不登校の天才美少女と会った

 なんだかんだで1週間が経過した。

 学園生活に慣れたとは言い難いが、最初の頃と比べれば落ち着いてきたのではないかと思う。


「今日の授業はここまで。次の授業の予習もしっかりしとけよ」


 カイル先生が教室から出て行く。


 気になることと言えば、この教室にポツンとある空席だ。

 この1週間でその空席が埋まることはなかった。


「なあ、リース」

「なんでしょう?」

「あそこの席は誰のものなんだ?」


 隣に座っているリースに尋ねる。


「フランカさんという方の席です」

「どんな奴なんだ?」

「なんでも、魔法の天才なんだとか」

「天才?」


 リースほどの魔力を持つ生徒から天才と呼ばれるなんてよっぽどだ。


「お前だって十分天才だろう」

「そんな事はありません。それに、彼女の才能はわたしのものとは性質が違いますから」「性質が違う……ねぇ」


 その言葉だけではどういうタイプなのか想像がつかない。


「何故そいつは来ないんだ?」

「彼女にも事情があるのでしょう」


 天才なら尚更来て高説を垂れれば良いのにと思うが。


「ローランド、あなたも会ってみてはいかがですか?」

「オレが?」


 確かに、会って聞きたいこともある。

 一度お目にかかってみよう。




 * * *




 休み時間に図書館を訪れた。

 1人の女子生徒が大量の書物を机に積んで、思案していた。


「お前がフランカか?」

「そうだけど、何?」


 赤ワインのような真紅の長髪。ほのかに漂ってくるラベンダーの香り、濃いめのアイシャドウや口紅で化粧をしたその顔立ちからは大人びた印象を受ける。

 ファッションモデルのような、女の子が憧れる女性といった感じの雰囲気を醸し出している。


「オレはローランド。一応お前と同じクラスなんだけど」


 そう軽く自己紹介をする。


「知ってるわ。あんなテストで0点取った馬鹿でしょ、あんた」

「まさか……不登校の生徒の耳にまで悪評が届いているとは」

「一応、学園内での情報収集はしてるから、それくらいは知ってるわ」

「とにかくそれなら話が早い。頼みがあるんだが聞いてくれないか?」

「どうせあのお姫様みたく、教室に来いとでも言うんでしょう? そういうのはお断りよ」

「いや、そんなつもりは毛頭ない」


 オレがそんなお節介を焼くようなことをする訳がない。


「じゃあ何?」

「是非とも授業のサボり方をご教授頂きたい」


 そのためにオレはここに来た。


「あんた……クズね」

「ご名答! 流石、天才と呼ばれるだけはあるな」

「天才じゃなくたってわかるわよそれくらい!!」

「そうか?」


 少なくともあの2人は、オレをクズだとは思っていないようだが。


「あのね、あたしはサボりたくてサボってるんじゃないの」

「じゃあ何で不登校なんだ?」

「研究を手伝うなら授業を受けなくてもいい。そういう条件で王立ここに入学したの」

「なるほど」


 リースやサクヤも基礎的な授業を免除されていた。

 その手の配慮だろう。

 その対価が無能な生徒への世話焼きだったり、面倒くさそうな研究の手伝いなのは御免だが。


「大体あたしに授業なんて時間の無駄。教科書を軽く見たけど、簡単過ぎて話にならない」


 その頭脳を少しくらい分けてもらいたい。


「それなら、何故わざわざこの学園に入学した?」


 学校ではなく、研究機関とかに入ったほうがいいのではないだろうか。


「本当はこんなところ来たくないけど、魔術師として生きていくなら、魔法学校を卒業しないと駄目でしょう? だったら研究さえしてれば卒業させてくれるところがいいじゃない」

「確かに。で、どんな研究をしてるんだ?

