占領された学園

 講堂の床に巨大な魔法陣が張り巡らされ、生徒たちは動けなくなる。


「うう……なんだこれは!?」

「動けない」

「一体誰が?」


 突然の出来事に驚きを隠せない生徒たち。


「はーい皆さーん、お元気ぃ?」


 壇上に1人の男が現れる。

 続くようにもう1人の男と黒衣を纏った者が壇上に立つ。


「俺たちテロリストでーす。よろしくぅ」


 男はアイドルのように自己紹介をする。


「おっと、武器を捨てな、さもなきゃこのお嬢ちゃんの命はないぜ」


 男は壇上に1人残っていたオネスタを掴み、首元に杖を当てる。


「隠れてないで出てこいよ」


 陰に隠れていたサクヤとノルムが姿を現す。


「やるな。流石は名門校。あれを発動兆候のみで回避する奴が2人もいるとは、お前たちテロリストに向いてるぜ」

「お褒めの言葉どうも」

「でも、ボクたちはテロリストなんかに興味はないよ」

「わかったら武器を捨てて両手を上げな」


 サクヤとノルムは渋々指示を受け入れ、降参する。


「おい、こいつらを縛れ」

「……わかった」


 もう1人の男がサクヤ、ノルム、そして人質にされていたオネスタをロープで縛った。


「そいつは魔法がかかっているから、簡単には解けないぜ」


 サクヤとノルムは抗ってみるが、縄が解ける様子はない。


「さてと本題に入ろう。リース姫っているぅ? どの子?」

「わたしがリースです」


 リースがすぐさま名乗りを上げる。


「うひょー、噂以上の美人じゃーん。いいねぇ! ここへ来な」


 金髪の王女は魔法陣の影響を感じさせないかの如く普通に歩く。


「あなたのお望みはわたしですね」

「話が早くて助かるぜ」

「わたしがあなたたちの人質となります。その代わり生徒の皆さんを解放してください」

「あんたが手に入ればこいつらに用はねぇ。だが、その前にこいつらに暴れられちゃたまんねぇからな。だが、お姫さまが俺らの言うことをちゃんと聞いてくれたならこいつらの身の安全は保障しよう」

「わかりました。聞き入れましょう」

「あと、フランカちゃんって子。その子も借りてくよ」


 男はキョロキョロと見まわしてフランカを探す。


「あたしよ」

「今仲間をそっちに迎えに行かせるさ」


 黒衣を纏った者がフランカの元へ浮遊し、飛んでいく。

 彼女を掴むや否や共に姿を消す。

 

「お前はお姫様をご案内しろ」

「わかった」


 無口な男がリースを連れていき、雄弁な男は講堂へ残る。


「さて、俺は見張り役だ。いっぱい遊ぼうぜ」


 テロリストの男は縛られている3人に好奇の眼差しを向ける。


「しっかし君達といい、お姫さまといい、王立ってかわいい子多いね。顔採用でもしてるの?」

「そんなわけないでしょ」

「そうさ、私たちは実力でここにいる」

「ヒヒッ、そうかい」


 3人をじっくり品定めするように見回す。


「誰から食おうかな」

「身の安全は保障するって言ったじゃないかぁ!!」


 サクヤが男を睨む。


「俺は命まではとらねぇっつったんだ。人質おまえらをどうするかは俺の自由だ」

「卑怯者」

「テロリストが品行方正な訳ねぇだろ」


 男は黒髪の少女の表情を見てニヤリと笑う。


「なら私にすればいい」


 ノルムがそう言った。

 性別や恋愛といった概念に興味のないノルムにとっても、この男の行動は生理的に受け付けられないものであった。

 だが、そんな自分だからこそダメージは小さい。

 彼女にとっては気色の悪い魔物に舐めまわされるのと大差ない。

 だから自らがスケープゴートになることを厭わなかった。


「自分から誘う口か。嫌いじゃないぜ」


 睨み合う両者。


「……でも、なんかお前は違うな。面白くない。こっちはどうだ?」


 サクヤの顎を持ち上げる。


「お前本当に魔法学校生か? もっと幼く見えるぜ。成長途中の体も悪くない」

「好きにすればいいよ。その程度じゃボクは傷つかない」

「本当かな?」


 翡翠石の瞳で鋭く睨む。

 例え身体が穢されようと、心は後輩クンローランドのもののままだと自分に言い聞かせる。


「お前もパス。こいつらは壊せねぇ」


 男は残ったオネスタの元へとゆっくり歩く。


「なあ、お前はどうなんだ?」


 オネスタは震えていた。


「お友達が蹂躙されるのを黙って見て見ぬフリしようとでも思っていたのか?」

「うっ……そんなことは……」

「だったら何故自らを犠牲にしようとしなかった?」

「それは……」


 男はオネスタの責任感の強さを見抜き、逆手に取った。


「お前リーダーなんだろ? ずるいとは思わないのか?」


 男はオネスタのロープを解く。


「さあ立て、お前に贖罪のチャンスを与えよう」


 生まれたての小鹿のように震えで立つことができないオネスタ。


「情けねぇな。ならそこに寝ろ」

「いやぁっ!!」


 男が片手で押すとオネスタは簡単に倒れる。

 倒れたオネスタを抱きかかえ、演台の上に乗せる。


「男子生徒の諸君、ご注目!! こんなかわいい子のムフフな姿、なかなか見れないぜぇ」


 オネスタは泣き崩れる。


「ヒヒヒッ、最初からお前って決めてたんだ。強い奴襲う馬鹿がどこにいる? あの2人は強そうだから隙を見せれば反撃されかねない。心も強そうだから襲っても面白くねぇ」

「オネスタちゃん!!」


 サクヤは動こうとするも、ロープにより身動きが取れない。


 ガチャ。


 講堂の扉が開く音がした。


「忘れ物を取りに来た」


 扉の向こうにはオッドアイの少年の姿があった。


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