「知ってる? 闇属性ってのはね、怒りや憎しみを魔力に変換したものなの」

「そうか。初耳だ。光属性とは真逆の性質みたいだな」


 そういう教科書的な知識はなかった。

 だが、使う中で感覚的にはわかっていた。


「あたしの苦しみと憎しみはこんなものではないわ」

「まだ見せてくれるのか?」


 不思議と、戦いを楽しんでいる自分がいる。


「あんた、ゾーンを習得しようとしていたみたいね」

「まあな」


 結局は習得できなかったが。


「あたしも使えるのよ」

「闇属性使いのお前が?」


 本当に使えるのなら是非とも見てみたい。


「ええ、あたしが教えてあげる。闇属性のゾーン。烙印スティグマを」


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