番外編 星の子の気持ち
第10話 星の子の声
星の子が、彗星のお母さんの尾っぽから飛び出し、空の上でそれぞれが、それぞれに散らばっていく。
「あたし、あの小さな灯台がある所にするわ!」
「僕は、あっちのチカチカ光りが見えている場所へ行くよ!」
「わたし、この真下の光りの場所にいく!」
それぞれが気になる場所を叫ぶと、声を揃え「みんな、元気でね!」と、別れて飛び出した。
灯台の近くに見える仲間の光りによく似た集合体に近寄るにつれ、星の子は、あの光が仲間では無いことに気が付いた。
飛び出した時には、あんなにワクワクして楽しみだったのに、急に不安になった星の子は、警戒心や不安を表す青白い光りを放ち、スピードを緩めて集合体に近寄る。
「あなた達は、あたしと同じ仲間なの?」
集合体は、何も答えず好奇心を示す黄色い光りをパチパチと点滅させているだけ。
よく見れば、それは花であることが分かった。
「あたし、あなた達を知ってるわ。見るのは初めてだけど。お母さんやお兄さんお姉さん達から、地上の事、たくさん教えてもらったもの。あなた達『花』でしょ?」
語りかけても何も答えてくれない花に、「あたしの言葉、聞こえないのかな?」と、星の子は少し寂しくなり呟いた。しかし、寂しがってはいられない。星の子は、再び声を掛ける。
「だれか、他にいませんか?」
キョロキョロと辺りを見回すと、花達が放つ黄色の光りの奥に、ぼんやりと浮かんで見える何か。
それが、とても気になって近寄って行った。
「こんばんは……だれか、いますか?」
ひさご型の置物。まるで「入っておいで」と言わんばかりに、扉が開いている。
星の子は、そっと中へ入ると、星の子は「わぁ……」小さく声を上げる。
「ステキ……。ここは、『お家』という場所ね。こういう場所に、ニンゲンは暮らしているって。でも、だれも居ないのかな……?」
星の子は一階のリビングとキッチンを覗き、声を掛ける。誰もいないと分かると、二階へ、そして三階へ……。
「だれも居ない……」
こんなステキお家だ。きっと誰かいるはずだと思い、少しワクワクしてきた。そして、星の子がここで待ってみようとした、その時。
お家の外から、微かに声が聞こえて、そして、スッとした清涼感のある懐かしい香がした。
「お母さん……!」
彗星のお母さんと同じ香りに、星の子は急いで外へ出る。
しかし、空を見上げれば、彗星の尾っぽが長く長く見え、お母さんが地上に降りてきたのではないのだと、わかった。
なら、何故お母さんと同じ香りがしたのか。と、星の子はお家の周りをクルクルと探し、辺りを見回す。きっと、だれかが居るはずだ、と。
すると、お家から少し離れた場所に、四つのまぁるい光りが見て取れた。
いや、細い光りも二つある。
「あの……あたしの仲間?」
不安気にゆらゆらと近寄れば、大きな光りはパチパチと点滅した。
その反応に、星の子は、この光りは何かのイキモノの瞳だと気が付いた。よぉく見れば、真っ黒な毛並みのイキモノが三匹。
星の子は様子を伺ったが、じっと動かない三匹に、危険は無さそうだと感じた。そして。
まず、低い位置にある二つのまぁるい瞳の光りに近寄る。微かに、スッとした涼し気な香りがするが、お母さんの匂いとは違う。
次に、少し上にあがり、細い二つの瞳の光りに近寄る。低い位置のイキモノの匂いと同じ香りだ。そして、さらに上にあがり、近寄ると。
「お母さんの匂いがする……!!」
大好きなお母さんと同じ香りに、星の子は嬉しくなって、その香りがもっとする場所を探して、クルクルと香りを探していると、フワリと強く香った。
星の子は香りのする方へ近寄り、嬉しくなってお母さんにする様にキスをした。
「お母さんと同じ香り! きっと優しいイキモノね! ねぇ、あなたには、なまえがある? あたしと、お友達になってくれる?」
一生懸命に星の子は伝えるが、真っ黒な毛並みのイキモノは、光る瞳をパチパチさせるだけで、何も答えない。
「あなたにも、あたしの声は、聞こえないの?」
少し寂しさが過ぎようとし、星の子はそれを耐えた。すると、彗星のお母さんと同じ香りがするイキモノが「これは……どうしたらいいのか……」と、戸惑いの声を発した。
その言葉は、星の子にちゃんと正しく伝わっていた。
「お母さんに教わった言葉!」と、一瞬の寂しさが直ぐに消え去る。
それだけでワクワクして嬉しくなり、星の子はクルクルと周りながら三匹が見える位置に移動した。
「あした、今さっき、お空から来たの! ここに棲みたいと思うのだけど……」
星の子が三匹に懸命に話しかけると、彗星のお母さんと同じ香りがするイキモノが声を掛けてきた。
「ようこそ、我らの町へ。あのひょうたんの家は、君のための家だ。もし良ければ、この町で一緒に暮らさないかい?」
ゆっくりと優しく語りかけるその申し出に、星の子は酷く驚いた。
「あの、可愛いお家、あたしのお家にしていいの!?」
星の子は、余りにも嬉しくなって、クルクルと周りながら星の結晶を振り撒いた。喜びの感情が溢れると、こうして感情が結晶化するのだ。
「そうだ! お兄さんにお気に入りの場所が見つかったら、印を残すように言われていたんだわ!」
星の子は、自分に与えられた可愛いお家のリビングに、印を残した。
「あたしのお家……ステキ!!」
喜びのあまり、何度も外へ出て、中へ入るを繰り返した。
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