第135話 バレたぁぁぁぁ!




 バレた。バレました。


 私、羽崎彼方、ファーになってからすでに半年くらい。

 今まで上手くやってきたのに――。

 自分でもびっくりするほどあっさりと、簡単に、なんでもない日常の中で、ヒロに正体を看破されてしまいました。


 ヒロはニコニコと笑って、同じソファーで、私のとなりに座っています。


 どうしよう。


 真っ先に考えるのは記憶消去だけど――。

 それはやめておこう。

 いくらなんでも、妹にそういうことをするのは抵抗がある。


 ならば……。


 うん。


 そもそもヒロはもう、異世界にも行っているしね。

 リアナたちの時にはお世話をお願いしちゃったし。


 さすがに勘付かれていたのだろう。

 ヒロはかしこいしね。


 というわけで、あきらめることにしました。


「あはは。実は、そういうわけで。ファーは私だったの。ごめんね」


 私はファーの姿に戻った。


「それはいいけどさ」


 ヒロは怒ることもなく、あっさりと認めてくれた。


「……いいんだ?」

「でも、ファーさんとお姉ちゃんと、どちらが本当の貴女なの?」

「それはカナタかな。私は私だよ」

「なら、ファーさんは変身した姿ってこと? お姉ちゃん、まさか、魔法少女とかそういう存在になっていたの?」


 どこまで言うべきか。

 それについては、さすがにかなり迷った。

 最初はさすがにごまかそかと思ったけど、ヒロにじーっと見つめられて、それなりに本当のことを言うことにした。


「実は、あれは半年くらい前かな……。72時間耐久配信をやって、寝落ちしたことがあったんだけど……」

「うん。あったね。私も覚えてるよ」

「そうなんだ? もしかして見ててくれたの?」

「続けて」

「あ、はい。でね、寝落ちした中で夢を見て、神様にガワをあげるって言われたの。それでもらいますって言ったら本当に姿が変わって。しかも、そのガワは、かつての異世界の大魔王でね――。チートな力を持っていて、今に至るの」

「すごい話だね」

「でしょ。自分で言っていても信じられないけど、そういうことなんだよ」

「そっか。ありがとう、話してくれて」

「信じてくれるんだ?」

「それは信じるわよ。だって私、異世界にまで行ったのよ? ファーさんの、お姉ちゃんのすごいところもたくさん見てきたし」

「ありがとう」

「どうしてお姉ちゃんが感謝なんてするのよ」

「いや、うん。信じてくれたからさ」

「そっか」


 なんとなく打ち解けて、あはは、と笑い合った。

 その後で、ヒロにはため息をつかれたけど。


「でも私、死ぬほど今、恥ずかしいんだけど」

「……どうして?」

「だって、私、お姉ちゃんに――」

「あー」


 私が察すると、ヒロの顔がみるみる赤くなった。

 そうだね。

 ヒロはお姉ちゃんの大ファンだったね。

 正確にはファーの方だけど。


「まあ、いいけど……。ねえ、お姉ちゃん、私、また異世界に行ったり、異世界の人たちと仲良くしたいんだけど……。私も仲間に入れてもらえないかな?」

「もちろんいいよー。そもそも今度、異世界のパーティーに招待するつもりだったし」

「パーティーなんてあるんだ?」

「私が主催でねー」

「お姉ちゃんがパーティーなんてやるんだ!?」

「あはは。だよねー。でも、思い切ってやることにしたんだー」


 オトモダチを作るのです。


「すごいね」

「まあ、もらったガワが伝説の大魔王だったからねー」


 チートなので。


「パーティーは、もちろん参加させてもらう! ありがとう! 嬉しい!」

「どういたしましてー」

「あ、でも……。クルミはどうしようか?」

「クルミちゃんもいいよ。でも、ごめん、私の正体は黙っておいてもらえるかな。さすがにこれ以上広めるのは避けたい」

「それについてはもちろん約束するよ。あと、私もお姉ちゃんのことは、これからはお姉様って呼んだ方がいい?」

「え。それはやめて」


 さすがにヒロから呼ばれるのは恥ずかしすぎる。


「そっか。わかった。石木さんたちに合わせた方がいいかなとも思ったけど。あと、パラディンさんたちはパーティーに誘うの?」

「SNSのグループに入っている人たちは、みんな、誘う予定」

「よかった。それなら普通にお話できるね」

「だね」

「でも、そっか……。眼の前にいるのは、本当にお姉ちゃんなんだね……」


 ヒロが私のことをまじまじと見つめる。


「正体を知ったからには、いろいろ協力してくれると嬉しいなー」


 私はおどけて言ってみた。


「うん。なんでも言って。なんでもする」


 ん?

 今なんでもするって言ったよね?


 と、思わず言いかけたけど、ちゃんと我慢できた私は偉い子です。


 なにしろヒロは真顔だったので。


 ともかくこうして――。


 ヒロとは、本当に仲良くなることができたのでした。


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