勝手に合鍵を作られた
授業終わりのチャイムが鳴った。
次は昼休みだ。
ここのところはリースと昼食を共にするか、サクヤの手作り弁当を食べることが多かったが、今日はどうしよう。
「なあ、ローランド」
ナッシュが話しかけてきた。
「昼飯一緒に食べようぜ」
「ああ、ちょうど一緒に食べる人を探していたところだ」
そしてナッシュと学食へ赴いた。
といっても古めかしい感じは一切なく、内装はかなりおしゃれで現代的な雰囲気だ。
フードコートのようになっており、色々な食べ物を選ぶことができる。
人気のようで、座席を確保するのが難しそうだったが、何とか空いている席を確保できた。
「オレはまだ何を食べるか決めてないから先に買ってきてくれ」
「そうか? じゃあ行ってくる」
ナッシュを買いに行かせ、オレが席で待つ。
結局オレはパスタを注文した。
ナッシュは特大の鉄板焼きハンバーグを食べるようだ。
「ん? ナッシュ。お前左利きか?」
昨日、試合を観たときは右でシュートを打っていたはずだ。利き腕と利き足が異なることもあるとは思うが。
「本当は右利きだけど訳があってな」
「へぇ」
深くは聞かなくていいだろう。
「ローランド。お前さ、ゾーンのこと知りたいんだろう?」
「ああ、今、リースに教わってるが、いまいち掴めなくてな」
リースの教え方が悪いとは微塵も思っていない。だが情報が少なすぎるので他の有識者にも聞いておきたい。
「実はな、俺のゾーンが目覚めたのはサッカーの試合中なんだ」
「本当か? てか魔法使えないだろう?」
サッカーに限らず、魔法を使わないスポーツを行うときに魔法の使用は禁じられているはずだ。
「そのときは使ってねーよ。だけど使えることを確信したっつーか……」
言語化が難しいようだ。
「とにかくあれは経験しねーとわからなーだろうな」
「そうか」
誰も確信部分は教えてくれない。というか教えられないんだろう。
それができたらとっくにリースが教えてくれているはずだ。
「お前さ、本当はつえーだろ?」
「そんなことはない」
「お前はなんつーか、他の奴とはちげーんだよ。何かを隠そうとしてる。そんな感じがするぜ」
確かにオレは色々なものを隠している。
それはナッシュに限った話ではない。
リースにもサクヤにもノルムにだって見せていない部分がある。
「普通の奴ってのはむしろ自分を大きく見せたがるもんだぜ」
「なるほど」
リースやサクヤ、ナッシュ、あるいはフランカ。
妙に力のある奴らに目を付けられる原因はオレの振る舞いにあるのかもしれない。
「とにかくお前の場合はつえー奴と戦え。そうすりゃゾーンを使えるようになるんじゃねーか?」
「強い奴と言われてもな」
サクヤと毎日のように戦っているが、ゾーンを習得できそうな気配はない。
「ま、焦んなくていいんじゃねーの?」
「こっちにも事情があってな」
校長に突き付けられた条件をナッシュに話す。
「そいつはやべーな。でもお前、焦ってる様子が見えねー。なんか秘策があるんだろう?」
直感が鋭いのか、見透かされている。
こいつは騙せないな。
「本当にヤバくなったときの策はある」
別にオレ1人が退学になるのなら甘んじて受け入れよう。
だがリースが巻き込まれるとなれば話は別。
ゾーンを習得できなかった時のことは考えてある。
だがそれは使うべきじゃない。
* * *
放課後。オレの部屋でナッシュと遊ぶことになった。
自室の扉の鍵を開けようとする。
「あれ、鍵がかかってない」
ちゃんと鍵をかけたはずなのだが、何故か開いたままだ。
とりあえず扉を開ける。
「邪魔するぜ」
「ああ、ゆっくりしてってくれ……って、何やってんだお前ら」
何故かリースとサクヤがオレに部屋にいた。
そして掃除をしていた。
「ローランドがお友達を安心して呼べるようにお掃除をしてたんです」
「そうそう」
「どうやってオレの部屋に入った?」
「合鍵です」
リースが自慢げに見せつけてくる。
「渡した覚えはないが?」
というか作ってすらいない。
「作っちゃいました」
「勝手に作るな!! 同棲してる彼女じゃないんだから合鍵なんていらないだろう!!」
「なら順番がちょっと変わっただけです。問題ありません」
「問題大ありだろ!!」
「普通はデートして告白されてチューして合鍵を貰うところが、合鍵を貰ったところが先に来ただけですよ?」
「滅茶苦茶重要なところすっ飛ばし過ぎだろう!!」
「あっ、もしかしてわたしの部屋の合鍵が必要ですか?」
「そんな国家転覆レベルの代物オレには必要ない」
国家元首の娘の部屋の鍵なんか失くしたらどんな刑罰が下るのかわからない。金塊100本貰えるとしてもいらない。
「ねえねえ、ボクにも合鍵ちょうだい」
「やらねえよ」
「お世話係りの先輩なんだからいいじゃない」
「そこまで要求してないから」
「思春期の後輩クンが見られたくないものなんて悪い点数のテストとえっちぃ本以外ないでしょ? ボクはどっちも許容するよ。何が不満なの?」
「そんなものこの部屋にねーよ。この間探してただろう!!」
相変わらずこの2人の相手は疲れる。
「なんか楽しそうだな」
呑気に笑うナッシュ。
「全然楽しくないから!!」
だがオレがリースやサクヤと一緒にいても、それに嫉妬する気配はない。流石はモテ要素の数え役満だ。
「それじゃあボクたちはこれで退散するから」
「男の子たちで楽しんでくださいね」
パタンと扉が閉まる音がする。
リースとサクヤが部屋から出ていった。
これでナッシュと心置きなく遊ぶことができる。
「で、何をしようか?」
オレはこういう時どんな遊びをすればいいか思いつかない。
ナッシュに任せよう。
「今部活の仲間内で流行っている遊びがあってよ。それをローランドとやりたいんだ」
ナッシュがポケットから何かを取り出す。
「こいつはマジックカードだぜ」
「マジックカード?」
聞きなれない言葉だ。
「見ればわかるってことよ」
ナッシュはカードを机に置き、魔力を込める。
すると手の平サイズの剣を持った戦士のような人物が現れる。
「すごいな、本当に召喚したのか?」
「まさか、これは幻だ」
よく見ると、透けている。
「これは……幻術か」
「正解だぜ」
随分とレアな魔術だ。
試しに戦士を触ってみようとする。
しかし幽霊のようにすり抜けて触ることができない。
「こいつはカードに封印された人物や魔物の幻影を召喚して戦わせるゲームだ。俺が使っているのは歴史上の国王や戦士がいっぱい出てくる勇者デッキだ。こいつら、最高に強いんだ」
「こんなゲームがあるなんて知らなかったな」
こんなカードゲームを見るのは初めてだ。
「最新の魔法技術を使ったゲームだからな。まだ知っている人は少ないんだ」
「へぇ、そうなのか」
リメリア王国の魔法技術も捨てたもんじゃないな。
「俺が持ってるもう1つのデッキ貸してやるよ」
「本当か!?」
「こっちはドラゴンデッキだぜ」
オレも同様に、カードに魔力を込める。
黒いドラゴンがカードの上に現れる。
「おおっ!!」
「上手く召喚できたな。そんじゃ戦わせてみようぜ」
「負けないぞ」
その後、日が暮れるまでナッシュとマジックカードで遊んだ。
しかし幻術か……
こんな使い方があったとはな。
だがこいつはヒントにもなった。
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