黒衣の敵の正体を見破った

 ずっしりと重い扉を押し、中へと入る。

 中は暗い。


「趣味の悪い黒魔術か?」


 リースが禍々しい魔法陣の中で体を縛られ囚われている。

 鏡やら水晶やら魔物の骨といったものが周囲に置かれている。

 西方の森で会った黒衣を纏った奴が、フランカの横で見張るように佇んでいる。

 フランカは台座のようなものに魔術を施していた。


「来タナ」


 黒衣の敵がこちらに気づく。


「リースは返してもらう」


 剣を構える。


「終ワリダ」


 敵の姿が一瞬にして消える。

 次の瞬間、敵の3体の分身がオレの目の前に現れ、首を絞められる。


「効かないな」


 オレはその攻撃を見切っている。

 そのままゆっくりと歩く。

 正面の敵をそのまますり抜ける。


「オレに幻術はもう効かない」


 幻術にリアリティを感じなければ、ダメージを負うことはない。


「話をしよう」


 再び敵は姿を現す。


「お前の立ち回りは完璧と言っていい」


 オレはゆっくりと歩きながら距離を詰める。


「だがお前は2つのミスを犯した」


 黒衣の敵はフランカを掴み、人質にする。


「無駄な事を」


 剣に雷を纏わせる。


「待って、あたしに当てないで」

「心配するな。ちゃんと敵を狙ってやる」


 怯えるフランカ。

 不敵に佇む敵。


「雷刃」


 雷の剣撃を飛ばす。

 直前で跳躍し、攻撃を躱すフランカ。


「外したか」

「ちょっと、何してるのよ」

「敵を狙っただけだ」


 そのままオレは敵へと攻撃を加える。


「不登校の引きこもりにしては随分と俊敏だな」

「フフフ、もう隠しても無駄みたいね」


 敵は観念し、幼気いたいけな少女を演じることをやめた。


「よくわかったわね。あたしが敵だって。褒めてあげるわ」


 フランカは自分が敵であることをあっさりと認めた。


「オレからも賛辞を贈ろう。よくバレずに学園の生徒になりすまし、これだけの作戦を実行に移した」


 王都を魔物に襲撃させたのもこいつらの仕業だろう。

 魔物に注意が向いている間に、少数精鋭で学園を制圧し、リースを誘拐する。フランカが全てやったとは思わないが実に見事だ。


「本当はあの森でこの娘を回収できればよかったのだけど、とんだ横槍が入ったものね

「今ここでは何をしていたんだ?」

「リース姫を転送するための魔法を準備していたのよ」


 大掛かりな仕掛けの意味がわかった。

 フランカをわざわざスパイに仕立て上げた帝国側の意図も。


「教えてくれないか? どうしてわざわざリースを狙ったのか?」

「いいわ。あんたになら教えてあげる。帝国は莫大な闇属性の魔力を欲している」

「リース姫は光魔法の使い手。関係ないだろう?」

「簡単に言えば、闇属性というのは光属性をマイナスにしたもの。水と氷のように、光と闇は同じ属性とも言える」

「つまりリースを攫って闇魔法を使わせようって魂胆か」

「まあ、そういうことね」


 だが、腑に落ちないことがある。


「どうして帝国を憎むお前が帝国に与する?」


 恐らくフランカが帝国によって祖国を追われたことや、天才的な魔術師であることは事実。

 故に帝国のスパイだと発覚することはなかった。

 だがそうなれば、帝国に従っていることと矛盾する。


「あたしが憎んでいるのは帝国だけじゃない。人間全てよ」

「ん?」

「それが叶うのなら、帝国だろうとなんだろうと構わない」

「そうか」


 とにかく、交渉が通じないということだけはわかった。


「お前を倒す」


 剣を構え直す。


「あんたに邪魔されたら、この仕掛けはもう動かせない。またね」


 オレの周りに無数のナイフが出現する。


「さよなら」


 フランカは姿を消す。

 そしてオレの周りのナイフがオレも目掛けて勢いよく飛んでくる。


「ローランドーー!!」


 きっとリースにはオレがハリセンボンに見えているのだろう。

 だがオレは無傷だ。


「心配するなリース、これは幻術だ」


 ナイフは本当には存在していない。だが。

「あの中に1本だけ本物を混ぜるとはな」


 ナイフを白刃取りしていなければ危なかった。

 だがその間にフランカには逃げられてしまった。


「リース。大丈夫か」

「はい。魔法陣は効力を失いつつあります。剣技でわたしの縄を斬ってもらえますか?」

「任せろ。鎌鼬」


 魔法陣の中まで剣撃が通り、リースの縄が斬れる。


「あとはわたしでなんとかします」


 リースが床に手を置き、そこから魔力を放出する。

 魔法陣が解けていく。


「ありがとうございます」

「礼なら他のみんなに言ってくれ。オレはまだ何もしちゃいない」


 フランカを取り逃がしてしまった。だが問題はない。


「オレはフランカを追う」


 フランカはオレがここで必ず倒す。


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