55 二人の超位冒険者

 勇者である桜も含めて、その姿を見られないように二人はローブを被って街を移動する。

 幸い冒険者には素性を知られたくない者も少なくは無く、また門を通れている時点でほとんどの場合問題が無いと判断されているため、ローブなどで顔を隠していてもそこまで怪しまれることは無かった。

 

 そんな二人は少しでも咲の指名手配に関する情報を集めるために冒険者ギルドへ立ち寄った。

 すると何やらただごとでは無い騒ぎとなっているようだった。


「凄い人の数だね?」


「皆何か見ているみたいだけど……もう少し前に行ってみようか?」


 アルタリアの冒険者ギルドはその規模も凄まじく、軽く数十人は入れるサイズである。

 しかしそのギルドがパンパンになる程に今は人で溢れているのだ。

 その原因となっているものを確認しようと二人は人込みを掻き分けていく。


「……あれがこの人込みの原因?」


 人込みの隙間から見えたのは金色と銀色の装備を纏う瓜二つの顔をした二人の女冒険者だった。

 とは言え、ただの冒険者というだけではこのレベルの騒ぎにはならないだろう。


「俺、超位冒険者なんて初めて見たぜ!」


「ああ、俺も前に一度だけちらっと見たくらいだ。なんというかこう、纏ってるオーラが俺らとは違うよな」


 冒険者たちはその二人を見ながら口々に感嘆の言葉を述べる。

 そう、この騒ぎの原因となっているのは超位冒険者であったのだ。


 その存在自体が極めて稀であるため、超位冒険者に生涯出会うことが無い人の方が多い。

 故に、彼女らを一目見ようとこれほどの人数が集まるのも当然のことだった。


「それで、私たちに頼みたいって言う依頼は?」


 金色の装備を身にまとう女性は周りの目を一切気にせず、受付嬢と依頼の話をし始める。

 

「はい、ここ最近魔物が活発になっていることはご存じですよね」


「小耳にはさむ程度には……中にはワイバーンとかの強力な魔物もその生息範囲を広げているんだっけ?」


「その通りです。そこで、人里に近づいている魔物を討伐してもらいたいという依頼が国から出ています。これは超位冒険者の中でも群を抜いて実力者である『金銀姉妹』のあなた方にしか任せられない依頼なのです」


 受付嬢はそう言って二人に依頼を受けさせようとしていた。

 彼女の言った金銀姉妹と言うのは二人の持つ二つ名であり、言うまでも無くその装備から連想されたものだった。


 だが彼女らがただ単にその二つ名のために装備に色を塗っているのかと言えばそれは大きな間違いである。


 彼女らの纏う装備は「黄金竜ゴルドマキア」「白銀竜シルヴァマキナ」と言う竜種の素材で作られていた。

 言わずもがなこの二体は強力な魔物であり、あまりにも危険すぎてほとんど生還者がいないことから少し前まではその存在自体がおとぎ話に登場する架空のものとして扱われていた程である。

 当然この魔物をたった二人で倒すことなど超位冒険者でも無ければ不可能だった。


 そう言う事もあってか彼女らを含む超位冒険者と呼ばれる者たちはその類まれなる能力の高さから、時に国からも依頼を頼まれることがあるのだ。

 もちろん断るも受けるも本人の自由であるが、ここで断るような人間はそもそも超位冒険者として認められないことが多い。


「そこまで言われちゃあ仕方ない。受けるよ、その依頼」


 現に、超位冒険者として認められている彼女も例に漏れず、進んで国のピンチを救うような人間であった。


「メンシス姉さん、そんな簡単に受けてしまっていいの?」


 そんな彼女に一言そう言ったのは銀色の装備を身にまとう女性であった。

 彼女のことを姉と呼び、なおかつ瓜二つの顔をしていることから彼女らは双子の姉妹だと言う事がわかるだろう。


「心配はいらないよ。私とソリスがいれば、敵などいないんだからね」


 メンシスは得意気にそう言う。


「もう、調子がいいんだから」


 それを聞いたソリスはまんざらでもない様子を見せつつ、彼女の言葉を聞き流していた。

 恐らくいつもこのようなやり取りをしているのだろう。


「と、言うことだ。改めてその依頼を受けようじゃないか」


「ありがとうございます。詳細については後程お伝えしますね」


「承知した。必ず私たちがこの街を救ってやるとも」


「姉さんったら……」


 そうして依頼を承諾した二人はギルドを出ようと出口へ向かう。

 その途中で咲はメンシスと目が合ったのだった。


 すると彼女は咲の方へと一直線にやってきて、その耳元で囁く。


「……君、もしかして指名手配中の子かい?」


「えっ……?」


 メンシスのその一言は咲を大いに驚かせた。

 ローブを使って顔を隠しているのにも関わらず、どういう訳かその正体に気付いていたのだから。

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