謎の敵と遭遇した

 光の発生源まで近づく。


「待って」


 サクヤがオレを手で静止させる。


「禍々しい魔力を感じる……ボクが先行するよ」

「わかった」


 オレは木陰に隠れ、様子を伺う。


「助けなきゃ!」


 サクヤが表情を変え、突っ込んで行く。


「どうなってやがる!?」


 オレが目撃したのは、光の魔法陣の中に倒れているリース。

 そこに黒い衣に身を包んだ何者かが、魔法陣を破ろうと攻撃を加えているところだ。


「させないよ」


 サクヤは手裏剣を投げつける。

 敵はこちらの存在に気が付き振り向くが、既に手裏剣は目の前だ。

 当たった。オレもサクヤもそう確信した。


「そんな!?」


 どういう訳か、手裏剣は敵をすり抜け、背後の樹木に刺さる。


「なら」


 怯むことなくサクヤはすぐに印を結ぶ。


「桜隠れの術」


 サクヤの周りに桜吹雪が舞い、体を完全に包み込むと、次の瞬間にはもう姿がなくなる。

 おそらく敵の背後を取り、攻撃するという算段だろう。


「ルクス」


 オレは敵の視線をこちらに引き付けるために適当な魔法を放つ。

 油断しているのか、敵はこちらを向いたまま何もしない。

 なら好都合だ。

 後ろに桜吹雪が現れ、そこからサクヤは刀で切りつける。


「にゃ!?」


 しかし攻撃はサクヤの体ごとすり抜ける。

 サクヤが完全に背後を取られてしまった。

 その隙を黒衣の敵見逃さず、袖からはみ出した杖から漆黒の魔弾を放つ。


「うにゃ」


 サクヤが攻撃を受け、オレのいる方向に飛ばされる。


「大丈夫か?」

「逃げ……て」

「しっかりしろ!」


 サクヤも意識を失ってしまった。かなりまずい状況だ。

 サクヤの体を見ると、黒いもやのようなものがかすかに残っている。

 おそらくこれは闇属性の気絶魔法だろう。


「お前一体何者だ?」


 もしかするとこいつは人間ではなく、魔物かもしれない。

 とにかく、残っているのはオレ1人だ。オレがやらなきゃ全滅だ。


「来い!」


 剣を構える。

 黒い衣を纏った敵がこちらへと向かって来る。


水刃すいじん


 剣を振り、水の刃を飛ばす。

 やはり攻撃はすり抜ける。


「ならば……五月雨さみだれ!!」


 剣を何度も振り、いくつもの水刃を闇雲に飛ばす。


「まだだ」


 敵をすり抜けようが、周りの木に当たろうが、構わず水刃を四方八方に飛ばし続ける。

 敵には当たらず、辺りは水浸しになる。

 敵は再び複数の分身をオレの周囲に出現させる。


「水月斬り」


 水を纏った剣で周囲を斬りつける。

 斬った感覚はない。だがしかし分身は消え去る。


「どこだ?」


 首を振って相手を探す。

 今度は離れた場所から杖をこちらに向け、魔弾を放ってくる。


「水刃」


 敵の魔弾と水の刃は空中でぶつかり相殺される。

 攻撃が不発に終わったのを確認すると、敵は再び姿をくらませる。


 魔弾にはしっかりと実体がある。

 闇属性の魔法と見て間違いない。


「水刃」「水刃」「水刃」


 水属性の技をひたすらに繰り出し続ける。

 今はこうして耐えるしかない。

 敵は確かにいるはずだ。


「五月雨」


 とにかく剣を振ってさえいれば、簡単にはオレに近づけないはずだ。

 相手の次の手を待つ。

 そうしていると、背後からびしゃびしゃと音を立てながら走る音が聞こえた。

 剣に送る魔力を断ち、水を纏わせるのをやめる。


 全てをこの一振りにかけ、虚空を斬る。


 "鎌鼬かまいたち"


 濡れた地面を踏む音から相手の進む道筋を割り出し、鎌鼬を放つ。


 ビシャッ。


 水溜まりの中に転んだような音がした。

 不可視の刃は見事、不可視の敵を斬る。


「ただ闇雲に攻撃していただけだと思ったか?」


 そうしてびしょ濡れになった黒衣を纏った敵の本体が姿を現した。


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