第129話 メルフィーナとの再会
私が転移したのは、メルフィーナさんのいるミシェイラ神聖国。
その中心にある大聖堂の庭だ。
ミシェイラ神聖国は、北方大陸の南側に位置する。
キナーエ浮遊島帯域に近くて、いかにも魔族の襲撃を受けそうな場所だけど、とても平和で豊かな国だという。
魔族の襲撃は、この20年でわずか3度だけ。
魔族が転移魔法で奇襲をかけることは、ほぼ不可能な国だという。
今代聖女メルフィーナさんが中心となって作る対魔結界が、それだけ強力なのだ。
私は、うん。
はい。
普通に転移できてしまいましたが。
さて。
大聖堂の庭は、とても美しく整備されていた。
噴水がキラキラと輝いている。
幸いにも近くに人はいない。
眠らせた勇者パーティーは、噴水の脇に置いていくことにした。
遠からず、誰かが気づくことだろう。
あとはお任せだ。
私は姿を消して、いったん、空に上がる。
範囲を広げて、光の魔力を探る。
ひときわ大きな反応は、すぐに見つけることができた。
それは、すぐ近く。
大聖堂の中だった。
早速、行ってみる。
すべての権能を解放した今の私であれば、結界も壁も、すり抜け自在だ。
なんの障壁にもならない。
メルフィーナさんは大きなホールにいた。
礼拝堂だろうか。
居合わせた若い神官たちに何やら話していたけど――。
私がホールに入ったところで、
「今日はここまでとします。皆、それぞれの修行と仕事に戻るように」
話を中断させて、1人、奥の部屋へと入った。
奥の部屋には従者らしき人がいたけど、メルフィーナさんは1人になりたいからと、その人を残してさらに歩いていった。
そして、階段を何度も上って――。
最終的には、上階にある、いかにも豪華な部屋に入った。
その部屋でようやく、メルフィーナさんは椅子に座った。
と言っても、奥にある執務机のものではなく、応接用の椅子だったけれど。
「もういいですよ、どうぞ。ここは私の個人部屋です。無断で入ってくる者はいません」
メルフィーナさんが私に笑いかけた。
まあ、うん。
わかっていたけど、姿を消しても気づかれていたか。
さすがは転生者の聖女様だ。
「こんにちは、メルフィーナさん」
私はテーブルを挟んだ対面の椅子に座らせてもらった。
「こんにちは、ファーさん。しかしファーさんの前では、私たちが精魂を込めて形成した防御結界も役に立たないのですね」
「あはは。すみません、いきなり無断で」
「いいえ。無断でなければ、会うことなどできないでしょうし」
挨拶の後、冷たいものでもいかかですか、と聞かれて、せっかくのでいただくことにした。
メルフィーナさんが自ら、部屋の脇に設置された金属の箱から2本の瓶を取り出す。
テーブルに置かれた瓶はキンキンに冷えていた。
「すごいですね。冷蔵庫があるんですね」
「こちらの世界も、魔術の力で意外と発展しているんですよ。とはいえ、庶民が気軽に使えるものではありませんが」
瓶の蓋を開けて、一口飲んでみた。
入っていたのは水だ。
すっきりと口が潤う、飲み心地の良い軟水だった。
「それで、今日は遊びに来てくれたのですか?」
「いいえ。実は今度、遊びたいなと思って、そのお誘いに来ました」
「私を、ですか?」
「はい。あと、できればリアナも。よかったら他の人たちも」
「他の人たちというと……」
「魔王も参加するので、国王とか、ですかね」
「それは、どのような遊びの会なんですか?」
「遊びの会というかパーティーです。オトモダチ・パーティー。私、たくさんのオトモダチを作りたいと思いまして」
「それは素敵なお考えですね」
メルフィーナさんがクスリと笑って言った。
「ありがとうございます。あと手土産として、魔王領で預からせていただいていた勇者パーティーを運んできたので、お返しします」
「……勇者アレスですか?」
「はい。庭に置いてきました。誰かが見つけてくれると思います」
「彼は討たれたと思っていました。あの時――。彼にかけた加護が切れたので――」
「一度は殺しましたが、後で蘇らせました」
「そうですか――。ありがとうございます」
深々と頭を下げられたけど――。
「ただし、当然ですが、力は奪わせていただきました。メルフィーナさんでも簡単には解除できないように全力で。普通に暮らすことはできると思いますが、なので再び、戦場に出そうとすることはおすすめしません」
「わかりました。そのようにいたします」
メルフィーナさんが再び頭を下げる。
「ご理解して下さるんですね。ありがとうございます。反発されるかとも思っていました」
「敵の居城に強襲をかけたのです。失敗すれば殺されるのが当然。生かして帰してもらえるなど奇跡にも等しいことです」
「そう思っていただけるのなら、連れてきて良かったです。あと、これがオトモダチ・パーティーの招待状です。お受け取り下さい」
私はアイテムBOXから招待状の束を出してテーブルに置いた。
「ありがとうございます。それなりに枚数がありますね。私とリアナさんと、あとは各国の権力者に渡せばいいのかしら」
「人選はお任せします。先程は国王なんて言いましたが、絶対ではありませんので」
「たとえば、他の勇者とかは?」
「はい。大丈夫です。私と仲良くしてくれるのなら、ですけど……」
「わかりました。その点は留意しておきます。私はもちろん参加させていただきます。リアナさんも参加すると思います。リアナさんは、ずっとファーさんとお話をしたがっていますから。先日の異世界のことなど、いろいろと」
「あはは。ですよね」
それはわかる。当然だろう。
「――ファーさん、一点、真面目な質問をいいでしょうか?」
「はい。どうぞ」
「神は、お隠れになられたのでしょうか?」
「声が聞こえなくなりましたか?」
「やはりご存知ですか……。あの戦争の後、祈りの感覚が明らかに変わりました。包み応援してくれるような暖かさが消えて、ただ機械的に力だけが下りてくるような――。そんな無機質さを祈りの先に感じてなりません」
さすがはメルフィーナさん、もう気づいたとは。
どうすべきか。
私が見知ったことを伝えるべきか、否か。
考えた末に私は――。
「メルフィーナさんの感覚は、正しいと思います。それがすべてです」
と、答えるにとどめた。
神界のことを軽々しく口にするのは、やめておくべきだ。
そう判断した。
「そうですか……。ありがとうございます……」
「真面目でない質問もあれば聞きますよ」
「弟は元気ですか?」
「とても元気ですよ。現代日本で頑張ってくれています。オトモダチ・パーティーにも来るのでお話してあげて下さい」
「日本では、ほとんど会話もできず――。次もできるか不安です」
「あはは。そこは頑張って下さいよ」
「――弟は魔族で、しかも日本にいるのですね」
「いろいろありまして」
メルフィーナさんは、なんと石木さんの実の姉だった。
だけど2人は、日本ではほとんど会話しなかった。
そっけないものだった。
石木さんとはあの後も会っているけど、お姉さんのことは聞かれていない。
時田さんと2人で忙しそうにしている。
まあ、うん。
それでも興味がないわけではないのだろうけど……。
私もね、ファーになるまでのヒロとの関係を思えば、よくわかる。
身内との関係は難しいものなのだ。
私の場合は、ファーになっていろいろとヒロが巻き込まれる中で、自然とカナタとしても仲良くなれていけたけど。
「教えいただくことは……。できませんか?」
「そうですね――」
私は迷って、でも、石木さんの時空を超えた数奇な人生については――。
メルフィーナさんに語って聞かせてあげることにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます