隣の席は幼馴染のお姫様

 式が終わり、クラス分けが発表されたので、それに従い教室へと向かった。


 教室に入ると、半分くらいの学生が既に着席していた。


 自分の席を見つけ、着席する。オレの周りはまだ誰も来ていないようだ。


 オレが最下位の生徒だとバレてしまうのは時間の問題だろうが、できるだけ目立たないようにしてほとぼりが冷めるのを待とう。


 なに、次の試験で真ん中くらいの成績を取れば問題ない。


 その内オレが最下位だったことなんか忘れさられるに決まってる。


 何か別のことを考えて現実逃避しよう。


 そういえば、王都に来るのはこれで2回目だ。

 最初に来たのは幼少の頃で記憶が曖昧だが、庭園のような場所で女の子と遊んだことを微かに覚えている。


 あの子、元気だろうか。


 あわよくばこの学園に入学していて、感動の再会を果たすというのも……


「隣に座ってもよろしいですか?」


 突如、後方から話しかけられる。


「ああ、どうぞ」

「失礼します」


 声の主はあまりにも美少女だった。


「こんにちは。わたしはリースと申します」


 腰まで届く金色ツインテールの髪は絹のように滑らかで、その瞳の輝きはサファイアの如き青。

 肌は陶器のような純白で、その顔立ちにはややあどけなさが残るものの、制服越しでもはっきりとわかる胸の膨らみがもう子供ではないことを主張している。

 彫像のような美しさと男心をくすぐるかわいさが見事なまでに混在している。


「その赤と緑のオッドアイ……もしかして、ローランドですか!?」


 宝石のような眩い瞳を潤ませるリース。


「そうだけど、どうしてオレのことを?」

「わたしのこと……覚えていませんか」


 リース……確かに聞き覚えのある名前だ。

 まさか!! この子が微かに記憶にあるあの子なのだろうか。


 だが妙にしっくりこない。変な違和感がある。


「ええっと……小さい頃に遊んだことあるよね」

「はいっ!! 覚えていてくれたんですね」

「うん、まあ……ね」


 抽象的な受け答えで誤魔化してやり過ごす。


 記憶の中にある女の子とリースが同一人物なのかは定かではない。


 だがオレとリースが幼馴染であることは確かなようだ。


「校長先生が名前を仰ったときにまさかとは思いましたが、ローランドにまた会えてとてもうれしいです」

「そう言ってもらえてよかった」


 普通にバレていた。

 いや、まだ同姓同名の別人説で誤魔化せばなんとかなるかもしれない。


「今日からはクラスメイトとして、改めてよろしくお願いしますね」

「ああ、よろしく」


 そうして握手を交わそうとした。


「リース姫、お久しぶりです」


 オレとリースの会話を遮るように、男子生徒がリースに話しかける。


「あらエリック、あなたも同じクラスなのですね」


 どうやらリースとは知り合いのようだ。


「ところで君は?」

「オレはローランドだ」

「家は?」

「は? どういう意味だ?」

「名字は何だと聞いているんだ」


 最下位の件を抜きにしても答えたくない。


「貴様、さては平民だな」

「そうだけど、何か?」

「俺はエリック・バートリー。バートリー家の次男さ」


 何番目に生まれたのかは聞いていない。だが、バートリーという名前は貴族事情に疎いオレでも知っている。それほどの名家だ。


「貴様はこのお方がどのような人物か知っているのか?」


 さっきこいつはリースのことを姫と呼んでいた。ということは……


「冴えない貴様に教えてやろう。このお方こそリメリア王国の第一王女、リース・リメリア・リオーネ・ベリアール様でおられる」


「ええ!?」


 王家リオーネという言葉で憶測が確信に変わった。リースはこの国の王女だ。どうりでその名前に聞き覚えがあったわけだ。

 

「平民である貴様に忠告しておこう。その方は気安く接していい相手ではない。この俺こそがリース姫の傍に相応しい。わかったらその席を譲れ」


「座席を決めたのは学校側だ。オレの一存では了承できない」


 まあ、隣人ガチャSSSのこの席を譲る気は更々ないが。


「エリック、今の言葉は看過できません」


 穏やかな声とは裏腹に、冷たい表情を見せるリース。


僭越せんえつながら啓上させて頂きますが、あなたはこの国の次期国王となられるお方。このような何処の馬の骨ともわからぬ怪しき者とは関わるべきではありません」


「クラスメイトは皆、学校生活を共に送る仲間です。そのような言動は慎んで下さい」


「……リース姫は分かってない。今、あなたがどんな状況におられるのか」


「分かっていないのはあなたのほうです。家柄を振りかざしてに威張り散らすのではなく、皆の手本となるように振る舞い、民を守るためにその力を使うべきです」


「……」


 リースの正論に、エリックは沈黙するしかないようだ。


「貴様、さては最下位をとった間抜けだな」

「そうだけど、だったら何だ?」


 こうなったら開き直るしかない。


「この俺と決闘しろ」


 エリックはオレを睨みながら低い声でそう告げた。


「魔法が碌に使えない無能がこの学園の門を潜った上にリース姫の邪魔をするなど

あってはならない。貴様のような半端者は今ここで排除してやる」

「エリック、入学早々に決闘を申し込むなんて」


 エリックをなだめるリース。


「いや、構わない」


 だがオレは、エリックの口車にあえて乗ることにした。


「ですが」

「受けてやるよ」


 こうしてエリックとの決闘を行うことになった。

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