「戦術級魔術の簡略化の研究」


 首を傾げるしかない。


「そうね……普通の人にもわかるように説明すると、大規模な魔法の詠唱を、呪文の情報の一部を魔導書に保存することで、短縮したり、簡単に使えるようにする研究よ」

「なるほど、わからん」

「でしょうね。あんたに理解できるとは思ってないわ」

「でもさ、つまり誰でも簡単にヤバい魔法が打てちゃうってことだろう? それって不味くないか?」

「あんたにしてはまともな疑問ね」

「まあな」

「あくまで簡略化するのは詠唱の部分だけよ。むしろ必要な魔力は本来の呪文の何倍にもなるわ。だからそこらの凡人には使えないから問題ないわ」

「だったら魔導書の意味がないだろう」

「そもそも個人が使うことを想定して作ってないもの」

「じゃあどこで使うんだ?」

「例えば、王都を取り囲んでいる結界があるでしょう」

「ああ、知ってる」


 王都の周囲には目には見えないが、巨大な結界が張られている。

 これによって魔物が街に侵入を防いでおり、万が一攻撃を受けてもすぐには被害が出ることはない。


「そういう大規模な魔法に使う技術の内の1つよ。もしこういう魔法技術がなかったら、誰かが人柱になってずっと結界を維持し続けていないといけないんだから」


 なるほど。

 リースの言っていた「性質が違う」とはこういうことか。

 1属性を高位呪文を習得するのがやっとの一般生徒とは次元が違う。授業に出なくてもいい理由がわかった。


「これがその魔導書?」

「あくまで試作品だけど」

「へぇ」


 赤い魔導書を手に取り、中をざっと見てみる。

 内容は全くわからない。


「なんか出ろ」


 魔導書に手を翳し、窓の外に向けて適当に詠唱してみる。

 ものすごく魔力を吸われる。

 巨大な火炎の玉が燃え上がり、大木を焼き尽くす


「あっ!!」


 やらかしてしまった。


「はっ!? あんた何やってるの!?」

「いやー、別にオレは何も」

「あんた何者?」

「ただの0点の雑魚ですが何か」

「あのね!! それは魔力さえ込めればお手軽に高難度の魔法が使える優れものじゃないの! 封印されている術を普通に詠唱できるレベルでないと扱えないわ、その魔導書は!」「そうなの?」


 あんな魔法が使えるのか、オレ。


「いいわ。あたしの研究の手伝いをさせてあげる」

「遠慮しときます」

「感謝しなさい、あんたの能力を有効活用させてあげるんだから」

「そう言われてもな」


 手伝うメリットがオレにはない。


「わかった。代わりにあんたの言うこと1つだけ聞いてあげる」

「是非オレと付き合って――」

「それは却下」


 普通に却下された。


「あんたさ、聞くところによると、なんか困ってるんでしょう?」

「まあ一応」

「それを手伝ってあげる。だからあたしの研究を手伝いなさい。わかった?」

「あー、わかった。じゃあよろしく頼む」


 また監視役が1人増えてしまった。




 * * *




 夜、エリックが校長室を訪れていた。


「おい、何故リース姫とあんな契約を結んだんだ!? 答えろ!」


 エリックが机を強く叩く。


「勿論あなたの、そしてバートリー家のためですぞ。エリック殿」

「どういう意味だ!?」

「あの無能がゾーンを習得できなければ、リース姫が退学になる」

「そんなリース姫の顔に泥を塗るようなことはさせるものか」

「そうなれば、リース姫が王位に就くことは難しくなるでしょう。誰かの後ろ盾がなければ」

「……っ」


 エリックが急に冷静になる。


「リース姫が退学になった後、こう言えばいいだけです。エリック殿と婚約すればバートリー家が後ろ盾になると」

「リース姫が俺と婚約……!?」

「そうです。時期にリース姫があなたのものになりますぞ」

「そうか……黙認しよう」


 エリックは校長室を後にする。

 エリックが出て行った後、校長は水晶玉を取り出し、魔法を込める。


「私だ。仕事を頼みたい」


 誰かと会話を始める校長。


「報酬はいくらでも出そう。その依頼だが…………」


 校長が詳細を話す。


「オッドアイの少年は消しても構わない。頼んだぞ」

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