53 アルタリアへの帰還
盗賊に襲われるというアクシデントこそあったものの、その後大きなトラブルも無く行商人の馬車隊は無事にアルタリアへとたどり着いたのだった。
だが門を通ろうとした時、咲はある問題点に気付く。
「そう言えば私、指名手配されてるんじゃん……」
そう、彼女は現在進行形で指名手配されているのだ。このまま通っていいはずが無かった。
「どうしようか……ひとまず変身すればバレないかな?」
そう言って咲はグレートカルノライザーへと変身する。
咲とカルノライザーが同一人物だと知っているのは少なくともアルタリアにはいないため、変身していれば指名手配犯として扱われることは無いだろうと判断しての行動であった。
だが、それがまた新たな面倒事を生むことになるのを咲はまだ知らない。
「荷馬車の確認をさせてもらおうか」
「どうぞどうぞ」
門番が行商人の馬車の積み荷を確認する。
過去に指名手配中の犯罪者が馬車の積み荷に紛れて街に入り込んだことがあったため、門での検査を入念に行うようになっていた。
それもあり、咲が隠れて街に入り込むことは不可能と言えた。
「同行者は……うん? んなッ!?」
行商人は護衛と共に行動することが多いため、同行者も同時に確認されるものであった。
それは今回も例外ではなく、門番は同行者を確認するのだが……。
「その奇妙な鎧……ま、間違いない……! 少し待て!」
咲のカルノライザーとしての姿を見た途端、血相を変えて他の門番の元へと走り出すのだった。
「一体何が……」
その状況について行けない咲はただただ困惑するのみである。
そして少しの間コソコソと何かを話していた門番は、戻って来るなりこれ以上無いくらいの笑顔で彼女を出迎えた。
「すみません、お待たせいたしました」
「何か問題でも?」
「いやいや、そんな事はありませんとも。ええ、全く。これっぽっちも」
もはや不気味に感じる程に態度を変えた門番。
そんな門番に怪しさを感じる咲だったが、とりあえず身分の確認なしに街に入れてくれるらしいので一安心していた。
「一体何だったんだ今の……」
「あっ……そう言えばまだ言い忘れてたことがあったぞ」
今なお困惑し続けている咲に、剣になったカルノンがそう話しかけた。
「まだ何かあるの?」
「えっと確か、咲の指名手配ともう一つ……カルノライザーの見た目をした戦士の張り紙があったはずだな」
「それ、詳しく聞かせてもらえる?」
カルノンは張り紙の内容を咲に話す。
その内容と言うのが、魔龍王を討ち取った謎の戦士を王城にまで連れてきた者に高額な報酬を出すというものだった。
「あぁー……そういうこと」
それを聞いた咲は全てに納得がいったと言わんばかりに手をポンと叩く。
「つまり、あの門番は私を王城に連れて行って報酬を貰おうって言う訳だ」
咲は自分の扱いが露骨に変わった理由を完全に理解していた。
そんな彼女の元に検査を終えた桜が駆け寄ってくる。
「咲ちゃ……あ、えっと、カルノライザー……。えへへ、あんまり慣れないなぁこの呼び方」
指名手配されている咲をそのまま呼ぶと不味いだろうと考えた桜は、彼女の事をカルノライザーと呼ぶことにしていた。
だが急にそのように変えようとしても違和感が出るものである。それこそ自分でも笑ってしまうくらいに。
「そう言えば、そっちで呼ばれたことは無かったね」
「うん。例えカルノライザーであったとしても、私にとって咲ちゃんは咲ちゃんだから」
「桜……ありがとう」
「えっ、どうしたの急に!?
咲は桜の言葉を聞き、思わず感謝の言葉を述べていた。
「私はずっとカルノライザーとして戦って来た。その正体を隠してね。だから皆が賞賛するのは私じゃ無くて、正義のヒーローであるカルノライザーなの」
どこか悲しそうな声で咲はそう言う。
家族が危険にさらされる可能性を考慮し、彼女は一切の素性を明らかにしないままドラゴラゴンと戦っていたのだ。
そうなれば当然、皆が崇めたてるのはあくまでカルノライザーであり彼女では無い。
龍ヶ崎咲と言う少女は、言いようのない孤独感と常に戦っていたのだ。
「……でも、桜は私を見てくれる。私を龍ヶ崎咲として。一人の友人として。そして今は一人の恋人として見てくれる。それが、凄く嬉しいの」
「咲ちゃん……! 安心して! 私がいっぱい咲ちゃんのことを、おはようからおやすみまでたっくさん見てあげるから!」
「そ、それは流石に見すぎかも……」
桜のその言葉に咲は少し引いていた。
とは言えそれだけの熱意をもって自分を見てくれることを嬉しくも思っていた。
そんな二人の元に再び門番がやってくる。
「おや? お二方はお知り合いか何かで?」
「ええ、彼女とは……」
咲は桜のことを恋人だと言おうとしたが、その直前で踏みとどまった。
この世界においても……特にアルタリアにおいてカルノライザーと彼女を結びつけるのは危険だと思ったのだ。
「恋人同士です!」
そんな咲の考えを無かったことにするように、桜はそう言って咲に抱き着いた。
「なんと、それは申し訳ないことをした。言ってくだされば確認作業を免除しましたのに」
「あー、いえ、お構いなく」
咲にとって桜の行動は完全に想定外であったらしく、ただただ無難に返答することしか出来なかった。
ここまで一緒に来て今更「危険だから」なんて理由で距離を置いたりしないよね?
と、そう言わんばかりのムスっとした顔で桜は咲を見る。
それに気付いた咲は考えを改めると同時に、彼女を優しく抱き返すのだった。
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