54 姿を隠すには
二人は門番の後ろに付いて行く。
とは言え、このまま王城まで連れていかれても色々と面倒事が起こるだろうと考えた咲はどこかしらのタイミングで逃げるつもりであった。
もっとも、そのタイミングとやらは向こうからやってきたのだが。
「おい、アイツじゃないのか噂の奴は!!」
走ってきた一人の男冒険者は咲を見るなりそう言った。
それに続いて彼の後ろからさらに何人もの冒険者が現れる。
「なんだお前らは!」
その状況に門番は困惑しつつ、警戒は怠らなかった。
「わざわざ門番が付いてるってことはよ。噂の戦士ってのはソイツで間違いないんだな? よし、それじゃあこっちに渡してもらおうか」
どうやらこの冒険者たちも報酬を目当てに動いていた者のようで、いち早くその情報を入手してすっ飛んできたのだった。
「いや、そもそも私は別にこの人のものって訳じゃ」
「なら話は早い。俺と一緒に来てくれ」
「抜け駆けはズルいぞてめえ!」
金に目がくらんだ者は恐ろしい。これまでは共にパーティとして協力してきた彼らも、高額な報酬を前にしては殴る蹴るは当然の事、挙句の果てには剣を抜いての争いも辞さない様子だった。
それはまさに地獄。
欲望渦巻く地獄の窯がそこにはあった。
「桜、こっち」
「うぇっ!?」
咲は桜をお姫様抱っこ抱え上げ、そんな乱闘騒ぎの冒険者とそれを抑えようとしていた門番の前から飛び去る。
これ以上は桜の身に危険が及びかねないと判断しての行動だった。
「この辺りなら大丈夫かな」
正門からある程度離れた辺りで咲は屋根の上に降り立つ。
「急にごめんね」
「ううん、いいの。咲ちゃんのことだから私のためだったんでしょ?」
桜はもはや咲が何も言わずとも彼女の心情を読み取っていた。
「そう言ってくれると助かるよ。で、問題はここから。これからどうしよっか……」
咲はそう言ってその場に座り込んだ。
「指名手配されているからそのままじゃいられないし、かといってカルノライザーに変身してるのもだめ……八方ふさがりだね?」
どう足掻いても咲はこの街で表立って行動出来るような状態では無かったのだ。
咲の姿でいれば指名手配犯として憲兵に追われ、カルノライザーの姿でいても今度は報酬目当ての者たちに追われることになる。
どうしようもなかった。彼女の言うとおり八方ふさがりだった。チェックメイトにはまっていたのである。
と、咲がそう思い込んでいた時、桜が口を開く。
「要は姿がバレなければいいんだよね? それならローブとかをかぶればいいんじゃ……」
「……ぁっ」
灯台下暗しとはこのことだった。
咲は無意識に自分の顔が晒されている状態をデフォルトにして考えていたのだ。
と言うのも彼女は長いことカルノライザーの能力と共にあったため、変装がイコールで変身に結びついてしまっていた。
正体を隠すなら変身すればいいや……と、その意識のままずっと生きてきたのだ。
「それだよ桜! ありがとう、私じゃ思いつかなかった!」
「ふぇっ!? そ、そうなの……?」
咲は感謝の言葉を述べると同時に桜に抱き着く。
一方で桜にとって今のはダメ元で言ってみた案であったため、予想外の展開に驚いていた。
「あっでもそんな感じに顔を隠せるものって今持ってないよね……」
「確かに……。買って来るにも私は人前に出られないし……」
「それじゃあ私が買ってくるよ!」
「桜が……?」
そう言う訳で、人前に出られない咲の代わりに桜がローブを買って来ることになったのだった。
「桜、大丈夫かな……」
露店へと向かった桜を咲は物陰から見守る。
と同時に、いざとなればすぐに飛び出して彼女を守れるように常に動けるようにしていた。
「すみません、このローブを二つください」
「はいよ、二つで……っておお、こいつは中々……」
露店の店主の視線が彼女の体に向かう。
栄養を満足に取れない者も多いこの世界において、咲や桜のように発育の良い者は中々に目立つのだ。
「どうせなら一から作ってくかい? 採寸すればぴったりのオーダーメイドだって出来ちまうが」
そう言う店主の視線は未だ彼女の体に、特にその存在を大きく主張している胸に注がれている。
「あの店主、目つきがやらしい……桜に指一本でも触れたら容赦しない」
咲はそんな店主に相当お怒りのようで、今にも飛び出しそうな状態となっていた。
「いえ、結構です」
しかし咲のそんな心配とは裏腹に、桜はピシッとそう言うのだった。
「そうかい? まぁローブは消耗も激しいからねぇ。んじゃ、ローブ二つで銅貨五枚だ。嬢ちゃんかわいいからね、おまけしとくよ」
「ありがとうございます!」
桜はローブ二つを店主から受け取り、咲の元へと戻る。
「大丈夫? 変な事とかされてない?」
「もう、心配性すぎるって咲ちゃん。私これでも高校生なんだから買い物くらいできるよ」
「そ、それもそっか……ごめん」
桜にそう言われ、咲は流石に過保護過ぎたかもしれないなと思い反省するのだった。
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