第136話 キナーエのこと




 10月のある日。


 今日も私は午後の時間を、ハイネリスの最高管制室こと自室でカメキチと過ごしていた。


 部屋には、すでに自作PCを設置済み。

 なんとカメキチのおかげで、ハイネリスでは電気も普通に使える。

 大帝国の技術、恐るべし。


 PC+ネット。

 =永遠。


 もはや他にほしいものもなく、というわけで、すっかり完全に、ハイネリスの最高管制室は私の居場所と化したのでした。


 ちなみにPCは、合計で50万円以上をかけた超ハイスペック。

 最新の高負荷ゲームもグリグリ動くのです。

 もっとも私がやるのは、それなりのスペックで十分に動く、いつものオンラインMMORPGだけなのですけれども。


 お金もあるし、何か新しいゲームをやろうかなぁ。

 とは思うのだけど、いざ探してみると、「これは!」というものがなくて、結局、いつもMMORPGで遊んでしまうのでした。


 ただ、今日はなんとなく、ゲームをやる気分ではなかった。


「ねえ、カメキチ。何か面白いことはないかなー」


 ソファーに寝転んで私はあくび混じりに言った。


「でしたら、会社名を考えては? 皆、待っていると思いますよ。最初に聞かれてから、それなりに日時が過ぎていますし」

「あー。うん。そだねー」


 んー。


 私はあらためて、もう何度目かだけど、いい名前がないかを考えてみた。


 だけど、ないものはない。


「ないなー」

「ナイナー・カンパニーですか、よい語感ですね」

「あ、うん。そだねー」


 ナイナーか、いいかも知れないね。

 とは思ったけど、もう少し異世界っぽいものの方がいいだろう。


「ねえ、他にすることはないかな?」

「でしたらキナーエの管理を始められては? せっかく領有したのですし」

「具体的には?」

「現在のキナーエは多くの危険な魔物が徘徊しており、一般人の入植は不可能です。魔物を整理するのはいかがでしょうか」

「殺しちゃうってこと?」

「キナーエで生きていると呼べる魔物は、ドラゴンやワイバーンの竜種だけです。あとの魔物は魔素溜まりより発生した、ただの幻体です。倒せば魔石になって消えます。ダンジョンの魔物と同じですね。殺すと言えば殺すですが、彼らに命の営みはありません」

「だから、整理ってこと?」

「はい。そうです。整理した後で、魔素の流れを魔物の発生しないように整えれば、そこは入植可能な土地となります」

「なるほどー。でも、入植かぁ」


 入植ということは、外からヒトを受け入れて、土地をあげるなり貸すなりして、そこで暮らしてもらうということだよね。

 それって、どうなんだろうか。


「正直、このキナーエには、ヒトも魔族も入れるつもりはないからなぁ」


 面倒なのはゴメンだしね。

 中立地帯にしておいた方が、確実にいろいろと楽だ。


 ウルミアたち竜人族については、もともと浮遊島にいたわけだし、派手なことをしなければ今まで通りでいいよと言ってあるけど。

 ウルミアは友達だしね。

 友達であれば、私は融通を効かせるのです。

 政治よりも友情。

 それは当然です。



 私はいろいろ考えつつ――。



 ふと、水都メーゼの外で暮らす人たちのことを思い出した。

 粗末な家に住み、厳しい暮らしを続ける難民の人たちのことだ。

 私の友達の1人、取り逃げの子――。

 シータが、そこで暮らしていると言っていた。


 シータについては、ダンジョンで取り逃げが見つかって――。

 捕まって――。

 逃げて――。

 町の外にすら住めなくなって――。

 今は、どこで何をしてるのか――。

 一斉討伐の時、私とジルを逃がしてくれて、それきりになっているけど。


 まあ、うん。


 シータのことだから、きっと元気だろうけど。


 なにしろタフな子だしねっ!


 ただ、シータみたいな子が、平和に暮らせる場所を用意できるのなら……。

 それは素晴らしいことだと思う。

 私はシータには、穏やかに楽しく暮らしてほしいし。

 それこそ私みたいに。


「よし」


 私は決めた。


「カメキチ、サポートをお願い。キナーエの整理、することに決めたよ」

「はい、マスター。ついに新しい国造りの第一歩が始まるのですね。このカメキチ、全力で補佐させていただきます」

「ありがとう。でも、大げさだなー」


 国造りとか、そこまでのものではないけどね。

 本当に。


 私はただ、今度、シータと再会した時、言ってあげたいのだ。


 いい場所があるけど、来てみる?


 って。


 シータはどんな顔をするのだろう。

 喜んでくれるのだろうか。


 考えると、楽しくなった。


 そう。


 私は以前、オトモダチがいなくなっちゃったかも……。

 なんて嘆いたこともあったけど……。

 考えてみれば、ウルミアやフレインやリアナだけではなくて、シータもいた。


 シータは、私が魔族だろうがなんだろうが……。

 そんなことはどうでもいいと、ハッキリと言ってくれた、ただ1人の子だ。


 まあ、うん。


 シータは、取り逃げの子なんだけどね……。

 私も高価な魔石を取り逃げされたけど……。


 でも、うん。


 友達だ。


 だからシータのためにも、ちょっと頑張ってみよう。

 もっともシータには、余計なお世話だって、言われそうな気もするけど。

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