偉そうな貴族に決闘を申し込まれた

 古代の闘技場を彷彿とさせる円形のコロシアム。


 決闘が行われるという噂を聞きつけた生徒たちの姿が観客席にちらほらとあった。


 その中には上級生も紛れているようだ。


 戦闘が行われるフィールドにオレは立っており、目の前には決闘を吹っ掛けてきたエリックがスタンバイしている。


「2人とも腕輪はつけたな」


 審判として立っている上級生が改めてオレとエリックに確認を求めた。


 今左腕につけているこの腕輪は、一定量のダメージを受けると防御魔法により攻撃を無効化する特別な魔具だ。この魔法が発動した時点で負けとなる。


 死亡事故を防ぐため、魔法学校における試合ではこれを装着することが必須となっている。


「それじゃ、試合開始だ」


 オレはエリックに向けて剣を構えた。


「すぐに終わらせてやる。イグニス」


 エリックの杖から炎が放たれる。


 水属性の攻撃で受けるのがセオリー。

 だが今使える属性を明らかにはしたくない。

 やったことはないが、無属性で受けよう。


「それっ」


 魔力を纏った剣で、エリックが放った炎を斬る。

 変だな。思ったよりあっけなく炎が斬れた。いや、斬れたというより相殺したというほうが適切か?

 もうちょっと出力を抑えよう。


「全く魔法が使えないわけではないようだな」

「まあね」


 そう言いながら剣を一振りし、鞘へとしまう。


 この勝負、貰った。


「何にせよ試験で手を抜くような不真面目な者はこの学園に相応しくない」

「そう」


 ゴンという重い金属音が鳴り響く。


「えっと……勝者、ローランド」


 審判である上級生が試合の終わりを宣言した。

 それと同時に会場にどよめきが起こる。

 何が起こったのか、この会場にいるほとんどの人間は理解していないだろう。


「どういうことだ? 何故、腕輪が割れた!? 貴様何をした?」

「オレは何も」


 それは魔法ではなく、技。

 その名は鎌鼬かまいたち

 虚空を斬り、真空の刃を作り出す不可視の剣技だ。


「こんなの間違いだ。予め何か腕輪に細工をしたな」

「そんなことをする時間はなかったな」

「嘘だ。不正をしたに決まってる」


 余程剣術に長けていなければ何が起きたのか理解できないだろう。


「身の程知らずの愚民が調子に乗りやがって。いい機会だ、凡人たる貴様に教えてやろう。何故我々が貴族たるかを…………ゾーン・イグナイト!!」


 エリックの杖に灯された炎が青色へと変化する。


「貴様ら平民はよく言う。貴族はずるい、何もしていないのに偉そうだと。だが違う。我々は力があるからこそ選ばれたのだ」


 エリックは杖から青い炎を放出させながらさらに続ける。


「見よ! 凡人には到達できぬこの力を。高名な家の者は皆、遥か昔から王家に仕えて来た。このリメリア王国を支え、守ってきた血が! 力が! この俺には流れている。だからこそ我々には、その力を以って王に仕え、王国に寄与する義務がある。俺の邪魔をするな!!」


 青色の業火がオレを襲う。

 今までの攻撃とは何かが違う。直撃したら不味い。

 そう考えている間にエリックの魔法の直撃を受けて、気を失った。




* * *




 気が付くと、医務室のベットで眠っていた。

 かなり長い時間眠りについていたようだ。

 あの攻撃、水魔法で薄い膜を張っていたので事なきを得たが、まともに喰らっていたら不味かった。しかし……


「いやー、ラッキーラッキー」

 

 一応ルール上ではオレが勝ったから、オレの退学はなし。怒り狂ったエリックの攻撃により倒されたから、オレの実力はバレてない。


 奇策かズルで偶然勝利した無能というのが今のオレの評価だろう。

 我ながらいい妥協点だ。

 少し目立ち過ぎてしまった。

 だがここからフェードアウトしていけば問題ない。

 あとはダラダラと学園生活を送り、適当に卒業すればいい。


「ローランド!!」


 目を覚ましたオレに気づいたリースが駆け寄って来た。


「目が覚めたのですね。怪我は大丈夫ですか?」


 体を少し動かす。特に痛む場所はない。


「ああ、問題ない」


「すみません。すぐに防御の魔法を詠唱したのですが、間に合いませんでした」

「リースが気にすることじゃない。それに、あの喧嘩を買ったのはオレだ」

「もしかして、リースはずっとオレのそばに居てくれたのか?」

「はい、ローランドがここに来てからずっとここにいました」


 心配してくれるのは嬉しいが、たまたま隣の席になっただけのオレに何時間も寄り添うのはやり過ぎな気がする。


「悪かったな、長い時間つき合わせてしまって」


 それでも感謝の念は一応述べておく。


「困ったときはお互い様です。だから、いつでもわたしを頼ってください。わたしはいつでもローランドの味方です」

「ありがとう、助かる」


 まあ、過保護な性格なんだということで今のところは納得しておこう。


「そういえば校長先生がローランドを呼んでいたみたいですよ」

「そうか。じゃあオレはこのまま校長室へ向かうよ」

「あの、わたしもついて行ってもよろしいですか?」

「いや……」


 断ろうとしたが、冷静になって、何故校長が入学早々呼び出した理由を考えてみる。

 間違いなく入学者テストの成績だ。

 あの校長はこの学園に赴任してきたばかり。入学者に選ばれればどんな成績だろうと入学を許可する今の仕組みを変えようとしているのかもしれない。


 そうなれば誰かに弁明してもらったほうがいい。

 それがこの国のお姫様プリンセスとなれば尚更だ。


「ついてきてもらってもいいか」

「はい、ご一緒します」


 こうしてリースと共に校長室へと向かった。

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