化けの皮を剥がしたら
日は暮れ辺りは暗くなり、月明かりだけが周囲を照らす。
木々に囲まれ人気のない一角で待ち伏せる。
学園にはいくつもの門があるが、森林から閑静な住宅街へと通じており、ほとんど誰も使わない出入口はここだけだ。
見たことのない銀髪の少女とすれ違う。
「こんばんは」
「は? 何か用?」
その少女は嫌悪感を隠すことなくこちらを睨む。
「人を探しているんだ」
「興味ないわ。じゃあ」
「まあ待て」
オレは少女の腕を掴む。
「何するの。離して」
「お前の顔をもっとよく見せてくれ、フランカ」
月明かりに照らされて、はっきりと顔が見えた。
神秘的な輝きを放つ銀色の髪。
子犬のようにくりくりとしたアメジストの瞳。
オレと同じくらいの年齢に見えるその顔はフランカとは似ても似つかない。
完璧に別人だ。
「離して!! この変態」
フランカはオレの腕を振り払う。
「確かに姿はまるで違う。だが、お前は確かにオレの探している人物だ。間違いない」
今まで見ていた赤い髪で大人びた妖艶な姿は幻術で作り上げた虚像。
おそらく今の、銀髪をした年齢相応の姿がほぼ本物だろう。
「ペットを飼ったことはあるか?」
「別に」
「あれは召喚獣だからペットじゃないのか」
「……何のこと?」
「ペットを飼っている家にお邪魔すると、家主は気づかないかもしれないけど、結構、獣臭がきつかったりするんだよ」
「はぁ? 何が言いたいの?」
「普段から自分の周りにある匂いには鈍感になるってことだ。どんなに敏感な嗅覚を持っていてもな」
だからこそ彼女は気づいていない。
リースにもサクヤにもない、彼女にしかないある特徴に。
「だからフランカ、お前は今も気づいていないんだ」
「何を?」
「今もお前からラベンダーの香りが漂ってくることを」
「!!」
これが黒衣を被った奴がフランカだとわかった理由であり、西方の森での最後の攻撃を見切れた理由だ。
「そんな事でバレるなんて」
だが話はこれでは終わらない。
「実に見事だ。幻術で姿そのものを騙し、生徒になりきっていたのだから。自身のルーツや性質をあえてそのまま使うことはフランカという偶像にリアリティを与えた。お前が犯した2つのミスがなければ、オレはお前と接する中で敵だと気づけなかった」
認めよう。一流のスパイであると。
「だからこそ、お前ほどの優秀なスパイが、そんな単純なミスを犯すとは思えない」
香水が単なるおしゃれだとは考えづらい。
「お前にはまだ幻術で隠しているものがある」
「そんなもの……ないわ。あたしは間抜けなスパイよ」
フランカは初めて焦った表情を見せた。
「いや、何か理由があるはずだ」
リースに教わった呪文を使う。
「ルクス・リビール」
杖から溢れる光がフランカを照らす。
「何もないわ」
「いや、確かに破った」
フランカに変化はない。
強力な幻術を破るだけの光属性の習熟度がオレにはない。
だが光によってできたフランカの影には
「影を見てみな」
頭の上に生えた大きな獣耳があった。
「お前は獣人であることを悟られないように、香水で誤魔化していた」
獣臭をかき消すために香水を普段から使っていた。
故に香水の香りに気づけなかった。
「だから黒衣のマントでオレたちを襲ったときも香水を手放さなかった。違うか?」
おそらく帝国の仲間にすらも自分が獣人であるという事実を隠していたのだろう。
「フフッ、フフフ」
フランカが笑い出す。
「本当の意味で幻術を破ったのはあんたが初めてよ」
フランカは自身にかかっていた最後の幻術を取り払う。
オレの肉眼でも、大きな耳がはっきりと見える。
「あたしの秘密を知られたのだから、生きて帰す訳にはいかないわね」
フランカの体が疼き出す。
「ウウウウー」
うめき声をあげる。
目の色が赤くなり、毛が伸び、髪質も変わる。
そして手が大きくなり、ナイフくらいの大きさの鋭い爪が生えてくる。
それはもはや人間の手ではない。完全に獣だ。
「
これが獣人の特殊能力、獣化。実際に見るのは初めてだ。
「あんたには感謝するわ。今までは隠していて使えなかった本当の力がようやく出せる」
あの強力な幻術は囮と言わんばかりの威勢だ。
「これで思う存分人間を
「そうか。じゃあオレも本気で行こう」
フランカとの最後の戦いが今、始まる。
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