02 ︎︎4f爆破
学校設備の紹介、自己紹介、教科書販売等を済ませると容易く時刻は十二時を回る、シオンにとっては学校生活において人生最初の昼休みでもあった。
エスカレータ式に進学した内部生はともかく外部生にとっては、人間関係がフラットな状態で繋がりを確立出来るただ唯一の時間帯である。
「神代さん!もしよかったら一緒に部活動選ばない?」
「わ、私も一緒でいい!?」
「わたしも~わたしも~!」
「ん、別にいいよぉ」
「マッシーナさん、もしよければ学校案内しましょうか?」
「待て!先に食堂にいくべきだろ」
「ちょっと!?男共は引っ込んでてよっ!」
「……わかった」
「明日の放課後、親睦会やるらしいんだけど千野さんもどう?」
「俺達行こうと思ってるんだけどさ、千野さんも何人か女子誘ってさ、ね!」
「千野さんとも仲良くなりたいし、丁度良くない?」
「良いですね、具体的な予定を教えてくれませんか?」
いかにフラットと言えど、外部生内部生問わず多くの人間からアピール受ける人間は数少ないが存在する。1-Aでは神代、マッシーナ、千野の三人がそれに数えられる。
大波に攫われるようにクラスを後にする三人を含めた団体を除くと、クラスに残るのは一人を好む生徒か、繋がりを作る意志が無い小さなコミュニティくらいに絞られる。
「よし、このあたりで」
シオンはようやく席を立った。
狙い目はクラスでも比較的静かなコミュニティで出来れば男が多い方が好ましい。趣味が合うような人達であれば猶更良いと言った所だろうか。
始めから大きなコミュニティに属するのは、ヒエラルキー構築の出汁にされかねない。事実、先程の大波に攫われた生徒の中にはこれから被害を被る生徒が多い。
そう言った事態を避ける為の”あえて”の選択だ。
決して臆した訳でも、心配が勝った訳でもない。
「
「
「.........な、何か用でも?」
窓側の前方にて机を対面にして座っていた男子生徒二人。
シオンは堂々とした態度で二人に話しかけた。
坊主頭の側面にラインを二本刈り上げて入れているのが乾。
黒縁の眼鏡にくせっ毛を伸ばしっぱにしているのが塩竿。
自己紹介で喋っていた名字で呼んでみるとしっかり振り返って反応が返ってくる。想定より掴みは微妙だろうか、だが焦ることは無い。
彼等の手元に映るスマホゲームとこれで完璧入学会話テンプレートがあればこの程度余裕でひっくり返せる、シオンはそう自信ありげに言葉を繰り出した。
「それって『ソール&ルナ』だよね?」
「お?楠君もやってるのか?」
「......」
「フレコ教えてくれれば、即参加出来るよ」
「おけ、じゃ、ここ座りな」
「よ、よろ…しく」
「ありがとう、二人共」
『ソール&ルナ』
課金要素はキャラクタースキンや武器スキンしか無く、運営が競技用に調整しているのもあってキャラや武器バランス、逆転要素が上手く噛み合うように設計されている。ファンネルでも旧式のゲームを好む人達も数多くいるが、ソール&ルナは中でも特段人気のゲームだった。
日本国では定番のゲームと聞いてから、戯れに触っていたのが吉と出て内心喜ぶ。
フレコを交換してすぐフレンド申請が届き、OKの文字をタップする。
相当課金しているのかカッコイイスキンに身を包んだキャラクターが二人ロビーに現れる、初期スキンのシオンが哀れに見えた。
「何戦かやった後、昼にしよう」
「さんせー」
「う、うん」
乾の言葉を皮切りに戦闘開始ボタンが押された。
シオン達は人間陣営に属している、シオンの使用キャラクターは『リップス』
特質した身体能力は無いが【能力】としては『与えた、与えられたダメージを治癒する行為を無効化』という強力な特殊能力を持っている。また使用可能武器が近接武器しかないため、必然的にキャラコンや卓越した視野と立ち回りを求められる玄人向けのキャラだ。
「――あっやば、タゲられた」
「逃げれそ?」
「わんちゃんーー......無かったごめん」
「わかった、あとは任せて」
最後乾のジェイスルが倒されて戦場に残る人間陣営はシオンだけとなった、しかも相手はフルメンバーというほぼ詰みの状態。
相手の構築はかなり考え抜かれて作られており隙がない、言わゆるガチで勝ちに来ている編成だった。
「んークラン周回に巻き込まれるとはなー」
「名前、みたこと……ある…かも」
全員通話のフルパはさぞ楽しいだろうが野良が混じったパーティにとっては反則である。いくら三人で喋っていても、ガチガチの構成で勝ちに来ているフルパには勝てない。
乾と塩竿は、次使うキャラクターや最近のアップデートのパッチノート内容について喋っており、この試合は放棄、既に興味を失っていた。
「じゃ、こっから勝とう」
「ん?もっかい言ってくれるかい?」
「え、むり……だよ」
このゲームの競技性の高さはキャラの当たり判定にも反映されている。
リップスの場合、後方ジャンプ攻撃の僅か数フレームだけ身体の当たり判定が物凄く細くなる。回復も出来ない打撃無敵も飛び道具無敵も無いリップスはこの避け行動を多用するしかアイテムを除いて延命の方法が無い。
「は、えっまじ?」
「ぇ、ぇぇっ」
日本国はファンネルと比べ回線環境は特段に悪い、常に上部に表示されているPING値を横目にタイミングを調整する事で、避け攻撃を的確に当て続けていた。
「嘘、だろ?」
「.......ぅぇ」
敵陣営を全滅させた事で勝利条件を満たし、月陣営が勝利した。
デカデカと画面を覆うWINの文字が、これと無い満足感をもたらせる。
「 WIN......じゃないだろ?!」
「ややややややっやや」
シオンはややや星人になった塩竿の肩をポンポンと叩き、くしゃっと笑ってみせる。
不自然に伸びた前髪から、母譲りの端正な顔立ちをチラリと覗かせた。
乾と塩竿に当てられて横目で様子を見ていた女子生徒が色めきだつ程には魅惑的な笑顔を見せた。
「ま、こんなもんだよ」
「楠......いやシオン!お前すげぇよマジで」
「え、あ……」
「目押しは神経使うから疲れるけど、勝ててよかった」
「「???」」
乾と塩竿の頭に宇宙が広がった。
「じゃあ、先に昼食べよう」
「賛成ー」
「……」
ゲームと昼飯を経てすっかり仲良くなった彼等はその日の帰り道まで一緒に軽口を言い合える仲になるまで成長する。
帰宅後、二人が運営するクラン『ドックリール』への加入申請が届く。
感極まってしまい思わずはしゃぎ過ぎて同居人に怒られたシオンだったが、青春の二文字に手をかけたのだと、その日は満足して一日を終えることが出来た。
翌朝、シオンは目覚めてすぐ枕元にあったスマートフォンを手に取り、画面を開いた。
『アナタのアカウントは凍結されました』
『私達はソール&ルナ公平で楽しく安全である事が何よりも大切だと考えます。
この度、アナタのアカウントがソール&ルナ利用規約及びガイドラインに反していることが確認されたためゲームマスターの審判によって永久凍結処分となりました。
尚所属クランにも同様に三ヶ月のクラン戦出場停止処分、クランマネー1000万ゴールドの剥奪、クランマスター、サブマスター共に一ヶ月のアカウント停止処分を課します』
『ご理解御協力の程お願い致します』
スマートフォンは宙を舞った。
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