反撃開始

 講堂の扉を開くと、学園とは思えない異様な光景が広がっていた。

 多くの生徒がうずくまっており、壇上では知らない男がオネスタ先輩に何かをしようとしていた。


「これは踏んじゃ不味そうだな」


 床には禍々しい魔法陣が張り巡らされている。

 杖を取り出し、魔法を唱える。


「フリゴール」


 氷の魔法で壇上までの道を作る。


「まだ残っていた生徒がいたとはな」

「オレはもう学園ここの生徒じゃない。さっき退学になったからな」

「そうか、そりゃ残念なこった。で、何しに戻って来やがった?」

「一宿一飯の恩義を返し忘れていたからな」「あ?」

「オレの仲間おんなを返してもらおう」

「まさかこいつらみんなお前の女か?」

「そうだ」


 サクヤもノルムもオネスタ先輩も大切な仲間だ。

 誰1人欠けさせない。


「ムカつくねぇ、こんなかわいい子たちを独り占めするなんてよぉ」

「勝手に群がって来るだけだ」

「そんなにモテるように見えないけどな。まあいい。もちろんこいつらとは寝たよな?」


 変な事を聞く奴だな。


「まあ……ノルムとサクヤとなら」


 ノルムとは中等学校時代に野外実習で一緒に過ごしたことがある。

 サクヤは言わずもがなだが。


「寝心地はどうだった?」

「どういう意味だ?」

「どっちの女がよかったかって聞いてるんだ?」

「寝たらその後のことは覚えてない。だから知らない」

「は?」

「ん?」


 話が噛み合わない。帝国の訛りだろうか?


「はぁ、全く。恋愛と保健体育は本当に0点なんだから」

「今度ボクとリースちゃんでみっちり補習してあげないとねぇ」


 ん? オレがおかしいのか?


「いいさ。お前を見るや否や、こいつら我が子でも見るように安堵した表情になったな。お前を倒した後、目の前でこいつらと楽しんでやるよ」

「言葉の通じない敵とこれ以上話すことはない」


 オレは杖を構える。


「いいぜ、来いよ。召喚サモン!!」


 男は召喚術を使い、2体の鎧を出現させる。

 鎧は意思を持っているかのように動く。


「イグニス・ウィップ」


 杖先で燃える炎を鞭のように操り、攻撃する。


「ヒヒッ、あんまり効いてないようだな」


 炎は鎧の動きを止めるものの、焼き切ることはできない。


 杖を動かし、男の背後を狙う。


「おっと、もっとちゃんと狙わねぇと俺は倒せねぇぜ」

「別に、端からお前を倒す気はない」


 オレが狙ったのは別のものだ。


「あ?」

「お前なんか倒す価値もない」


 別にオレはこいつに何の恨みもなければ、戦う理由もない。

 このレベルの敵なら即座に無力化できる

 そうしなかったのは、オレよりもこいつを倒すに相応しい人物がいると思ったから。オレはただパスを送っただけだ。


「さて、散々弄もてあそんでくれたお礼をしなくてはね」

「試してみる? ボクに成長途中の力」


 ノルムとサクヤが物凄い殺気を放ちながら、拳に手を当て指を鳴らす。

 我ながら、とんでもない猛獣を野に解き放ってしまったものだ。


「おい、よせって、俺が悪かった」


 あまりの殺気に打ちひしがれるテロリスト。


「「問答無用!!」」

「ぐはっ」


 2人で男の脳天に一撃。

 一切の魔力を用いることのないグーパンで仕留める。

 女の子って怖い。

 だがこれで講堂を占拠する敵はいなくなった。


「うおおおおお!」

「やったあああああ!!」


 生徒たちは苦しみながらも歓声を上げる。

「オネスタちゃん」


 サクヤが演台の上で震えているオネスタの縄を解く。


「もう大丈夫だよ」

「……うん。ごめんね。私、なんにもできなくて」

「オネスタちゃんは何も悪くないよ」

「うん。ありがとう」

「それはボクじゃなくて後輩クンに言ってあげて」

「うん」


 とりあえずこの場はオレがいなくても大丈夫そうだ。


「オレはリースを取り戻しに行く」

「わかった。私も行くよ」

「1人で問題ない。魔法陣を発動させ続けている何かがこの講堂のどこかにあるはずだ。お前たちはそれを探して解いてくれ」

「わかった。任せて」


 この場はサクヤとノルムに任せて、オレはリースを追うことにした。




  * * *




 講堂に突入する少し前。

 オレは王都を取り囲む城壁の上から戦況を見守っていた。

 魔物との戦闘は防戦一方だが、こちらが敗れる気配もなかったので放置。

 学園の様子を望遠鏡で覗きながら、敵の様子を探っていた。

 学園の中にいつの間にか、禍々しい魔力を放つ塔が建っているのを発見。さらに、そこにリースとフランカが連れて行かれるのを目撃した。


 敵がここまでしてリースを狙う理由ははっきりしない。

 だがリースは膨大な魔力の持ち主。

 他のちょっと強い連中とはまるで異なる。 故に、殺すにせよ、他の手段を取るにせよ、対処するには時間がかかるはず。

 だからここは後回しにした。とは言えもう猶予は多くないだろう。


 講堂の占拠を解いた後で改めて塔の前まで来てみるが。特に様子に変化はない。

 男が1人突っ立っているのみだ。

 鎖に繋がれた巨大な鉄球を置いて、侵入者を待ち伏せしているようだ。

 残された時間は多くはない。とりあえず特攻をかける


「にょほほ、来ましたな。我は四天王の1人アウグスト」

「御託はいい。さっさと倒す」


 ここからは手は抜けない。


「潰してあげまずぞ」


 巨大な鉄球を投げつけて来る。


「雑魚が」


 鉄球は当たらなければどうということはない。

 繋がっている鎖の部分を斬れば、あとは本体(てき)を叩いて終わり。

 のはずだったが。


「何!?」


 鎖は硬く、千切ることができない。

 さらに悪いことに、敵の元へ戻る鉄球がオレを追尾するように襲って来る。

 だが躱すのは思ったほど難しくない。


「魔法か」


 単に力任せに鉄球を振り回しているのではない。

 魔法によって軌道をコントロールしている。


 今度は距離を取って相手の動きを待つ。


「そこですな」


 シンプルにオレを目掛けてストレートに鉄球を放ってくる。

 攻撃をくらわないようにさらに後方へ下がる。


「ここか」


 鎖が伸びる限界で鉄球は止まる。

 剣で地面に印をつける。

 これより外には攻撃は届かない。


「どうした? 来いよ」


 相手も前進してくる気配がない。

 わかった。こいつ、オレを倒す気がない。

 端から時間切れ狙いか。


「早くしないと、お姫様が大変な事になりますぞ」


 面倒な相手だ。

 どうしたものか。


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