友達が0人だった
学園内のカフェで、ある人物と待ち合わせる。
先にコーヒーを飲みながら座席でその人物を待つ。
「やあ、ローランド」
「悪いな、急に呼び出して」
ノルムが、頼んだミルクティーを片手にやって来た。
「そうだ。先にこれ、渡しておくね」
この間頼んでおいた似顔絵だ。
「助かる」
「これだけじゃないでしょ、私を呼び出した理由は」
「ああ」
むしろそっちが本題だ。
「ノルムに校長の調査を頼みたい」
サクヤに頼んでもよかったが、ここはオレとの関係が知られていないノルムのほうが上手く立ち回れるだろう。
まあ、仮に知られていたとしても、ノルムの能力なら問題はない。
「いいよ」
「頼み事ばかりで悪いな」
「君がリース姫の件で頑張ってるのはわかってる。だから遠慮しないで私を頼って」
「助かる」
「それにしても誰だか知らないけど、リース姫襲撃の件、上手く揉み消したね」
「そうだな」
西方の森でリースが襲われたことを知る者はほとんどいない。何者かが情報統制をしているようだ。
それが学園か王国政府かはわからない。
なんにせよ明るみに出れば様々な問題が出ることは確実だ。
「学園の警備の数が以前よりやや増えたのは感じていたけど、効果はあると思う?」
「そもそも王都の外で起こったことだ。学園内や王都の警備は関係ないと思うが」
「そう?」
「耳を貸せ」
「うん」
「既に
そう耳打ちした。
「うん。肝に銘じておくよ」
ノルムは強く頷いた。
「あれれ、こんなところで女の子と密会ですかなぁ?」
「ローランド、どうしてわたしの知らない女の子と一緒なんですか?」
よりによってこんな時にサクヤとリースに見つかってしまう。
「いや……その、あの…えーっと……これには深い訳が」
何から説明したらいいのやら。
「初めまして、リース姫、サクヤさん。私はノルムです」
ノルムが目を輝かせて自己紹介する。
「ローランド、この方とはどういった関係ですか?」
リースがオレのほうを向いて尋ねる。
「まああれだ、同じ中等学校に通ってたってだけの顔見知りだ」
「ひどいなあ、私とローランドは深い絆で結ばれた相棒じゃないか」
お願いだから誤解を招く表現はやめてくれ。
「2人とも心配しないで、私に恋愛感情は一切ないから」
「そうなんですか?」
「別にローランドが嫌いって意味じゃないよ。私は無性、性別がないんだ」
ノルムの外見は、中性的ではあるものの、女子だ。
女子であるという自覚がないだけなのか、本当に性別がないのか、そこら辺はよく知らない。
「だから私は恋愛感情というものがわからないんだ」
「そういう子もいるんですね」
「まあ人それぞれだよねぇ」
「私はこの学園でローランドにちゃんと学生らしい恋愛を経験して欲しいんだ。だからその役目をどちらかに負ってもらえたら嬉しい」
「はっ!? お前一体何を!」
おもわずコーヒーを吹き出す。
「任せてください」
「うーん、まあボクとお付き合いできるかは後輩クン次第だけど、いいよぉ」
「待て、勝手に頼むな! そして勝手に引き受けるな!!」
「ああ、ローランドが結婚して、子供ができたら、きっとわが子のように可愛がるだろうね」
「なんでだよ! 気が早すぎだろう! てか何様だよ?」
「昔から知ってる近所のお姉さんポジションとか?」
「なんだその変な立ち位置は!!」
世話役はもう十分だ。
「ローランド。学生として、今の君には足りないものがある」
「何?」
「友達だよ。男の子の」
「そう言えばそうだな」
よくよく考えたら、男子の友達が1人もいない。
「でもお前たちは友達だろう?」
女の子とは言え、3人も友達がいれば十分だとオレは思うのだが。
「何を言ってるんですか? わたしはローランドのお友達などではありませんよ」
「ボクがいつキミの友達になったの?」
「私も違う」
「えぇ……」
全否定された。
「言わせないで下さい。わたしは未来のお嫁さんですよ」
「ボクだって友達以上恋人未満の先輩だよぉ」
「さっき相棒だって言ったばかりじゃないか」
「いや、訳わかんねーよ」
絶対揶揄われてる。
とにかく友達であることを否定されてしまった。
即ちオレは――
「ぼっちってこと?」
「そういうことになるね」
ノルムによって事実を突きつけられてしまう。
「ですが、男の子同士でなければ育むことのできない友情もあります」
「そこはボクたちにはどうしようもできないからねぇ」
「じゃあどうすればいいんだよ」
「私、心当たりがあるよ。ローランドと友達になってくれそうな人」
「どんな奴だ?」
ノルムに尋ねる。
「ナッシュガルドって人、ローランドと同じクラスの」
「顔と名前が一致しない」
「うーんとね、サッカー部のエース。背が高くて、かっこよくて、いい人って評判だよ
「そんなモテる要素の数え役満みたいな奴が、オレと友達になってくれるのか?」
「だからこそだよ。モテるのに、許嫁(いいなずけ)がいるからって、女の子からの誘いを断り続けてるんだって。だから今の君にも嫉妬したりしないはずだよ」
「なるほど」
確かにそれならリースと仲良くしていることに嫉妬される心配はない。
「てかこの学校、サッカー部があるのか」
「まあ魔法学園だからこそ、課外活動では魔法を使わない競技をしたくなるんじゃない?」
「それもそうか」
「それに、サッカーやラグビーみたいな団体競技は、軍人の育成には持って来いだからね」
「別にここ軍人の育成機関ではないだろう」
結果として軍関係に進む生徒はいるかもしれないが。
「今度、試合があるみたいだから、行ってみたら?」
出向いてみる価値はあるかもしれない。
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