仲間たちの実力

 鉄球使いの男はオレの行く手を阻んでいる。

 遠距離から魔法で攻めて隙を見て前進。そこから再び後退して……と繰り返していけばその内倒せるだろう。

 だがそれではあまりにも時間がかかり過ぎる。

 おそらく待ち構えているの敵は他にもいる。

 それに、間違いなく西方の森で遭遇したあいつもいる。

 余力は残しつつ、スピーディーに倒したいところだが。


「助けに来たぜ」


 思案していると、声が聞こえた。

 一瞬だけ首を振り、後ろを確認する。


「ナッシュ。何故来た?」


 魔法陣の影響でまだ動けないはず。それなのにどうして?


「俺はもうへっちゃらだ。ここは俺に任せろ」


 ナッシュは武器を持っていない。

 どうやって戦うのだろう。


「見てな」


 脚から魔力を放出する。

 武闘家タイプのようだ。


「何人でもかかって来るがよい」


 敵はナッシュに向かって鉄球を放つ。


「行くぜ!」


 怯むことなく鉄球へ突っ込んで行くナッシュ。


「フェノミナル・ストライク」


 右足の強烈な蹴りで鉄球をシュートしようとする。


「ぐわっ」


 しかし鉄球の勢いが勝り、跳ね飛ばされてしまう。


「大丈夫か? ナッシュ!」


 魔力で身体能力を強化していたとは言え、負傷してしまう。


「ああ、まだやれる。こいつには全力でいかねーとな」


 立ち上がるナッシュ。


「見てろ、ローランド」


 ナッシュは右腕を構える。


「ゾーン!!」


 白い闘気オーラがナッシュの右腕から溢れ出す。


「何をしても無駄じゃい」


 再びナッシュに向かって鉄球を放ってくる。


神の手ラ・マノ・デ・ディオス


 オーラを放つ右腕の一撃で、鉄球を粉々に砕く。

 将に反則級の一撃だ。


「なんですとぉー!! こうなれば意地でも」


 これで敵は攻撃の手を失った。

 もう脅威ではない。


「ゾーンは切れちまったが、こいつを抑えるくらいならできる。先に行け」

「ああ、助かる」


 武器を捨てた男と取っ組み合いをするナッシュ。

 これで中に入ることができる。

 この場はナッシュに任せて先に進むことにした。




 * * *



 塔の中に入る。


「ローランド」

「ノルム。いつの間に」


 何故か男子の制服に着替えている。


「私に考えがあるんだ」


 ノルムの能力と、制服を着替えた理由。

 そこからノルムの戦略を推察する。


「わかった」


 ここはノルムに任せよう。




 * * *




 ローランドが階段を登り、上のフロアへとたどり着く。


「誰もいないようだね」


 暗いフロアを慎重に歩く。


 突如としてフロアの大半が結界に囲まれる。


「馬鹿め。もう外に出ることはできぬ」


 敵がゆっくりと近づいて来る。


「お前は、講堂からリースをさらっていった男だな?」


 ローランドが問いかける。


「お前はの動きはここで封じた。もうあの姫は助けられない」

「術士のお前を倒せばいいだけだ」

「これは我が命を投げ打って張った時限式の結界。我を倒したとて解くことはできぬ」

「なんだと?」

「敵のジョーカーを無効にできればそれで十分だ」

「へぇ、オレのどこにそんな警戒する要素があるって言うんだ?」

「あいつと互角にやり合った。そんな奴はそうそういない」

「ふーん」


 ニヤリとローランドの顔で笑う。


「そんな君に残念なお知らせ」


 敵は無言で見つめる。


「私はね、ローランドじゃないよ」

「抜かせ」

「本当さ。じゃあ見せてあげるよ」


 ローランドの顔が変化する。


「私の得意魔法は変身術なんだ」


 ノルムが正体を現した。


「お前があの女に化けたのではないか?」

「全く、お馬鹿さんだね」

「何?」

