第130話 ご招待
「――そうですか。異世界で、姉とお会いに」
「お姉さんは元気そうだったよ」
「そうですか」
「石木さんの人生について聞かせてあげちゃったけど……。よかったかな?」
「構いません。むしろありがたく思います。僕では斜に構えてしまって、キチンと話すことはできないでしょうし」
「石木さんがイキシオイレスで、賢者の書の著者だと知って、かなり衝撃を受けていたよ」
「その顔は見てみたかった気もします」
メルフィーナさんと異世界で会話した後、私は現代日本で石木さんと合流した。
今日はまだ忙しい。
これからウルミアたちと遊ぶのです。
石木さんはイキシオイレスとして、アンタンタラスと真面目なお話だけど。
「そういえばパラディンが喚いていますが、このまま無視でよろしいのですか?」
「うん。いいよ」
「……お命じ下されば黙らせますが?」
石木さんは黙らせたいのか。
確かに最近、パラディンが異世界に行きたいとうるさい。
ただ、うるさいと言っても、関係者用のSNSルームだけの話で、配信で異世界のことを語っているわけではない。
外に対しては口を閉ざして、キチンと秘密を守っている。
なので厳しい処置をする必要はないだろう。
「あいつ、あれでも一応、うちの会社の出資者になるんだよね?」
「不本意ではありますが、人数も必要でして」
「ならやっぱり放置で」
「畏まりました。あとヨヨピーナの入社希望については、いかがいたしましょう」
「うん。いいんじゃないかなー」
異世界訪問の後、ヨヨピーナさんは正式に私たちの仲間になりたがった。
そのための入社希望だった。
私に異存はない。
事情をすでに知っている人の方がやりやすいし。
それに有能だしね。
広報なんて、バッチリだろう。
「わかりました。では、採用を通知します」
「うん。お願いー」
「あと、会社名はお決めになられましたか? 決まり次第登録を――」
「それはまた今度でお願い」
ごめん、忘れてた。完全に。
なんにしようか……。
決めないことには、会社をオープンできない。
会社は、異世界と現代をつないですごい取引をすることになる世界初の企業だ。
まあ、うん。
異世界については秘密なんだけど……。
ただ、それでも、もしかしたら将来、オープンになるかも知れない。
堂々たる会社名にしなければ……。
株式会社イセカイ。
とか。
それは、うん、安易すぎるのでやめておくけど。
それにしても本当に、うん。
異世界でも現代世界でも、たくさんのことが動き始めている。
異世界では、魔族側も人間側も、戦後の対応で大騒ぎなことは確実だ。
光の化身が現れて――。
消滅して――。
私がキナーエを占拠しちゃったしね……。
と言っても現状では、宣言しただけのことだけど。
とはいえ、武威を見せつけての宣言には力があったようで、人類軍も魔族軍もキナーエからは離れてくれていた。
現代では、会社だけではなくて、お掃除とかね……。
我が家の平和を石木さんたちが頑張って守ってくれているのです……。
私は関わっていないけど。
任せてほしいというので、すべてお任せなのです。
私も頑張るつもりではいますが。
なので私は、オトモダチパーティーを開催するのです。
今日はその前段階。
ウルミアとフレイン、それにジル。
魔族のオトモダチと遊ぶのです。
「じゃあ、行くね」
「はい」
石木さんを連れて、私はウルミア魔王城のテラスに飛んだ。
約束の時間には少し早かったけど、ウルミアにフレイン、ジルにアンタンタラスは、すでに待機してくれていた。
「なんだ、まだ生きていたのか、イキシオイレス」
「君こそしぶといな、アンタンタラス。そろそろ潔く灰になってはどうかね」
仲が良いのか悪いのか。
顔を合わせるなり、昔なじみの2人が悪態をついた。
「2人とも、ファー様の前で無礼」
すぐにフレインが諌めて、2人は口を閉じたけど。
まあ、うん。
私は構わないんだけどね。
「さあ、では。転移しよう。まずはキナーエの空に」
ポンッと。
すべての権能を解放した今の私ならば、みんなを連れての転移も簡単なのです。
次の瞬間には私たちは空に浮かんでいた。
正面には、超巨大な空中要塞――。
正確には戦艦が見える。
「これから皆様を、私の第二の我が家、ハイネリスにご招待いたします。目の前に見えているそれがそれでございます」
なんとなくバスガイドの気分で言ってみた。
反応は、ない。
ぐすん。
と思ったら――。
「あらためて見ると、本当に綺麗なの……。これが伝説なのねえ……。大皇帝陛下の居城に入れるなんてえ光栄すぎるのお……」
「そうねそうね……」
「カニカニ」
「ああ、私は今、感動を禁じ得ない。異世界でのうのうと生きてきた貴方には、決してわからない気持ちでしょうが」
「ハッ。何を言っているか。僕の人生も知らないで。しかし、美しいな」
「ええ。まさに美の結晶です」
よかった。
みんな、それなりには感動してくれているみたいだ。
フレインはいつも通りだけど。
ふふー。
まずは外観からで、正解だったね。
艦内への案内は、カメキチに頼んで、甲板から行う手筈になっている。
艦内は、はっきり言って豪華だ。
表の部分は、本当に王宮とか、そんな雰囲気がある。
なんと謁見の間まであるのだ。
きっとみんな、感動してくれることだろう。
「さあ、行こうか」
私はみんなを連れて、カメキチの待つ甲板へと飛んだ。
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