第6話 お招き大作戦
他の星とは違い、ゆらゆらと揺れるように、ゆっくり降り立つ小さな光りが一つ。
青白い光りは、ゆっくり点滅するように光る。
三匹は息を殺して身を寄せ合い、じっと光の動きを観察していた。
青白い光りは、最初、待宵草の花の上をフワフワと点滅しながら移動していたが、ふと、その動きが一箇所に止まった。
「どうしたんだろ?」
小声でセーレンが言うと、その口を慌ててカタスが塞ぐ。セーレンがチラッとカタスを見たが、カタスから『めっ!』と言わんばかりに睨み付けられ、肩をすくめた。
すると、青白い光りがひょうたんの家にゆっくりと移動しだしたのだ。
三匹は、固唾を飲んでその様子を伺った。
青白い光が、点滅しながらひょうたんの家にゆっくりと入ると……。
「家に入った!」
今度はカタスが声を上げて、クレバーが慌てて口を塞いだ。カタスは、申し訳なさそうに耳をペタンと横にして、クレバーを見上げると、クレバーはひょうたんの家から視線を逸らさず真剣に見つめていた。
カタスもセーレンも、ひょうたんの家に視線を戻し【星の子】の様子を観察した。
ひょうたんの家の小窓から漏れる青白い光は、一階から二階へ、二階から三階へと動いていく。まるで、一部屋一部屋、じっくり内覧するように。
しばらくすると、光りの色が青白い光りから黄色の光りに変わった。その光りは、青白い光りよりも強く、けれど柔らかい。
「光りの色が変わった……」
クレバーが微かに呟くと、光りの動きがピタリと止まった。
クレバーは自分が声を出していた事に気が付き、心の中で「しまった!」と思ったが、もう遅い。
【星の子】が逃げてしまったら、どうするか。そんな事を頭の中で忙しなく考えていると、光りがひょうたんの家からゆっくりと出て来た。
ふよふよと何かを探すような動きに、三匹は身動き一つせず、じっと固まった。
何かを警戒しているのか、光りの色が再び青白い光りに変わり、ひょうたんの家の周りをクルクルと周りだし、再び動きが止まった。
三匹は緊張しつつ、心の中で【星の子】が何処かへ行ってしまわない事を強く願っていると、青白い光りが、ゆらゆら揺れながら、三匹のいる方へと近寄って来たではないか。
セーレンの口を塞ぐカタスの手に力が入り、カタスの口を塞ぐクレバーの手に力が入る。セーレンはカタスの手に自分の両手を当て、身を固めている。
「……」
「……」
「……!」
青白い光は、三匹の前で止まると、まるで三匹を観察するように、ゆっくり上下左右に動き出した。そして、セーレンの目の前へやって来て、鼻先を左右に動く。青白く点滅する光りが、徐々に白が多くなっていく。次に、カタスの鼻先へ。そして、最後にクレバーの鼻先へ。
すると、【星の子】の光りが、急に柔らかな淡い桃色に変化をし、クレバーの周りをクルクル回し出した。そして、鼻先の前でピタリと止まった。
セーレンはクリンとしたオッドアイを益々大きくさせ、カタスは細い目が僅かに開いて。
クレバーは余りに驚き過ぎて、ほんの少し口を開いてしまった。まだ、先程飲んでいたローズマリーティーの香りが、ほのかに口元に漂う。
その瞬間、【星の子】がクレバーの口元にキスをする様に近寄って、ゆっくり離れた。【星の子】の光りは、桃色が少し強くなっている。
そして、クレバーに頬擦りしているかのように、光りがクレバーの頬を上下に動いた。
少しひんやりとした感覚が頬に伝わるが、クレバーは身動きせずに、大きな瞳だけを動かしていた。
いつの間にか、カタスがセーレンの口から手を離したのか、セーレンが掠れる声で「教授、気に入られたみたいですね」と囁いた。
その声に、カタスがコクコクと小さく頷く。
と、クレバーはカタスからゆっくり手を離し、【星の子】を刺激しない様に、硬直していた身体を、そろりそろりと動かした。
【星の子】は、クレバーの周りをクルクル周り、時々顔の前に来ては頬擦りをする行動を見せている。
三匹は、しばらく黙ったまま【星の子】の動きを観察していたが、【星の子】はクレバーから離れようとはしなかった。
「これは……どうしたらいいのか……」
ついに声を出したクレバーに、【星の子】はその身を黄色の光りに変えて、クルクルと三匹が見える位置に移動した。
クレバーは【星の子】を驚かせないように、極力小さな声で語りかける。
「ようこそ、我らの町へ。あのひょうたんの家は、君のための家だ。もし良ければ、この町で一緒に暮らさないかい?」
猫語が通じるのか分からなかったが、クレバーはゆっくり、言い聞かせる様に言った。その言葉が、はたまた気持ちが伝わったのか、【星の子】はクルクル周りながら、ひょうたんの家へ向かうと、家に出入りしては、ひょうたんの家の周りをクルクル周り、そして……。
「家に、マーキングした……」
カタスが呟く。
【星の子】は、ひょうたんの家の外へ飛び出して飛んでいるのに、ひょうたんの家に、金色の光りが灯ったのだ。
その灯りは、何とも暖かな光り。明かるすぎず、かといって、暗すぎない。クレバー達が求めていた明るさの光りだった。
「やった……! お招き作戦成功だ!」
セーレンが喜びのあまり、両腕を高く持ち上げようとしたのを、カタスが慌てて後ろから羽交締めをして止めたが、【星の子】は気にする様子もなく、ひょうたんの家と三匹の周りを行ったり来たりし、踊る様にキラキラと移動した。移動するたびに、何かが溢れ落ちるのに気が付いたセーレンは、ゆっくり身を屈め、それを摘む。
「教授、カタス。すごいよ。【星の子】が喜ぶと、星砂糖が降ってくる」
セーレンの指先に摘まれた、小さな星。
それは、猫達が大好物の星砂糖、そのものであった。
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