第3話 星を育てる?
「ふふ。そうなんです。さっき話した旅猫からの情報なんですが。とにかく、すごい情報で」
セーレンはそう前置きをすると、肩に掛けていたサコッシュから何やら取り出して、テーブルの上に置いた。
それは、20センチ程の大きさの、ひさご形の果実。
「ひょうたん?」
テーブルに置かれた物をみて、クレバーが首を傾げた。
「はい。ひょうたんです」
「これが、どうしたっていうのさ?」
カタスが不思議そうにひょうたんとセーレンの顔を交互に見ながら訊ねる。
「実はオレ、旅猫にオレ達が自然光を集めてランタンに明かりを灯したいと思っている話をしたんです。そして、今、星の光りを集めようとしていると」
「うん。それと、ひょうたんが、どう関係するのさ?」
「もぉ。カタスは急かし過ぎだよ。順番にちゃんと話すって」
「カタスくん、まずはセーレンくんの話を聞こうじゃないか」
クレバーが優しくいうと、カタスは小さく口を尖らせて「はい」と言い、椅子に座った。
クレバーとセーレンも同じように椅子に座ると、セーレンは話を始めた。
「旅猫の話によれば、タネガシマっていう土地では、既に星の光りを利用して生活をしているというんです」
「おお、なんと! 既にそんな技術を持っている猫達がいるのか!」
いつも冷静で穏やかなクレバーが、興奮し、大きな瞳を益々大きく見開き、瞳を輝かせた。
「はい。旅猫の話によれば、そのタネガシマという土地には、『うちゅーセンター』という施設があるそうなんです。そこに棲む土地猫が教えてくれたそうで。その『うちゅーセンター』ってところは、人間が星の観察をするための施設だそうで、土地猫達は、その人間の知恵を借りてヒントを得たんだとか。なんでも、人間達も星の光りを生活に利用しようとしていた様ですが、上手いこと行かないと話していたそうです。それを聞いてた猫が、色々調べ試した結果、我々猫族であれば可能かも知れないと考え、実行したら成功したそうなんです」
驚きを隠せないクレバーとカタスを他所に、セーレンは先を話し続けた。
「彼らは、星の光りそのものを集めるのでは無く、星を育てているのだと言っていました」
「育てているだって!? あの、夜空に輝く星を!?」
唖然とし、ぽっかり口を開けた二匹を見て、セーレンは「ええ、星をです」と笑いを堪えながら言った。
「オレも最初、びっくりしました。けど、納得したんです。彼らは星の光ではなく、【星の子】を育てていたんです」
セーレンの聞き慣れない言葉に、クレバーとカタスは同時に「星の子?」と声を揃えた。
「流星群は、元々は彗星の子供達なんだそうです。それを【星の子】と呼ぶそうです。ただ、【星の子】らにも集団より一匹でいたい子供も居るそうで。その子供達は、彗星の尾っぽに捕まって、自分で暮らしたいと思った土地を探して、見つかったら降り立つ。という感じだそうなんです」
「ふむ。なるほど? それから?」
クレバーが相槌をうつと、セーレンは一つ頷き、話を続ける。
「それで【星の子】は気に入った土地に降り立つと、棲家を探すそうなんです」
「【星の子】が棲みつくと、どうなるんだい?」
話の続きを待ちきれなくなったカタスは、先が気になって、ソワソワしながらセーレンに訊ねた。
「昼は寝ているけど、毎夜、地上で輝くそうだよ」
「それは、どのくらいの光だろうか?」
「若い星だから、かなり明るいそうだ」
二匹は、なるほどと唸り、暫し黙った。驚きと戸惑い、そして期待で頭の中が忙しなく動いているのだろう。テーブルの一点を見つめ考え事をして黙っていたクレバーは、考えが纏まったのか、ふと顔を上げた。
「だが、一匹捕まえたところで、ランタンは幾つもある。そのタネガシマの猫達は、一体何匹の【星の子】を育てているんだい?」
その質問に、セーレンはフフフと笑った。
「オレも気になって聞いたら、たった一匹だというんです」
「「一匹だって!?」」
今日は一体、何度、二匹が声を揃え驚いただろうと思いながら、セーレンはクスクス笑った。
「そうなんです。なんでも【星の子】は、マーキングをするそうなんです」
「マーキング? 僕たちみたいに、縄張り意識があるって事かい?」
「うん。でも、オレ達猫族とは、ちょっと違う様な気もするなぁ」
「どういうこと?」
セーレンの言葉に、身を乗り出したカタスは、首を傾げ次の言葉を待つ。
「オレ達も、気に入った場所にマーキングするわけだけど、範囲は決まっているだろ? 【星の子】には、範囲がない様なんだ。そして、マーキングすると、その部分が光んだって。その光は夕暮れ時から夜明け前まで光って、朝焼けと同時に消えるんだって。一度マーキングした場所は、まん丸月から真っ暗月に変わるまでの期間は光が消えない。真っ暗月にマーキングさせると、今度はまん丸月に消えるから、またマーキングさせて、光を保っているんだって」
「それは素晴らしい!」
ついに立ち上がってしまったクレバーに、カタスは驚いた表情で見上げる。
いつも冷静なクレバーが、こんなに興奮した様子を見せるのは、カタスとクレバーが出会ってからの記憶を辿っても、一度もない。
「セーレンくん、【星の子】の捕え方は聞いているかい?」
普段よりも大きな声で、ハキハキと訊ねるクレバーに、セーレンも珍しいモノを見たと、オッドアイをパチクリさせる。しかし、すぐに気を取り直し「ええ、もちろんですよ!」と頷いた。
「【星の子】を捕えるのは、そう難しそうでも無かったんですが、【星の子】をその場に居着かせるには、難しそうというか、注意が必要なんだそうです」
「注意? それは、どんな注意だい?」
クレバーが興味津々で両の手をテーブルにつき、身を乗り出す。その長い尻尾が、期待でゆらゆら揺れている。
「常に【星の子】をご機嫌にさせておくこと」
「「ご機嫌に?」」
二匹は再び声を揃えた。
「そう。ご機嫌に。その一つに、このひょうたんが必要になるんだ」
そう言うと、セーレンはひょうたんを指さした。
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