種族の差

「来い」


 剣を構え、まずはフランカの出方をうかがう。


「遅いわ」


 フランカは一瞬でオレの前まで現れ、獣化した爪で攻撃を仕掛けてくる。

 その攻撃を剣で何とかガードする。


「くっ」


 何度も繰り出される攻撃を後退しながら剣で受けていく。

 剣を持つ手に伝わる衝撃はかなりのものだ。


「この程度?」


 一度後ろに大きく飛び、距離を取る。

 ここから遠距離攻撃に変えたいところだが。


「逃がさないわ」


 すぐに距離を詰められる。

 なかなか隙を見せてはくれない。


「やるな」


 しかし魔力を使わず、素の攻撃力だけでこれとは恐ろしい。

 猛獣と戦っている気分だ。

 その後も攻撃は続く。

 辛うじて受け切っているが、こんな受け方では長くは持たない。

 相手の長所を出させない戦い方に持っていきたいところだ。


「まだまだよ」


 爪での連撃の後に足での払いを混ぜてくる。

 それをオレはジャンプで躱す。

 フランカにに僅かな隙が生まれた。


「そこだ。雷鳴斬り!」


 左腕でガードするフランカ。


「堅っ!!」


 会心の剣撃が弾かれる。

 剣の切れ味は最高のはず。

 オレの腕もなまくらじゃない。

 なのにそれを弾くこの硬さ。尋常じゃない。


「死ね」


 剣が弾かれた隙を赤きまなこは見逃してくれない。

 堅牢かつ獰猛な爪で殴られる。


「ぐはっ」


 フランカの攻撃を受け飛ばされる。

 追撃に備え、すぐに体勢を立て直す。

 だが予想に反してフランカは距離を詰めて来ない。


「あんた達、出番よ」


 フランカがかざす手には魔法陣が浮かんでいる。

 オレの周囲にたくさんの黒い煙が湧き出し、その中から鋭い眼光でこちらを見る何者かが現れる。


「これだけの獣を一気に召喚するとはな」


 おそらく召喚獣と幻術を混ぜている。

 本物と幻術の見分けがつかない。非常に厄介な技だ。


夢現むげん つむじかぜ


 オレを包囲していた狼が一斉に襲いかかる。


「水月斬り」


 水を纏った剣で周囲を薙ぎ払う。

 一番槍を務めた狼達は血しぶきを上げ、倒れていく。

 しかし、その後方から襲いかかる無数の狼達は、仲間の屍を踏み台にオレへ飛び掛かる。

 体のあらゆる場所を噛まれる。もはやどれが幻術でどれが現実かわからない。


「くっ」


 全ての狼がオレに噛みついているように感じる。

 狼の牙は徐々にオレの意識を刈り取っていく。

 意識が朦朧もうろうとする中、剣を天に掲げ、夜空を見つめる。


「雷龍降臨」


 黒雲が月を隠し、周囲は闇に包まれる。

 その刹那せつな、一筋の雷が闇夜を貫き、静寂を破る。

 雲が晴れて再び出でし月は、平然と穏やかな夜を照らす。


 雷に打たれた狼の亡骸なきがらが周りに横たわっている。


「今のは流石に効いたぞ」


 身体を見ると、実際に噛まれたのは数か所だが、幻術の分も含め、何十匹もの狼に噛まれたように感じる。


「だがな、ここからが本番だ」


 剣先をフランカに向け、闘志を見せる。


「あたしのとっておきを耐えたことは褒めてあげる。でもあんたがいくら強くても、あたしには勝てない」

「どうかな」

「どれだけ足掻いても無駄よ。だってあんたは人間だもの」


 パワーもスピードも段違い。

 そこで戦っていては勝ち目はない。

 付け入る隙があるとすれば……

 魔力しかない。

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