ボクっ娘の先輩が世話役につけられた

 校長に呼び出されたオレは、リースと共に校長室へ向かった。

 案の定、オレを退学させようと画策していた。


「ローランドを退学にする件、考え直していただけませんか?」


 リースが校長に説得を試みる。


「私はこの学園を改革するために赴任した。その手始めにすべきことがこれだ。大体魔術も学力も0点の生徒など言語道断。即刻退学にすべきだと思うのだがね」

「そんなことありません。0点を取ることはすごいことです。わたしにはできません」

「いや、フォローになってないんだが!」


 そんなに胸を張ってまで主張されると、余計に恥ずかしさが増す。


「確かにある意味凄いかもしれぬ。これでゾーンでも使えたら話しは別だが……」

「わかりました。なら提案があります」

「なんだね?」

「わたしがローランドに魔術を教えて、ゾーンを発現させます」


 ゾーン? エリックが使っていたアレのことだろうか?


「よかろう。だが条件がある。もしローランド君がゾーンを発現できなかった場合、責任を取ってあなたにも退学して頂きますぞ、リース姫」

「構いません、それでローランドが退学を免れるのなら」


 リースは迷うことなく即答する。


「いや待ってくれ、リースにそんな責任は負わせられない。だったら潔く――」

「もう!! ローランドは黙ってて!!」

「はい、すいません黙ります」


 リースの圧に押されて思わず萎縮する。


「リース姫が魔術を教えることは構わぬが、監督者として形式上、上級生が必要となる。すぐに用意できるかね?」

「そ…それは」


 無理難題を吹っ掛けて来る校長。

 入学早々、そんな人物を探せる訳がない。


「ならボクがやってもいいよ」

「誰だ!? いつの間にこの部屋に入った?」


 校長がたじろぐ。


「ここだよ、ここ」


 上を見上げると、天井に張り付いている少女がいた。


「なんでそんなところに人が!!」


 少女が天井から落ちてくる。


「やっほー、ボクの名前はサクヤ。2年生の先輩だぞぉ」


 声の主はロングヘアーの少女だ。

 漆で塗ったような艶やかな黒髪に、ほっそりとした目から覗く翠緑の瞳。新雪のような柔らかな肌。

 大和撫子という言葉がよく似合う。が……


「あんた本当に先輩か?」

「失礼な!! どっからどう見たって先輩でしょう?」


 その顔立ちはかなり幼い。ランドセルを背負っててもギリ違和感を覚えないくらいには。


「本当にこの人で大丈夫なのか?」


 とは言え他に頼める先輩もいないので、この人に決める以外に選択肢はないのだが。


「大丈夫。かわいくてつよいボクに任せなさい。胸を借りるつもりでボクを頼ってくれればいいんだよぉ」


 オレはジッとサクヤのある一点を見つめる。


「あーっ! 今ボクの胸を見てそんな胸どこにあるんだって思ったでしょ?」

「否定はしない」

「フンだ。今はこれでもいずれはボンキュッボンなくノ一になるんだからね」


 サクヤは口を尖らせる。


「ゴホン」


 校長が咳払いをする。


「師弟制度を組む上級生は、成績優秀かつ品行方正でなければならない」

「その点は大丈夫。ボクね、下手な3、4年生や先生よりも強いよぉ」

「どれどれ……エルモニアからの留学生か。ふむふむ、確かに。ゾーンも発現している」


 サクヤ先輩の成績が載った資料を見て、校長は納得したようだ。


「じゃあ決まりだね」

「ではサクヤさんとローランド君を師弟として登録しよう」

「やったー!!」

「魔術訓練の授業時間はローランド君の個別指導に充ててもらって構わぬ」

「オレはともかく、2人は授業に出なくていいんですか?」

「2人とも当該学年を超える魔術技能があると認められているので、出席せずともよい」

「もともと上級コースの授業を受けようと思ってたけど、どうせ退屈だろうから。だったら後輩君に教えるほうが面白そうじゃない」

「人に教えるという経験を積めることは、わたしにとってもプラスです」


 サクヤ先輩もリースも、オレを教えることによって不利益が生じることはないようだ。


「ボクは2人と時間割が違うけど、2年生以降は比較的自由に組めるから、うまく調整するよ」

「助かります」


 一言礼を言った。


「では、わかっておりますなリース姫」

「はい。この件は全てわたしが責任を持ちます。なので先輩は巻き込まないでください」

「よかろう」


 校長が取り出した契約書にリースがサインをする。


「決まりですな。これは魔法を以ってしっかり契約します。もう下がってよろしい」


 そう言って校長は笑みを浮かべた。


「そうか」


 とだけ言い残し校長室を去る。

 こんな奴の根城に長居なんかしたくない。


「「失礼しました」」


 2人はこんな奴にもご丁寧にお辞儀までして扉を閉めた。

 しかしあの校長、最後に何故か不気味に微笑んでいた。

 あれは決して社交辞令の作り笑いなどではなく、心の底から出た笑みだった。

 一体何を企んでいるのだろうか。




 * * *




 校長の部屋から出て、帰途に就く頃にはすっかり日が落ちていた。


「ところで、何でオレなんかのお目付け役を引き受けてくれたんだ?」

「さっきの決闘見て、かわいくて将来有望そうな後輩君を見つけたから。引き受けてみたいと思ったんだよね」

「あれのどこを見て、将来有望だと感じたんだ?」

「え? 腕輪を剣で斬ったところとか?」


 鎌鼬を見切られていたのか。


「バレてた?」

「バレてたよ」


 余程剣術に長けていた生徒がいたのは誤算だ。


「リースちゃんだって気づいてたでしょう?」

「ローランドが水魔法でこっそりエリックの攻撃を防いだことは知っていましたよ」


 めちゃくちゃバレてる。

 そんなこんなで男子寮の近くへ辿り着く。


「とにかく、2人とも今日は助かった。ありがとう」

「いえいえ、わたしは何もしてませんよ」

「ボクも、先輩として当然のことをしたまでだよ」

「これから色々と面倒をかけると思うが、よろしく頼む」


 2人に手を振って、寮に入ろうとするが。


「そういえば寮の部屋の鍵をもらってないんだが」

「男子寮の個室の鍵はローランドが医務室にいる間に配られてましたね」

「今は誰が持ってる?」

「担任の先生でしょうか? でも、もう職員室にはいないと思います」


 このままでは野宿になってしまう。


「しょうがないなぁ」


 そうしてサクヤに連れていかれたのは……

 女子寮だ。


「え!?」

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