世話好きな2人が部屋に来た

 夜、寮で1人で過ごしていると来客があった。


「やっほー」

「来ちゃいました」


 サクヤとリースが突然訪問してきた。


「こんな時間に何の用だ?」

「それはもちろん」

「ローランドを守るために決まっているじゃないですか」

「いや、必要ない」


 扉を閉じようとする。


「あのときの犯人さんはきっとローランドを狙ってくると思います」

「だからボクたちが一緒にいてあげる」

「というか、なんでお前ら、男子寮の中に入れるんだよ!!」

「え? 別に女子が男子寮に入ることは禁じられてないよ」

「そうです。問題ありません」

「なんじゃそりゃ」


 女尊男卑が過ぎるのでは?


「昨日はローランドに助けてもらいました。だから今度はわたしたちにローランドを守らせてください」

「ボクも、キミを守りたいんだ」


 子犬のような目で懇願されるとめちゃくちゃ困る


「しゃーない、入れ」


 仕方なく承諾する。


「やったぁ」

「お邪魔します」


 2人はオレの部屋へと入っていく。


「お茶でもだそうか?」

「ボクがやるから大丈夫」

「ここオレの部屋なんだけど」

「いいからいいから」


 そう言ってサクヤは印を結ぶ。


「忍法・早着替えの術」


 サクヤの姿を隠すように一瞬、花吹雪が舞う。

 先ほどまでは制服を着ていたが、花吹雪が消えるとメイド服に着替え終わっていた。


「どう?」

「いい魔術だ」

「そうじゃなくて、衣装のこと」

「別に……普通」

「もう、素直に褒めてくれればいいのに。でもキミのそういうところ嫌いじゃないよ、ご主人」

「メイドを雇った覚えはないがな」


 サクヤはキッチンへと向かい、自前のお茶をカップに注ぐ。


「瓢箪をポッド代わりにする奴、初めて見た」

「だって容器がこれしかなかったんだもん」


 サクヤがこちらにお茶を持ってくる。


「はい、どうぞ」

「悪いな」

「ボクたちはお掃除してるから、ご主人は休んでて」

「別に、そこまでしなくてもいいぞ」

「わたしたちに任せてください」


 そう言ってリースとサクヤはベッドの下を覗き込む。


「そうそう、男の子って、こういうところにえっちぃ本を隠してるんだよねぇ」

「見つけ次第没収します」

「えぇ!? それくらいは許してあげようよぉ」

「駄目です」


 2人の教育方針が割れたな。


「あれれ?」


 ベッドの下には何もない。


「きっと別の場所にあるよ」

「そうですね、探しましょう」


 2人は掃除をしながら、探す。


「生憎と、その手の物は持ってないな」

「本当ですか?」

「本当だ」


 リースは杖を取り出す。


「ルクス・リビール」


 強い光が一瞬点滅する。


「この部屋にはないようですね」

「えー! つまんないのぉ。健全な男の子はそういうのの1つや2つ持ってるものだよ」

「なんでだよ」


 どこが健全なんだ。


「ローランドがどんな女の子が好みなのか知りたかったんですが、仕方ないですね」


 好みの女の子なら目の前にいるから心配しなくていい。


「そうだご主人、お風呂借りてもいい?」

「別に構わないが」

「じゃあリースちゃんと入ってくるねぇ」

「ローランドも一緒に入りますか?」

「なんでだよ」

「もう、冗談に決まってるじゃん。覗いちゃダメだぞぉ」

「誰が覗くか」

「フフッ」

「にひひっ」


 全く、2人の相手をすると疲れる。


 窓の外を眺めながら、お茶を飲む。

 ほうじ茶か。気が利く奴だ。

 お風呂からはキャッキャウフフと楽しそうな会話が聞こえてくる。

 リースとサクヤの仲がいいのはオレにとってもいいことだ。


「いやー、いいお湯だったねぇ」

「そうですね」


 相変わらずいい匂いがする。


「あのさ、1つ聞きにくいことを聞いてもいいか?」

「構いませんよ、わたしに答えられることならなんでも」

「もしかしてぇ、えっちなこと?」


 100パーセントの否定はできない。


「女の子って何でいい匂いがするんだ?」

「なんだ、そんなことかぁ」

「女の子っていうのは、いい匂いがするものなのですよ」

「そうそう」

「はぐらかさないで教えてくれよ」

「そうだ、キミもお風呂に入ってきたら?」


 そうすれば何かわかるかもしれない。


 そうして浴槽に浸かってみたものの、2人の残り香が漂うのみで、正体はわからず終いだ。


「同じ石鹸、使ってるはずなのにな」

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