27 ゴブリンの群れ
時は深夜。街は寝静まり一切の灯りが無い中、一人の少女の影が動く。
「ごめん桜。ちょっと行って来るね」
桜が起きないように咲は囁き声でそう言った後、ゆっくりと窓を跨いでそのまま飛び降りた。
この世界の住人にとっても流石に二階の高さから飛び降りるのは怪我の危険性がある危険な行為であるが、咲にとってはこの程度ちょっとした段差から飛び降りるのとそう変わらないものだった。
「さて、あの少女の反応は……っと」
パラサライザーに変身した咲はパラサソナーを使って今朝ギルドにいた少女の反応を探す。
「街の周りにはいないか。それなら……」
街の周辺にはいないことがわかった咲は今度は消費エネルギーを増やして探索範囲を拡大し、もう一度少女の反応を探した。
「あったあった。えっとこの位置は……向こうかな。反応がまだあるってことは生きているってことだし、きっと急げば間に合うはず」
少女の反応を見つけた咲はその方角へと向かって走り始める。
反応は街から少し離れた森の中にあり、そこまでは咲の足であれば数分で到着できる距離だ。
日中ではきっと桜に止められる。そう思っていた咲は深夜になるまで待っていたため、すぐにでも少女の元に行かなければと急ぐのだった。
――――――
「はぁ……はぁ……」
少女は深夜の森の中、大木の洞の中で息をひそめていた。
「お願い、はやくどっか行ってよ……」
神頼みでもするかのように、少女は目を瞑りそう呟き続ける。
その時、近くで足音がするのだった。
ドシドシと言う、人間の大人よりもさらに大きいものによる足音。
それを聞いた少女の顔がみるみる恐怖と絶望に染まって行く。
「ニンゲンノ オンナ、コノアタリニ イル。サガセ」
「サガセ! サガセ!」
足音の主はどうやら少女の事を探しているらしく、子分と思われる者たちを連れて辺りを捜索していた。
そんな中、少女はただ見つからないように祈ることしか出来なかった。
「おい、ホブゴブリンがいたぞ! 皆の物、武器を構えよ!」
少女が震えながら恐怖に耐えていたその時である。人間の声が辺りに響いたのだった。
その声を聞いた少女は心の底から安堵した。
それまでずっと恐怖に襲われ続けていたのだ。安心して気が抜けてしまうのも当然だった。
……しかし、彼女へと降りかかった災難はまだ終わってはいなかった。
その人間たちは騎士であり、ゴブリンとの戦いも最初の内は善戦していた。
訓練を積んでいる彼らにとってゴブリンなど脅威でも何でもないのだ。
だがホブゴブリンの登場により戦況は一変する。
「なんだコイツは!?」
「コ、コイツ……ただのホブゴブリンじゃないぞ!」
それまで圧倒していたはずの騎士はホブゴブリンによって次々に殺されていく。
普通ならばホブゴブリンに負けるはずの無い騎士たちではあるが、今回は……このホブゴブリンは何かが違った。
刃が通らない程の硬い皮膚に、鎧を装備した人間をたった一発でぐちゃぐちゃに潰せる程の腕力。
どういう訳か通常のホブゴブリンよりも遥かに強力であったのだ。
その場の誰もがその理由に気付けずにいた。しかし案外その答えは単純なものであった。
そのホブゴブリンは実際にはホブゴブリンでは無く、ゴブリンロードと言う上位種だったのである。
「いやだ、助けてくれ……うわぁ゛ぁ゛!?」
「こ、殺される……嫌だぁぁっ!!」
訓練を積んだ騎士であってもゴブリンロードには勝てず、次々と断末魔を上げながら殺されていく。
その声を、その姿を、少女は目と耳に焼き付けていく。
見ないようにしても、聞かないようにしても、その体は言う事を聞かず、情報を遮断することが出来なかった。
「全部、私のせい……」
自分がホブゴブリンくらい簡単に倒せるからと森にやって来たから……そんな軽率な行動が多くの騎士たちを殺した。
そう思った少女は罪悪感に苛まれ、ただでさえ弱っているその精神をさらにすり減らしていった。
その時である。
「カルノパンチ」
突如として現れた戦士……カルノライザーに変身した咲によって、ゴブリンロードの片腕が吹き飛ばされたのだった。
「グオォォォッ!? ナ、ナンナノダオマエハ!」
完全に意識外からの攻撃を受けたゴブリンロードは驚くと同時に目の前にいる謎の存在に向かって叫ぶ。
しかしそれを咲は無視し、間髪入れずにもう片方の腕も吹き飛ばしたのだった。
「グギャァァッ!?」
両腕を失ったゴブリンロードはあまりの痛みにもだえ苦しんでいた。
これでも死なないのは彼がとてつもない生命力を持っているためであるが、その結果余計に苦しみ続けることとなっている。
こうなってしまえばもはや彼に勝ち目など無い。それでもただ死を待つことを彼は選ばなかった。
両手を失ってもなお、ゴブリンロードは目の前にいる敵を討つべく攻撃に出る。
「もう……いいよ」
そんなゴブリンロードの首を咲は一撃で吹き飛ばす。
それは彼がこれ以上苦しまないようにするための、せめてもの慈悲であった。
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