先輩を慰めた

 オレが訪れたのは2年の女子寮。

 サクヤの様子を確かめるべくここへ来た。

 本来は男子禁制のはずだが、例の一件からオレは顔パスで入れるようになった。


「あ、ローランド君、いらっしゃい」

「こっちこっち。お菓子いっぱいあるよ」


 ロビーで駄弁っている先輩に絡まれる。


「じゃあ1つ、頂きます」


 チョコレートを1つ口に入れる。


「サクヤ先輩に会いに来たんですけど」

「サクヤちゃん、今日はずっとお部屋にいるみたい」

「そうですか。行ってみます」


 サクヤの部屋の前まで廊下を歩く。

 そして扉をノックする。


「いるか?」


 返事がない。


「入るぞ」


 部屋に入る。

 万が一アレな事になっても、サクヤなら笑って許してくれると思うが。


「おい……大丈夫か?」


 部屋の隅でうずくまっている。


「ほっといて、もうボクは先輩失格だよ」

「そんな事はない」


 物凄く落ち込んでいるようだ。


「キミがいなかったら、ボクもリースちゃんもやられてた。本当なら、ボクがキミたちを守ってあげなきゃいけない立場なのに……

「気にするな。あれは例外中の例外だ。先輩としての監督範囲を明らかに逸脱している」

 こういう時、どうするのがいいんだろうか? 

 他人を慰めた記憶がないので全くわからない。


「うーん」


 首を傾げながら試案する。


「これでいっか」


 とりあえず、蹲っているサクヤを


「にゃっ!」


 後ろから抱きしめる。


「女の子にいきなりそんなことしちゃダメでしょ」

「じゃあ、どうすればいいんだ?」


 素直にサクヤに尋ねる。


「う、うっそぴょーん。ボクが……この程度で……ぐすん……落ち込むとでも、思ったぁ? キミを揶揄うための……ひっく……罠に決まってるじゃん。ひ、引っかかったぁ」

「悪いが、半泣きで揶揄われても説得力がないな」


 強がっているのがバレバレだ。


「ううっ、揶揄うのはボクの専売特許だぞぉ」

「悪いな、お前の十八番は盗んだ」


 とりあえず、少しは元気を取り戻してくれたようだ。


「ううっ、ごめんね、キミを守ってあげられなくて。うわーん」


 これ以上は何も言うまい。

 しばらくこのままサクヤに寄り添った。


 サクヤが落ち着きを取り戻してすぐ。


「あのさぁ」

「何だ?」

「腕がおっぱいに当たってるよ」

「えっ!?」


 慌てて腕を離す。


「すまない!!」


 オレの腕がサクヤの胸に当たっていることなど全く気づかなかった。


「はぁ、全く。キミも男の子だねぇ」

「すまない。邪な思いは1ミクロンたりとも持っていない」

「そんな言い訳しなくたって許してあげるから、正直に言ってみなさい」

「本当だ。いやー、子供体型で助かった。リースだったら抱きしめるのは躊躇っただろうな」

「ぐにゅにゅ!!」


 サクヤはオレを抱きしめる、というよりオレの頭を強引に胸に押し付ける。


「痛い痛い!! もう許して!」

「ボクにだって少しくらいおっぱいあるもん!!」


 これが俗に言う「ぱふぱふ」なるものなのだろうが、邪な感情を覚えることは一切ない。

 ただひたすらに痛い。

 大根おろしでおろされる大根の気持ちがよくわかる。


「全く、上がった好感度は今ので全部チャラだよ」


 ムッとした表情のサクヤ。


「剣術の特訓の量、これからは倍だからね」

「そんな」

「ボクが強くならなくちゃ、キミを守れないからね」

「はいはい、わかりました」


 今度エルモニア料理で大根おろしが出てきたときは、大根に感謝して食べよう。



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