28 キングゴブリン
ゴブリンロードを倒した咲の元に騎士たちが集まる。
「……ホブゴブリンを倒してくれたことには感謝しよう。しかしこの状況だ。貴様が味方かわからない以上、我々も武器を構えねばならん」
隊長はそう言い、周りにいた者と一緒に咲に向けて武器を向ける。
彼らの纏う雰囲気は敵意と言うよりかは未知への警戒であり、出来れば争いたくは無いと言うのがその表情からは見て取れた。
「とりあえず、私は敵じゃない。そこはどうか安心して欲しい。ホブゴブリン……いや、ゴブリンロードだったかな? それを倒しに来た少女が行方不明って言うから助けに来たの」
咲はたった今倒したのがホブゴブリンでは無くゴブリンロードであるといった、鑑定により得られた情報も交えて隊長に話す。
「ゴブリンロードだと……!? 何故そのような上位種がこの辺りに……。だがホブゴブリンでは無くゴブリンロードであったのならばあれだけ強力だったのも理解できる……」
さっきまで戦っていた相手がゴブリンロードだったと言う事を知った隊長はぶつぶつと呟きながら考え込んでいた。
その時である。
「クリフ!!」
少女が彼の名を叫びながら、それまで隠れていた木の洞から飛び出てきたのだった。
「お嬢様……!!」
「ご、ごめんなさい……! 私のせいで、みんなが……うぐっんぶぁ」
クリフの元まで今にも倒れ込みそうな足取りで走り寄る少女だったが、途中で死んでいった者たちの事を思い出してしまったのかその場で吐いてしまう。
そんな彼女の元にまで駆け寄ったクリフは彼女を固く抱きしめた。
「エレナお嬢様が無事ならばそれで良いのです……我らは、ブルーローズ騎士団はそのためにいるのですから」
「うぅっ、ぐすっ……」
エレナと呼ばれた少女はクリフの腕の中でただひたすらに泣いた。
「ブルーローズ……? 確かどっかで見たような……」
そんな中、咲はクリフの言ったブルーローズと言う名が気になっていた。
どこかで見たような覚えがあったのだ。
「あっ」
記憶の世界に旅立っていた咲は突如として戻って来る。
「今朝のレイナさんの……!」
咲がそう叫ぶと、それを聞いた騎士たちが一斉に咲の方を見たのだった。
「……レイナお嬢様とお会いになったことが?」
「今朝冒険者ギルドで……あっ」
その瞬間、咲は気付く。彼女と会った時の自分は変身をしていないのだ。
やってしまったと思ったが時すでに遅し。
「おお、では貴方がレイナお嬢様の言っておられた、あのクレイグを前にしても臆することの無かった冒険者なのか!」
レイナは騎士隊長であるクリフにもギルドでの事を伝えていたのだ。
「……? しかし、お嬢様の話ではその者は少女であったはず」
「ま、まあ色々ありまして……誰ッ!?」
クリフをどう言いくるめようか考えていた咲だったが、突如現れた謎の気配を察知しすぐさま反応する。
「あ~、もう気付いちゃったんか。もう少し近づけると思ったんやけどなぁ」
すると咲が向いている方向から声が聞こえてきた。
「敵なら殺す」
警戒心マックス状態の咲はそんな声の主に対して、これまた殺意マックスでそう返す。
「おぉ~こわい。ま、少なくともワイは敵やないから殺さんといて」
このまま隠れていると本当に殺されそうだと言わんばかりに、声の主はそう言いながらその姿を現した。
夜の闇に紛れてその姿と気配を隠していた者の正体は一人の青年であった。
だがその容姿はただの人間のそれでは無い。
その肌はゴブリンのような緑色であり、頭からは美しい赤い長髪を掻き分けるようにして立派な角が生えている。
「ワイはゼルっつーもんや。……そうやな、『キングゴブリン』っちゅーのが人間の中での呼び名やったか?」
「キ、キングゴブリン……だと!?」
ゼルが自らをキングゴブリンと名乗ると、それを聞いた隊長が先程以上に驚くのだった。
「貴様がゴブリン族を束ねると言う伝説上の存在……あのキングゴブリンだと言うのか!?」
「そうやで? まああまり人前には出えへんからなぁ。疑われるのも仕方なしやね」
ゼルは飄々とした、どこかこの場には似つかない様子でそう言った。
それも彼が伝説上の存在とされている者であるがゆえの異質さだと言えるだろう。
そもそもの在り方が、考え方が、人間の常識とは違っているのだ。
「……で、本題なんやけどな」
それまで軽い雰囲気で話していたゼルの様子が一変する。
その重苦しいオーラに騎士たちとエレナは耐えられず、その場に崩れ落ちてしまった。
「そこに倒れてるゴブリンロードを倒したのはあんたってことでええんやな?」
ゼルは咲に対してそう尋ねた。
この場において彼女だけがゼルを前にして立っていられたのだ。
そのことから、ゼルは瞬時に彼女が強者であることを見抜いた訳である。
「私が倒したのは間違いない。……で、どうする?」
咲は殺気の込められたドスの効いた声でそう返した。
「ほぉ……やっぱりそうなんやな」
今にも戦闘が始まりそうな一触即発の空気が辺りを包み込む。
厳しい訓練をしている騎士でさえ吐き気を催すほどの濃密な殺気が充満する。
「すまんかった!」
「……へ?」
しかしそんな空気はゼルの謝罪によっていとも容易く吹き飛ばされたのだった。
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