「だいたいローランドは君と入れ違いで講堂に来たからね。君のことを知っているはずがない」

「ううっ!! 貴様ぁ!! 騙したな」


 敵は理解した。

 ローランドを止め損ねたと。




 * * * 




 ナッシュとノルムのおかげで最上階まで無傷で来れた。

 今までのフロアと違い、外の光が入ってきており明るい。

 おそらく奥にあるあの扉の向こうにリースがいるはずだ。


「誰もいないはず……ないよな」


 警戒しながら歩く。


「っ!!」


 下から揺れを感じ、即座に後ろに跳ぶ。

 床が抜ける。


「ここは通行止めだ」


 やはり敵がいた。

 大柄の男だが、近接タイプか魔法タイプか、まだわからない。


「お前に絶望を味わわせてやるよ」


 敵は床に魔力を放つ。


「何!?」


 床が抜けていく。

 敵の周りと、一部を除いた全ての床がなくなる。


「お姫様はあの扉の向こうだ。行けよ」


 魔法を使っても跳躍できる距離ではない

 高さも相当ある。

 落下すれば文字通り一巻の終わりだ。


「糞が」


 1マスだけ浮いている床がまばらに存在している。

 そこを伝っていけば、なんとか向こう側へ行けるかもしれない。

 だがこのフロア自体が敵の術中。迂闊に飛び越えられない。

 氷で床を作ろうにも、何もない場所でこれだけの広さの氷を張るのは無理だ。


「万事休すか」


 そう思った。


「ホップ、ステップ、ジャーンプ!!」


 下から駆け上がってくる女の子の声がする。


「やっほーご主人。どしたの?」

「見りゃわかるだろう。あっちへ行けないんだ」

「あの扉の向こうにリースちゃんとフランカちゃんがいるの?」

「そうだ。間違いない」

「なら先輩であるボクに任せなさい」


 サクヤならここを飛び越えて行けるかもしれない。


「オレがあいつの攻撃を防ぐ。その間にお前は……」

「キミが行かないで誰が行くの?」

「オレにここを通るのは無理だ」

「リースちゃんを助けられるのはキミだけだよ」

「だけど」

「いいからボクに任せて」


 サクヤがオレの手を取り、もう片方の手で印を結ぶ。


「桜隠れの術」


 桜吹雪がオレたちの視界を一瞬阻む。

 花びらが散ると、敵の背が見えた。


「嘘だろ……」

「にひひっ、これくらいお安い御用だよぉ」

 空間魔法で一っ飛びとは驚いた。


「さぁご主人、キミには指一本触れさせないから安心してリースちゃんのところへ」

「頼んだ」


 後ろを向くとすぐ扉があった。

 扉を押しながら、戦況を見守る。


「そこの敵さん。ボクでよければ遊んであげるよぉ」

「ふざけやがって!! くたばれー!!」


 敵は剣を投げて来る。

 かなり勢いがある。

 だがサクヤなら——


 グサッ。


「サクヤぁぁー!!」


 サクヤの胸を貫く。

 そんな馬鹿な!!


 ドロン。

 瞬時に丸太へと変化する。


「ここだよ、ここ」


 天井を見上げる。

 逆さで立つサクヤがそこにいた。


「2回もキミに助けられたからね。先輩らしいとこ見せなきゃ」


 背後を取ったサクヤは漆のような黒髪を逆立てながら懐へと落下する。


「桜一文字」


 横に払った一撃を喰らい、敵は奈落へと落ちていく。


「大丈夫か、サクヤ?」


 勢い余って、サクヤも落ちていく。


「ムササビの術」


 空中で印を結ぶ。

 一瞬の桜吹雪で隠れた間にムササビのコスプレへと早着替えする。


「なんじゃそりゃ」


 ムササビのコスプレで滑空するサクヤを見て驚くも、安堵する。


「ボクはこのままゆっくり降りていくから大丈夫。リースちゃんを頼んだよぉ」

「任せろ」


 みんなから受け取ったバトンを無駄にはしない。

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