第131話 遊びの子






 というわけで。


 豪華な艦内を歩いて大いに感動してもらった後、イキシオイレスとアンタンタラスには別室で難しい話をしてもらって――。


 私はオトモダチのみんなと共に自室に入った。

 私、ウルミア、ジル、フレイン。

 ふわふわのラグが敷かれた床の上に、4人で輪を描いて座る。


 遊びの時間なので、スキル「平常心」は外す。


「それで、何をするのかしら? 楽しみねっ!」

「カニカニ」

「なのお」


 3人が期待のこもった目で私を見つめる。

 私は今更ながらに困った。

 何をすればいいのか。

 とりあえず遊ぼうとは思ったけど、その先を考えていない自分に気づいたのです。

 真っ先に思いつくのはゲームで対戦することだけど……。

 ここにゲーム機はない。

 日本の自宅にはあるけど、人数分のゲームパットと対戦ゲームがない。

 私は、うん。

 1人でしか遊んだことはないしね……。


 あ、そうだ。


 私はいいことを思いついた!


「3人は、普段はどんなことをして遊んでいるの?」


 そう!

 聞いてみよう!


「そうねえ……。ジルと一緒の時には、作戦会議をしたり、戦果の報告をしたり、あとは模擬戦をすることもあるかしら」

「なのお」

「カニカニ」

「それって、遊びなんだ?」

「違うの?」


 キョトンとた顔で、逆にウルミアに聞かれてしまった。


「なら、1人で暇な時には何をしているの?」


 私は質問を変えてみた。


「ぼんやりしているのお」

「お昼寝ね」

「カニカニ」

「フレインもお昼寝ってこと?」

「はい」


 ふむう。


 少なくとも魔王は、キャッキャウフフと遊んだりはしないのか。

 それはそうか。

 なにしろ、王様なんだしね。


 しかし、遊びと戦争が一緒になっているのは悲しい。

 よし。

 ここはひとつ、お姉さんが教えてあげるか。

 本当の遊びというものを。

 なにしろ私には、経験はなくても知識はあるのだからっ!


 最初に私が遊んだのは、「あっちむいてホイ!」

 ルールは簡単。

 そして、道具なしで遊べる。


 まさにうってつけなのです。


 というわけで、まずはルールを理解してもらって、それから始めたのですが――。


 あっちむいてホイ!

 あっちむいてホイ!

 あっちむいてホイ!

 ホイホイホイホイホイホイ!


 超高速!


 突風と突風のぶつかり合う真剣勝負となってしまったのでした!

 魔王とその側近、恐るべし!

 遊びのはずなのに、遊びの枠には収まりませんでした!


 なんかもう集中しすぎて、5分くらいで疲れました。


「これは、たいしたトレーニングなのお……。動体視力と体の動きが、限界まで接続していくのを感じたのお……」

「そうね、そうね……」

「カニ……。カニ……」


 うむ。これは違う。

 私の言う遊びとは、もっとこう、ふわふわふとしたものなのだ。


 では、どうするか……。


 よし!


「次は、おままごと、家族ごっこをしようかっ!」

「それって、どういうのなの?」

「えっとね、それぞれ、お父さんとお母さんと娘になって、家族になりきって遊ぶの」

「わかったわ! それならファー様がお父さまで、フレインがお母さまで、私とジルは娘ね!」

「わかったのお」

「母、りょ」


 役割はあっさり決まった。


 さあ、じゃあ、朝の挨拶から始めてみようかー!


「「「おはようございます、偉大なる支配者、我らが王よ」」」


 一斉にかしずかれたぁぁぁぁぁ!

 ちがーう!


 私がやりたかったのは、もっとアットホームな……。

 サ◯エさんとかド◯えもんみたいな昭和の家庭だったのおー!


 と叫んだところで通じるはずもなく。

 よく考えてみれば、私だって、よく知っていない。


 家族ごっこはやめました。


「次はっ! えっと、次はね……」


「ねえ、ファー様。私、ファー様とおしゃべりがしたいわ。向こうの世界のこととか、たくさん聞かせてほしいわ」

「なのお」

「同意。それが一番楽しい」


「……そうなの?」


 私がたずねると、3人はうなずいた。

 そんなことなら……。

 それでもいいけど……。

 代わりに魔王領での生活も、いろいろ聞かせてもらうことにした。


 こうして私の初めての遊びは――。


 遊びについては失敗したけど、楽しい時間とはなったのでした。

 私は楽しかった。

 ウルミアたちも笑ってくれていたし、多分、きっと。

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