冒険者ギルドで依頼を受けた

 やってきたのは冒険者ギルド。

 そのセント・リメリア支部だ。

 ここでは王都周辺の依頼が集まってきているようだ。


 ロビーにはたくさんの冒険者たちが集まっていた。


 重装備に身を包んだ戦士、筋骨隆々の肉体を見せびらかす武闘家、煌びやかな装飾が施された長杖を手入れしている魔法使い。

 皆、いかにも猛者といった感じの出で立ちをしている。


「兄ちゃん、新入りか?」

「ええ、そうですけど」


 顔に大きな傷のあるガタイのいい男に話しかけられる。


「その制服、王立の生徒だな。言っとくがここは遊び場じゃねえんだ。冷やかしなら帰りな」


 やっぱオレの来るところじゃないなここは。早く帰りたい。


「ちょっとぉ、ボクの大切な後輩クンをいじめるのは困るなぁ」

「その声は、サクヤさん! ご無沙汰しております」

「その子はボクのパーティーの時期エースなんだから丁重に扱ってよね」

「はい、大変失礼しました」


 何なんだこの態度の変わりようは。

 というかサクヤって一体何者?


「まさかそちらのお方は!!」

「リース姫ではありませんか?」


 周囲にいた他の冒険者が、リースに話しかける。


「はい、わたしがリースです」

「うわー本物だ!」

「王立に入学されたとは聞いていたけど」

「いやー本当にべっぴんさんだ!!」


 ロビー中の視線がリースとサクヤに注がれる。


「てことは、こいつもすごいんじゃねーの?」

「いや、ただの荷物持ちです」


 そういうことにして見逃して貰おう。


「最初見たときからわかってたぜ、兄ちゃんが只者じゃないって」

「いや!! あんた最初帰れって言ってたよね!!」


 全く、調子のいい連中だな。


「サクヤちゃん、今日も来てくれてありがとう」


 ギルドの受付嬢がカウンターから出てきて、わざわざこちらへと出向いてくる。


「サクヤちゃんに受けてもらいたい依頼があったんだけど……1年生の子と一緒かぁ」

「なになに、見せてよ」


 サクヤは受付嬢から依頼の紙を受け取る。


「ふーん。そういうことね」

「西方の森の依頼だから、1年生の子にはちょっと難しいよね?」

「ううん、この子たちは強いから大丈夫」


 サクヤは首を横に振る。


「依頼自体も採集だから、むしろ初めてにぴったりだよ」

「そう? ならすごーく助かる」


 近くにあった同じランクの依頼と報酬を見比べる。

 報酬はあまりよくないようだ。


「別の依頼のほうがよくないか?」

「ボクたちにはメリットがあるからね」

「メリット?」

「冒険者ギルドの依頼をこなすことで、成績に加点されたり、授業の単位として認定されるんだよ」

「それはどのように決まるんですか?」


 リースもサクヤに尋ねる。


「依頼のランクと受けた数で決まるんだよ。だから、個別の報酬は学校からの評価には影響しないよ」

「それでも報酬がいい依頼を受けたほうが得だろう」


 それは報酬が少ない依頼を受けるメリットにはならない。


「耳貸して」

「ああ」


 体を曲げて、サクヤの口元に耳を近づける。

「実は、ギルドからお願いされた依頼は、他の依頼よりも評価点がちょっとだけお得なんだよ」


 背伸びをしたサクヤはオレにこそっと耳打ちした。


「なるほど」


 ギルド側からは他の冒険者が受けない依頼をさばいて貰える、学生側は成績に加点される。まさにWIN-WINの関係だ。


「じゃあ、準備ができたら南西門集合ね」



 * * *



 門から城壁の外へ一歩踏み出す。

 雲一つない青空から差す陽光が、一面緑の平原とそこを這うように流れる川を鮮やかに照らしていた。


 王都を囲む巨大な城壁に沿って、西方の森を目指す。


 王都は円形の城壁のちょうど真ん中に街を東西に分かつように北から南へ川が流れている。

 城壁の外に出るには東門か南北の川の両岸に設置された5つの門を通るしかない。

 故にオレたちは大回りを強いられている。


「ボクずっと疑問だったんだけど、どうして西門はないの?」

「西側から攻撃されることを想定して街が作られているからでしょうか」

「西から魔物が攻めてくるの?」

「違うな」


 想定しているのは魔物の攻撃ではない。


「じゃあ何?」

「帝国からの侵攻だ」

「帝国ぅ?」

「知らないのか? リメリア王国の西に位置するグラン=ベリア帝国のことだ」


 まあ、エルモニア人であるサクヤが王国と帝国の関係を知らないのは無理もない。


「なんとなく敵対してるってことは知ってるけど、そんなに強い敵なの?」

「ここ数十年、帝国との間に紛争は起こっていません。しかし、王都がこの地に遷都された時代には、頻繁に争いが起こっていたようですね」


 とは言え、帝国は大人しくなった訳ではない。裏では活発に動いているようだ。むしろ嵐の前の静けさのように思える。


 しかし……


「長閑だな」


 城壁の外だというのに、魔物1匹襲ってこない。


 スライムたちが追いかけっこをして遊んでいたり、うさぎが草を食んでいたり、太った猫のような魔物がぐっすりお昼寝していたり……


「王都周辺の魔物は比較的穏やかだと聞きます」

「比較的ってレベルじゃないだろう」


 緊張感がまるでない。


「ですが時折、凶暴な魔物がやってくることもありますよ」

「そうなのか?」

「去年の秋とか、大変だったよぉ」

「そういえば、そんなこともありましたね」

「大型のドラゴンが大挙して押し寄せてきて、衛兵や冒険者だけじゃ対処できなくて、学園の生徒も駆り出されたんだから」


 なんか面倒くさそうだな。出ないことを祈ろう。


「でも、今の時期に強い魔物が出ることはないってみんな言ってるから、大丈夫でしょ」


 強い魔物がいないだと? 


「じゃあ冒険者ギルドにいたあいつらは?」

「そんなに強い冒険者じゃないと思うよ」

「何なんだよあいつら! 偉そうにしやがって」


 強そうなのは見た目だけかよ。


「まあまあ、悪い人たちではなさそうですし」


 そんな感じで話しをしながら平原を西に歩き続け、西方の森へと向かった。

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