学園を追放されたけど、もう遅い
早朝、オレは校長室へと呼び出された。
「思ったより早い呼び出しですね」
「君への最終試験だ。今からゾーンを発現してもらおう」
しかし急だ。
もっと猶予をくれるものだと思っていた。
「無理ですね。オレはまだゾーンを習得できていません」
「なら、君には退学してもらう他ない」
こいつをぶった斬れば、契約はなかったことになる。だがその正当性がない。
仕方ない。ここは受け入れるしかない。
「もう手立てはないっすね。要求を飲みましょう」
「偉く物分かりがいい。嫌いじゃないよ」
退学届にサインをする。
「世話になったな」
もうこいつを校長と呼ぶ必要はない。
「君のような生徒を追放せざるを得ないのは非常に残念だ」
その割に校長は零れる笑みを隠しきれていない。
「ちゃんとすぐ受理してくれよ」
「君の最後の願いだ。早急に手続きを行おう」
オレは校長室を、そしてこの学園を去った。
* * *
放課後。
教室に来なかったローランドの様子を確かめるために、リースとサクヤはローランドが使っていた部屋の扉をノックする。
「リースです。今日の授業のノートの写し、持ってきました」
「おにぎり作ってきたよぉ。調子が悪いならお粥でも作ってあげようかぁ?」
反応はない。
「もしかして、慌ててえっちぃ本でも隠してるのかなぁ?」
「無駄ですよ。合鍵持ってますから」
リースがドアノブを触る。
「鍵はかかってないみたいですね」
そのまま扉を開く。
部屋はもぬけの殻だった。
最低限の家具だけ置かれ、人の住んでいる気配を全く感じない。
「……まさか」
サクヤ驚きを声に表した。
リースは口に手を当て、涙ぐむ。
2人は部屋の状況を見て、ローランドがどうなってしまったのか一瞬で理解した。
「校長室に行きましょう」
「そうだね」
2人は一目散に駆けて行った。
* * *
「どういうことですか!? 何故ローランドがいなくならなければならないのですか!」
リースは何とか理性を保っているようだった。
「入学時の約束の通りですぞ」
「おかしいよ!! どう考えても時間が足りなすぎるでしょ!!」
サクヤも強く反論をする。
「彼はゾーンが使用できないことを潔く認め、自ら進んで退学しました。彼を思うのであれば素直にその意を汲むべきです」
そして校長は不敵に笑う。
「リース姫、契約通りあなたにも退学して頂きます。よろしいですな?」
リースは俯いて、しばらく言葉を失う。
「これは契約です。破ることは許されない
「1つだけお聞きします」
リースがそう口を開く。
「何ですかな?」
「ローランドのゾーンが使用できるかの確認は行わなかったのですね?」
「テストを行う前に彼は自ら退学を申し出ました。その必要はないかと」
リースは俯きながら涙を流す。
「ローランド……どうして……わたしを想ってくれる人はいつも……わたしを庇っていなくなってしまう。どうしてなのですか?」
「取り乱している所申し訳ありませんが、あなたにも手続きを」
「校長先生。あなたとの契約は無効です」
リースは涙を拭い切り、校長の目をはっきりと見てそう言った。
「何を仰っておる? どう足掻いても無駄ですぞ、リース姫」
「いえ、あなたはローランドの術中にまんまと嵌まりました」
「何ですと?」
校長はまだリースの言葉を信じていない。
「ローランドと校長先生の契約はゾーンが使えるようにならなければ退学というもの」
「そうですな」
「そして私との契約は前文の契約によってローランドが退学になった場合に発生します
「つまり……どういう意味かね?」
「ローランドが自主退学したのなら、その前提が崩れます」
ローランドと校長の間の契約には魔法は用いていない。しかしリースと校長の間の契約はローランドとの契約の上に立脚している。
「つまり私との契約は無効です」
「何!? そんな馬鹿な!!」
校長は慌ててリースと交わした魔法が施された契約書を確認する。
「効力が……なくなってるだと」
契約書を持つ手が震えている。
「く……青二才が、調子に乗り追って!!」
契約書を引きちぎる。
「こうなれば、手段を選んではいられない。スタン」
「――ルクス」
校長が魔法を発動する前に、リースの呪文が発動し、校長の杖だけを弾き飛ばした。
「わたしはただ担ぎ上げられるだけの人形ではありませんよ」
「ううっ」
顔面蒼白となる校長。
「あなたの行ったことは全てわたしからお父様へ直接報告させて頂きます」
「とりあえず一件落着。あとは後輩クンをどうやって取り戻すか考えないとね」
2人が安堵した瞬間――
ゴーン、ゴーン、ゴーン。
外で鐘が鳴り出した。
いくつもの鐘が繰り返し叩かれる。明らかに普通ではない鐘の音だ。
「何これ? どうしたの?」
「敵襲の警報です」
王都全域に敵襲の鐘が鳴り響いた。
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