先輩の部屋に泊まらされることになった

 お風呂から上がった後は、女子寮の食堂でカレーライスを頬張っていた。


「うまい」


 特別な食材を使っている訳でもない、ごくありふれたカレーライス。

 それでも不思議とおいしく感じる。


「ローランド君、おかわりはいっぱいあるから遠慮しないでね」

「お菓子もたくさんあるよ」

「はい、ありがとうございます」


 先輩たちに囲まれ、色々とせかされる。


「よかったですね、たくさんの先輩たちに甘やしてもらって」

「いいのか?」


 よくわからないが、とにかくカレーがおいしいのでよしとしよう。


「この後はサクヤちゃんの部屋で寝るんでしょう?」

「いや、別に。オレはその辺で雑魚寝でもしてます」


 何かと勘違いされても困るので、無害な人間アピールをしておく。


「そんなのダメだよ」

「何故だ?」

「だって、そんなことしたらいつ女の子に襲われるかわかんないよ」

「何でオレが襲われるんだ」


 そんな女子がいる訳ない。


「とにかくボクの部屋にいなさい」

「わたしとサクヤさんしかいませんから心配しなくていいですよ」


 リースまで来る気のようだ。


「うん、ボクかリースちゃんに何かされる心配しかしなくていいよぉ」

「何でお前らがオレに何かするんだよ!!」

「え? まさか女の子の部屋に来て何にもしないつもりぃ?」

「当たり前だ」

「そんなひどい」

「何でだよ!!」

「女の子の部屋に来て何もしないなんて、男の子失格ですよ」

「リースまで何てこと言うんだ」

「そんなこと言うなら、しょうがない」

「わたしたちだけでしちゃいましょうか」

「何を?」

「そうだね、ボクとリースちゃんでしちゃおっか……トランプ」

「なっ」


 揶揄からかいやがったな。


「にひひっ、一体何をしようと想像してたのかなぁ?」

「もしかして、エッチなことでも考えていたんですか?」

「うるさい! とにかくお前ら、風呂入って頭冷やせ!!」




 * * *




 夕食を食べ終わった後、サクヤの部屋で2人がお風呂から上がって来るのを待っていた。


「ただいまぁ」

「いいお湯でした」


 寝間着姿のサクヤとリースがいい匂いを漂わせて帰って来た。

 オレが知っている匂いのボキャブラリーに一致するものがなく、いい匂いという言葉以上に説明できない。

 石鹸なのか、香水なのか、はたまたそれ以外の何かなのか。女の子のいい匂いの正体って一体何なのだろう?


「消灯時間までまだ少しあるけど、なんかする?」

「トランプするんじゃなかったのか?」

「え、あれは冗談だよぉ。本当にしたいならしてもいいけど」


 冗談なのかよ。


「先輩に聞きたいことがあるんだが」

「何々、なんでも聞いて」

「結局、師弟システムって何なんだ?」

「後輩君をお世話するための制度だよ。あんまり堅苦しく考えなくていいんだよ。気兼ねなく話せる先輩くらいに思ってくれればいいから」

「先輩じゃないと、魔法を教えちゃいけないとか」

「そんなことはないよ。別にリースちゃんでもボクでも、成績優秀な子なら教える側になっていいんだよ」


 名目上の責任者を定めておくだけの名ばかりの制度と受け取っておこう。


「ちなみに、恋愛関係に発展したりすることは禁止されてないから、安心してボクのこと好きになってくれていいよぉ」

「別に、先輩に好意を抱いたりしないから安心しろ」

「素直じゃないなぁ。そういう子に限ってすぐ好きになっちゃうんだから。ボクへの片想いに悶え苦しむ姿を存分に見せて欲しいなぁ」

「なんでオレの片思い前提なんだよ!!」

「え、だって、そのほうが面白いじゃん! それに、片想いの時期が一番楽しいって言うし」

「いや、どう考えたって両想いのほうがいいだろう」


 本当に好きな人との相思相愛ほど良いものはない……と思う。


「それは恋愛経験の足りないピュアな男の子の考えですなぁ」

「なっ!」


 そこを突かれるのは痛い。


「そういう先輩は恋愛経験あるのかよ」

「ないよ」

「ないんかい」


 人の事を言えないのではないか。


「リースちゃんは?」

「交際の申し込みを受けたことは何度もありますが、実際に誰かとお付き合いをしたことはありませんね」

「そっかー」

「何で受けなかったんだ?」


 王女であるリースなら、恋愛が厳しく制限されていても不思議ではないが、将来有望な上級貴族の誘いになら許される気もする。


「もう、言わせないで下さいよ。それは勿論、心に決めた人がいるからに決まっているからじゃないですか」


 頬を赤らめるリース。

 恥ずかしがっているところを無理に追及するのも野暮なので、これ以上は聞くまい。


「先輩にも彼氏がいないのは意外だな」

 

 サクヤの容姿なら、何人もの男子生徒に口説かれていてもおかしくない。


「だってぇ、今までボクのハートをキュンキュンさせてくれそうな男の子が全然いなかったんだもん」

「つまり、この学園に先輩の恋人候補はいないと」

「キミを除いてね」


 嬉しいんだか嬉しくないんだかよくわからない。

 さっきから揶揄われてばかりなので、本気にしないほうがいいだろう。


「でもでも、ボクのハートを打ち抜くのは大変だぞぉ。すごーく強くならないと、好きになってあげられないからね」

「興味ない」

「それに、ボクが簡単に落ちたら、面白くないでしょ?」

「いや、知らない」

「とにかく、ボクと両想いになれるよう頑張ってね」

「いつからあんたは恋愛の師匠になったんだ?」

「にひひっ」


 笑って誤魔化すサクヤ。


「でもでも、キミがリースちゃんを愛してるって言うなら、ボクはその恋路を阻むつもりはないよ。むしろ応援してあげる」

「リースが好きなんて一言も言ってないが」


 一体何なんだこの人? オレをどうしたいんだ?


「わたしとしては、最後に自分の手にあればそれでいいと思っているので、好きにして構いませんよ」

「そーお? じゃあいーっぱいかわいがっちゃおうかなぁ」


 サクヤのせいでリースまでおかしくなってないか。


「もちろん、無傷のまま手に入れられるのならそれに越したことはないですが」


 何故だろう、リースの笑みに恐怖を感じる。


「冗談ですよ」

「えっ?」

「わたしも揶揄ってみたかっただけです。半分は冗談です」

「半分は本当かよ!」


 女の子ってのはよくわからない。


「もう寝る!!」


 これ以上2人の付き合うのは疲れるので不貞寝した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る