魔力の性質が異常だった
ある日の放課後。
オレは魔術実験室を訪れた。
「悪いな、色々と面倒をかけて」
「別に構わないわ」
目的は単純。
フランカにオレの魔力の測定をしてもらうためだ。
「随分よ研究に熱心のようだな。疲れてはないか?」
「睡眠不足気味だけど、問題ないわ。その代わり今度、あたしの研究を手伝ってもらうから」
「了解」
「準備がまだ終わってないから、少し待ってて」
「わかった」
実験室は道具やら本やらが散らばっていた。
おそらく何かしらの実験を行っていたのだろう。
「これも実験道具か?」
机の上に置いてあった液体の入った小さな瓶を手に取る。
「それ、あたしの香水。勝手に触らないで」
試しにワンプッシュしてみる。
「ゲホッゲホッ」
自分の顔にかかり、むせる。
強いラベンダーの香りだ。
「触るなって言ったでしょ?」
「悪い。でもこれで謎か解けたな」
「何の?」
「女の子のいい匂いの正体だ。最初にお前に会ったときから、ラベンダーのいい香りがしてたんだ」
「キモッ。あんた、一々女の匂い嗅いでるわけ?」
「そんなつもりはないんだが、たまたま印象に残ってな」
だが1つ引っかかる。
「他の女の子って、何かいい匂いって感じで漠然としてるが、お前のははっきりとラベンダーの香りだってわかる。この香水にこだわりでもあるのか?」
「お母さんが使ってたのよ、その香水」
「へぇ」
香水の瓶を見てみる。
書かれているのはリメリア王国で使われているベリア語ではない。
「輸入品か?」
「あたしはベリア人じゃない。ラヴァンドラという国の出身よ」
文字は同じスーガ文字が使われているので、音だけは推測できる。
ラヴァンドラという文字列が書かれているのがわかる。
「ラバンドラ? 聞いたことないな」
「当然よ。あたしの国は帝国に侵略されて、難民としてこの国に来たんだもの。今は地図に載ってないわ」
「ああ……そうなのか」
思わぬ地雷を踏んでしまった。
しかし外国人だとは気づかなかった。言葉にも顔立ちにもそれと分かる特徴は感じられない。
「それにしても、フランカはべリア語がうまいね。オレが言うのもなんだが、完璧だ」
フランカの話すベリア語に違和感を覚えることはなかった。
「小さい頃からこっちに住んでいるから、今は問題ないわ」
「なるほど」
であれば流暢に話せるのも納得だ。
しかし苦労の種が頭が良すぎることの他にもあったとは。
「準備できたわ」
「これで魔力を測定するのか?」
「そうよ」
一言で表すなら自分の体よりも大きな温度計のような装置だ。
紫色の液体が一番下の0の目盛りのところで止まっている。
「この杖がそこの測定器と繋がってるから、魔力を流してみて」
「了解」
いつも魔法を使うときと同じように、杖に魔力を流す。
「あれ?」
0の目盛りから上がることはない。
フランカが測定器に近づき、様子をよく観察する。
「僅かに反応があるわ。魔力は流れているようね」
フランカは腕組みをして考える。
「まさかとは思うけど……ちょっと待ってて」
何か考えがあるようだ。
しばらくすると、フランカが戻ってきた。
「これでやってみようかしら。滅多に使わないものだからちょっと古いけど、繋ぎ直すからちょっと待ってなさい」
フランカが持ってきたのは別の魔力測定器だ。
だが、さっきのものとは少し違う。
0の目盛りが真ん中にある。
「てか、そんな大きいのよく1人で運べたな」
「別に、これ案外重くないわ」
「そうなのか」
まあ、魔力があれば重いものも運ぶことができなくはないが。
「はい、もう1度やってみて」
再び同じ要領で魔力を流す。
「なっ!!」
「……やっぱり」
中の液体が下がっていく。
測定器はマイナスの値を指し示す。
「にしても強い魔力ね」
「で、これはどういうことだ?」
オレには理解ができない。
「あんたの魔力はマイナスの性質を持っている。点数化するなら、マイナス100点ってとこかしら」
「そんなことってあり得るのか?」
「闇属性の魔法ならともかく、無属性でマイナスの魔力を持つ人間なんて見たことないわ」
一体この現象は何なんだ!?
本当に初耳だ。
「しかしよくわかったな。オレにマイナスの魔力が流れているなんて」
「試験で使った測定器だと、本当に魔力が流れていないなら0にすらならない。魔力なしと測定されるはずよ」
気づけよ試験官。
「魔力において0は下限じゃない、ニュートラルよ。そんな単純なことも知らないへっぽこがこの学園の試験官で助かったわね」
「どういう意味だ?」
「あんたが闇属性の使い手だって思われてもおかしくないわ」
「そしたらオレ……」
「最悪処刑よ」
不味いな。
「まあでも、学力はへっぽこでも、魔力はちゃんとあってよかったわね」
「……ああ」
しかし、闇属性と同じ性質を持ったオレが光属性と関連のあるゾーンを習得できるのだろうか?
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