第8話 星の子の名前
クレバーの一言で、【星の子】の動きがピタリと止まった。
すると、桃色の光りを放ち、クレバーに胸に向かって飛び込んだのだ。
「え……? 教授?」
「ルルって? カタス、ルルって、その子の名前なの?」
セーレンの質問に首を横に振ると、何も知らない二匹は、パチクリとクレバーを見つめた。
クレバーは困った様に微笑むと「実は……」とゆっくり話し始めた。
「君たちが帰った後、一度、この子が起きたんだ。とても不安そうに光りが震えていて、私はこの子が落ち着く様にローズマリーティーを用意したり、話し掛けたりしたんだよ。その時に、今後、一緒に暮らしていくのなら、『キミ』と呼ぶより、名前があった方が良いと思ってね。君たちに相談せず、決めてしまったのは申し訳なかったが……。私が名前の候補としてノートに幾つか書いていたら、この子自身がその中から名前を決めたんだ」
そう言って、クレバーは自分が名前候補を書いたノートを二匹に見せた。そこには、名前と名前の意味が書かれていた。
『ルチオ……光り。
フェイ……妖精。
エルモ……愛すべき。
ロッティ……自由なもの。
ルル……大切な。かわいい。
プティ……小さい。かわいい。』
「これは、他所の国から来たという猫達がまとめた【海の向こうの猫語辞典】の中から選んでみたんだ。私がこれを書いて、君たちと一緒に選ぼうと思っていたら、この子が……ルルが自分で選んだんだよ。ほら、ここだけ光っているだろ?」
二匹は、クレバーが指差す名前を見ようと、頭を寄せ合ってノートを覗き込む。よく見ると、『ルル』と書かれた名前が光っている事が分かった。
「それで『ルル』と名前を呼んだら、どうも本当に気に入られてしまったようでね。私の姿が見えないと、すごいスピードで飛び回るんだ」
その言葉に、カタスは「なるほど」と思った。
「だから、寝ていなかったんですね。ルルがいつ起きるかわからないから」
カタスに言われ、クレバーは困った顔で頷いた。
「まぁ、そうなんだ」
「これはまた、ずいぶんと甘えたな【星の子】ですね」
セーレンが笑いながら言うと、言葉が分かったのか、【星の子】ルルは、真っ赤な光りを放ち、セーレンの前で激しく動き回る。
「どうやら、セーレンくんの言葉に抗議をしている様だ」と、クレバーが笑った。
「えぇ!? ごめん、ごめん。甘えたじゃないよね、知らない土地にきて、寂しいだけだよな? あれ? 寂しがり屋だって、甘えたと同じ意味か? あれ?」
「あははは! ルル! 大丈夫。もう寂しくないよ。これからは、僕達が一緒だ! 僕の名前はカタス。よろしくね、ルル」
カタスが挨拶すると、【星の子】ルルは、黄色の光りを点滅させた。
「猫見知りのカタスが、自分から挨拶した!」
「ほら、セーレンも挨拶しなきゃ。仲良くなれないよ?」
カタスに促されてセーレンも挨拶をしたが、どうもルルからは、そっぽを向かれてしまった。
「これは、これは。ご機嫌よくしてもらうためには、オレ、今後ますますルルが気にいる場所作りを頑張んないとなぁ。あ、ルル。言っとくけどなぁ、お前のお家を作ったのはオレだからな?」
【星の子】ルルは、それとこれは別だ言わんばかりに、ひょうたんの家に飛んでは桃色の光りを放ち、セーレンの鼻先に行っては赤い光りを放った。
「ずいぶんと感情豊かな【星の子】ですね」
カタスがそっとクレバーに耳打ちすれば、クレバーも、ふふと笑って頷いた。
「これから賑やかになるな」
「そうですね。ますます楽しくなりそうです!」
「ああ。さて! ルルに光の提供をしてもらうために、交渉するとしようか!」
「はい!」
今夜も。
人間が寝静まった町では、猫達が服を着て、二足歩行で歩き、仕事をする。
これは、人間の知らない、猫達と星達の秘密の物語。
おわり
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